夏は暑い。 わかっちゃいるが、暑い。 一人暮らしの学生にクーラーなんてしゃれたものはなく。目の前にある扇風機の風を無造作に受けるしかなかった。 気温は三十二度。時刻は午前十時。 朝っぱらからこれじゃ昼には気温はもっと上昇するだろう。そう考えると、心なしか体感温度が三度ほど上がったような気がした。 「どうぞ」 差し出された麦茶をぐっと飲み干す。 冷たい液体が喉をすべるようにとおっていく。 空になったグラスを差し出すと、そいつはにこやかな笑みで受け取った。 「幽霊って三日でなれるもんなんだな」 相手の姿を見ながらしみじみ思う。 普通なら奇声をあげたり腰が抜けるかどうかして、その場から逃げ出すのが定石なんじゃないのだろうか。けれども実際目の当たりにしてみるとどうだ。 多少風変わりではあるものの、慣れてしまえばどうってことない。 「あの」 遠慮がちな声に我にかえる。振り返るとそいつはおずおずと口を開く。 「わたし、もしかして幽霊だと思われてます?」 これには驚いた。
過去日記
2005年05月10日(火) 伊達眼鏡について 2004年05月10日(月) 母について
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