2012年02月10日(金) |
白花(シラハナ)への手紙(仮)・27 |
がさっ。そんな音がして背後から人が姿を現す。 寝そべっていたものだから慌てて体を起こして。もしかして魔物かと思ったけど姿は人間をしていた。ひょろながい男の子。一言でいえばそんな感じ。わたし自身も背は高い方だと思うけど、相手の方がもっと高い。無理矢理体格を縦にのばしたというか、まるで棒みたいだというべきか。ぼさぼさの薄茶色の髪という後ろ姿が視界に入った。 がさ、がさ、がさと草を踏み分けて、さらに奥へ入っていこうとする。その姿はいつかの光景に似ている。子どもの頃から一緒にいてボール遊びをしていた。遠くに投げてしまったときは、こっちが心配になるくらいいつまでたっても帰ってこなかった。ようやくもどってきて誇らしげにボールを口にくわえて。頭をなでであげると嬉しそうに尻尾を振って。 あの子がいたから今のわたしがあると言っても過言ではない。あの子の名前は。 「ユウタ?」 思わずつぶやくと相手がふりかえった。 ダークグリーンの一重の吊り目。目を細めてわたしのほうをじっと見る。上から下までじいっと見つめて。 「あの……?」 わたしの顔に何かついてるんだろうか。 じっと見つめ合うこと数秒後。 「違う」 何が? と問いかける間もなく再び歩き始める。一体なんだっだんだろう。首をかしげても答えが出るわけじゃなく。いいかげん宿を探そうと立ちあがろうとして、足下にかたい感触を感じる。 それは視力を矯正するための道具。白花(シラハナ)でもまれに使っている人を見たことがある。 小ぶりの眼鏡。確かめるまでもなく、それはさっきの男の人が落としていったものだった。
過去日記
2010年02月10日(水) 「世界観構築における100の質問」その10 2005年02月10日(木) 誠に申しわけありませんが 2004年02月10日(火) 椎名の温泉日記。2
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