2012年05月19日(土) |
白花(シラハナ)への手紙(仮)98 |
「世話になりましたわね」 帰りの際のメリーベちゃんの表情は清々しかった。 「こちらにいらした時はぜひ寄ってくださいね」 「まあ、考えてあげなくもないですわ」 相変わらずの高飛車だけど、なんだか憎めない表情はそのままで。世間で言うところのお嬢様がどう言うものかはわからないけど、こういう女の子ならそばにいてもいいのかな。 「ところでひとつ聞きたいのですけど。あなた、朝露(あさつゆ)の君をご存知?」 「朝露の君?」 聞きなれない言葉におうむ返しに尋ねると、女の子はそっぽをむいて続けた。 「水辺に――噴水のそばにいましたの。声をかけても気づいてくださらなくて。ですのに、ずっと朝陽に向かって何かを掘り続けていましたの」 「朝日に向かって」 「真摯な顔で芸術を作り上げる姿。霧が晴れると同時に彼の周りが朝陽に照らされて、霧が一瞬で晴れていきましたわ」 「えっと、メリーベちゃん?」 話が見えずに声をかけるも、興奮冷めやらぬまま彼女の話は続く。 「光る汗に眼鏡が輝いて。まるで彼の方こそ芸術を人型にしたような」 次々と出てくる賛辞の声になすすべもなく、聴く側としてはただただうなずくしかなかった。 「わたくしが帰ってきたら、彼の君のことを教えてくださいな」 「よくわからないけど、もし見つけたらその人のところに連れて行ってあげるね」 「本当ですわね? 約束ですわよ!!」 こうしてわたしは小さなお客様と別れた。
ちなみに、この件には後日談がある。 「ユータってこういう修理の仕事もするの?」 「時々は」 ティル・ナ・ノーグの中央にある噴水広場。人が集まるだけあって周囲にはたくさんの彫像が飾られている。その中にユータスが師事する師匠や兄弟子の作品があるんだそうだ。彼自身の作品はないけれど、修理には時々駆り出されてるんだとか。 「この前、噴水の修理をしていたなんてことは──、なんでもない」 目の前で、黙々と彫像の修復につとめる男子。時おり眼鏡をはずして汗をぬぐって。 「……まさかね」
そのまさかが本当だったこと、メリーベちゃんがいうところの『朝露の君』が後のわたしの相方だったことが発覚するのはそれから一年先のことになる。
過去日記
2010年05月19日(水) 委員長のゆううつ。43 2004年05月19日(水) 「SkyHigh,FlyHigh!」Part,10UP
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