2012年05月10日(木) |
白花(シラハナ)への手紙(仮)・90 |
「メリーベちゃんですね」 「失礼な! メリーベ様ですわ!!」 憤然として声をあげるお客様に人知れず笑みが漏れてしまう。同世代なのにニナちゃんともウィルくんとも違う感じが。子どもっていろんな種類があるんだなあ。 「何をじろじろ見ていますの。失礼ですわ」 形のいい眉がきっと吊り上がる。確かに見つめ続けるのはよくなさそう。 「失礼しました。荷物を運びますのでどうぞこちらへ」 「ありませんわ」 ベルガールよろしく荷物を荷車に乗せようとして、受け取ろうとした手が止まった。 「ないんですか?」 「身ひとつで充分ですわ。それともおまえはお客様に向かってそんなことも詰問しますの? 従業員としての態度がなっていないんじゃなくて」 お金ならありますわと受付に金貨を広げられて。宿のおじいさんおばあさんと確認したけどこれはどう見ても本物だ。 身ひとつでやってきた身なりのいい女の子。どうやらとても訳ありのようだ。
「どうしようかねえ。迷子かい?」 「そうかも知れません」 小さなお客様を客室に案内して、宿の従業員全員で作戦会議。 「わけありみたいだし役所にでも引き取りに来てもらうかい?」 「一人だと何かあった時色々大変だろうしねえ」 確かにそれが最善策なんだろう。だけど、わたしにはそれが一番とは思えなかった。その表情がどこかで見たような気がしたから。 「あの。よかったらなんですけど」 だから。気づいたら全く別の提案をしていた。
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