2012年05月07日(月) |
白花(シラハナ)への手紙(仮)・87 |
「ちょっと、そこの」 声をかけられたのは掃除をしている最中だった。 「そこの黒髪のあなたですわ」 周りを見回してみる。あたりには宿の従業員さんと、わたしくらい。その中で黒髪なのはわたしくらい。 「わたしですか?」 「あなた以外に誰がいるといいますの。ちょっとわたくしの元へ来なさい」 初対面なのに強気な発言の主は、わたしの腰より少し上くらいの高さの女の子だった。
「悪いけど、おじいちゃんの家を手伝ってくれないかしら」 朝起きるとエリーさんに申し訳なさそうに頼まれた。おいじちゃんというのはおばさまの実のお父様のことで、アルテニカ家の近くで宿を経営している。本当に近くなので時々様子見も兼ねて食事を届けにいくこともあるとか。今日もそのつもりだったけど、急な用事で都合がつかなくなったらしい。 「掃除と受付を頼まれていたんだけど都合がつかなくなっちゃって。あの子は仕事中だし、頼んでもああでしょう?」 あの子とは言わずもがな。今日は朝早くに工房へ出かけて行ってしまった。確かに掃除はできたとしても、受付──人と接する業務は難しそうだ。もっともわたしだって接客業ができるとは限らないけど。 『居候しているアルテニカ家のもとで勉学にはげむこと。それが私の元で学ぶ条件だ』 エリーさん宛に書かれた手紙にそう書いてあったと後から聞かされた。そもそも居候させてもらっている身だし断る理由はないので二つ返事で引き受けた。
過去日記
2010年05月07日(金) 委員長のゆううつ。33 2007年05月07日(月) 「EVER GREEN」11−13UP 2004年05月07日(金) 「EVER GREEN」5−14UP
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