2012年08月30日(木) |
アール・エドレッドの場合(仮)・6 |
「――ってことがあったんだ。どう思う?」 今となっては居候宅となってしまった友人の家で。アールは彼に声をかけた。 「どう思うって、変な話としか言いようがないだろ」 一部黒みがかった白髪の青年が率直な感想を口にする。確かに先日会った人間を誰も覚えていないというのはおかしい。周囲の反応がおかしいのか、それとも。 「もしくは」 「もしくは!?」 思わず身をのりだしたアールに青年は――レイは、気むずかしい顔で意見を述べる。 「……生き霊とか?」 しばしの間が空いた後。なんでもない、忘れてくれと片手をふった。だが、アールにとってはなんでもないどころの話ではなかった。 「生き霊か!」 普通の人間なら眉をひそめるか怖がるのかもしれない。そんなはずないだろと冷静に指摘してもおかしくない。だが、アールという男には幸か不幸か霊と呼ばれるものに対する経験があった。 あれはいつだっただろう。幽霊が出るという噂を聞きつけて、退魔師のリーシェという少女と劇場を訪れて。 「そっかー。生き霊かー。弱ったな」 「全然よわったようには見えない」 友人の指摘はなんのその。アールの頭の中には次の旅行記の設計図がパズルのように組み立てられていった。 前回はリーシェのおかげで幽霊を撃退することができた。だが後になって考えてみればあっという間に終わってしまってもったいなかったような気がする。幸い、男は冷酷な雰囲気や恐ろしげなそれも全く感じられなかった。うまくいけば別のネタもつかめるかもしれない。
「タイトルは『突撃・海竜亭に潜む幽霊!?』これに決まりだ!」 「まだ幽霊って決まったわけじゃないだろ」 レイのツッコミをよそに、アールは拳をかたく握った。
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