2012年04月17日(火) |
白花(シラハナ)への手紙(仮)・68 |
「準備はいいか?」 ソハヤさんの声にうなずきを返す。お土産も持ったし紹介状も持った。あとは出たとこ勝負だ。
「邪魔するぞ」 ソハヤさんが声をあげると、中からはいはーいと軽めの声がとどいた。 「いらっしゃい。トウドウの旦那にそっちは……イオリちゃん?」 「先日はお世話になりました。これ、良かったら食べてください」 あらかじめ用意していたお土産のクッキーの入った包みを手渡す。リンゴではなかったものの、友人の作ったクッキーは包みをあけるとほのかにあまずっぱい香りがした。 「おいしそう。さっそくいただくよ。トウドウの旦那は何の用?」 「先生に頼まれてたもんができたから持ってきた」 先生はとソハヤさんが尋ねると、そういうことならとリオさんは待っていてときびすを返した。 「待たせて悪かったね。トウドウ」 出てきたのは腰まで届く赤い髪をゆるく三つ編みにした、わたしより少し背の高い―― 「女の人!?」 つい出てしまった声に慌てて口をふさぐ。ここティル・ナ・ノーグで一、二を争う名医だとは聞いていたけれど女の人とは思わなかった。 「こちらのお嬢さんは?」 「イオリちゃん。この前言ったでしょう? 医術を学ぶために白花(シラハナ)からやってきた子がいるって」 ああそうだったと、緑の瞳が興味深そうにこちらをのぞく。 「宮本伊織……イオリ・ミヤモトです。よろしくお願いします」 「グラッツィア施療院にようこそ。私が院長であり当主のイレーネ・グラッツィアだ」 この出会いが、後の異国での人生を大きく左右することになる。
過去日記
2010年04月17日(土) 委員長のゆううつ。15 2006年04月17日(月) 「EVER GREEN」8−11UP 2005年04月17日(日) 「SkyHigh,FlyHigh!」Part,51UP
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