2012年08月18日(土) |
伊織の手紙−海より−(仮)・16 |
「オレは医学のことはよくわからない」 真剣な表情でユータがつぶやく。 「けど、病気や怪我で困ってる人を助けたいと思ったから異国からここに来たんだろ? なのに、こんなところで夢を終わらせてどうするんだ」 ぽつぽつと言葉が滑り落ちる。 「本当に人を助けたいと思うなら、まずは自分の身の安全を第一に考えるべきじゃないのか」 いつになく真面目で真剣な眼差し。そして、その台詞は常々わたしが彼に言ってるものと同じ内容のもので。 きっと彼なりにわたしを心配してくれたんだろう。 「ごめんなさい」 素直に謝罪の言葉を口にすると『ん』とひとつうなずいて眼鏡をかけた。 「そういえばユータって泳げたの?」 水着を着てなかったからてっきり運動ができない、もしかしたら泳げないのかもと思ってた。海中のしかも遠い場所までやってこれたってことは相当体力がないか泳ぎが上手じゃなきゃできるはずがない。 そう思って尋ねると兄弟子達に鍛え上げられたのだとか。全員に会ったことはないけど確かにあの個性的な面々のなかで育てば体は自然と鍛え上げられるということなんだろうか。 しばらくすると視界に藤の湯や施療院のみんなの姿が認められるようになった。 手を振り替えそうとして、顔をしかめる。そういえば足首をひねっていたんだった。 少し前を歩いていた相方が首をかしげ、ああと納得したようにうなずく。 「ごめん。ちょっとだけ肩貸してくれる――」 という前にひょいと抱き上げられてしまった。 いわゆる横抱き。お姫様だっこ。 「こっちの方が早い。怪我を悪化させたくないだろ」 年頃の女の子が憧れるものなのに。よりによってこいつにされてしまうなんて。でも緊張と疲れてしまった体は全然言うことをきいてくれなくて。大人しく彼の提案にのっかることにした。
過去日記
2006年08月18日(金) 「EVER GREEN」10−1UP 2005年08月18日(木) 精霊流しに行ってきました 2004年08月18日(水) これからの執筆予定
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