つれづれ日記。
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2012年03月07日(水) 今宵、魚のみる夢は(仮)・6

「見て。リザ。鳥がたくさんいるわ」
 時は流れて。テティスは16歳の女性に成長した。オレも外見はそんなにかわらなかったけど、彼女の協力もあって人の姿をとどめられるようになった。
「すごいな。カモメだよ。これだけ見るのは久しぶりかも」
 ヒトの目を盗んではこうして海に繰り出すようになったのは何度目だろう。人間の生活基準もずっと観察してきたおかげでずいぶんまともになったしね。
「ティル・ナ・ノーグ?」
 初めて常若の名前を聞いたのはそんなときだった。
「聞いたことがない? とっても綺麗なところなんですって」
 上品な栗色の髪を風でとばないようそっとおさえて。翠玉の瞳を輝かせて話す様はオレが言うのもなんだけど、その。……綺麗だった。
「ここからずっとずっと西にあるとてもとても綺麗な場所。おとぎ話だと思っていたけど本当にあるんですって」
 人間の成長速度って本当にはやいよね。助けてもらったときは小さな幼子だったのにいつの間にか追い越してずっと先をいくんだ。寿命の差だってことはわかっていたけどそれでも男としては複雑だったな。
「いいなあ、リザは。あなたならそんなところ、あっという間に着いちゃうんでしょうね」
「さすがにそれはないと思うけど」
 それでも月日をおうごとに綺麗になっていく彼女と代わり映えのないオレがこうして海岸を歩いている。なんだか不思議な感じがした。
「行ってみたいなあ。ティル・ナ・ノーグへ」
 そして、月日を重ねるごとに時々見せる寂しそうな笑顔がたまらなく胸をしめつけた。
「約束しようか」
 言葉は自然ともれた。
「オレが君を連れて行く」
 君が望むのなら。
「連れて行ってあげるよ。ティル・ナ・ノーグへ」
 オレが側にいてあげる。
「いつか、世界で一番綺麗なものを二人で見に行こう」
 だから。君はそこで笑っていて。






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