2012年08月28日(火) |
アール・エドレッドの場合(仮)・4 |
「俺はアール・エドレッド」 人なつっこい笑みにつられて自らも名乗りをあげる。 「道楽息子って言ってたけど、何やってたんだ?」 そもそもあれでは完璧な行き倒れだ。人のことは言えた義理じゃないが、それなりの事情があったのだろう。 「ここ(ティル・ナ・ノーグ)を探していろんな場所をさ迷ってたんだ。西へ東へあてのない一人旅ってところかな」 ティル・ナ・ノーグは噂があるのは知っている。だが探し当てる場所でもさ迷う場所でもないはずだが。 「なんてね。本当はここへ来る勇気がなかっただけかな」 さっきまでの表情が嘘だったかのように寂しげな表情を見せる。だが一瞬にして『食べないともったいない』と皿に顔を近づける。 「それで、たどり着いた感想は?」 見ていて飽きないとはこういう奴のことをいうんだろうか。何気なく聞いてみると男の紫の瞳が揺らいだ。 「……とても、綺麗な場所だ。全てが輝いて見える」 できれば二人で見たかった。そんなつぶやきはアールの耳に届くことはなく。しばらくは二人、黙々と食事をたいらげることとなった。
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「ありがとう。君のおかげで助かったよ」 「俺こそごちそうさま。かえって悪いな」 これくらい、どうってことないさと笑い握手を交わした後、二人はそれぞれの目的地に向かって歩く。 「俺、冒険記書いてるんだ。何かいいネタがあったら教えてくれよ」 なんだったら書いた記録も読ませてやる。明るく告げると藍色の髪の男は二つ返事でうなずいた。 「わかった。今度会えたら考えとくよ」 「約束だからな!」
「……また、あえたらね」
こうして、この日は幕を閉じた――はずだった。
過去日記
2006年08月28日(月) 夏休みもあと少し 2004年08月28日(土) ゲームとどーでもいい記憶力 2003年08月28日(木) 続・文明人への道
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