2012年01月23日(月) |
白花(シラハナ)への手紙(仮)・10 |
触手が足下まで近づいてくる。 異国の地で医学を学ぶために旅だったのに、志なかばで、しかも怪物に襲われることになるなんて。子どもの頃は『体さえ鍛えておけばなんとかなる』っていろいろたたきこまれたけどそれでも無理がありすぎる。 「最後通告だ。矛をおさめる気はあるか」 こんな緊急事態と相反するかのように、お兄さんは大ナマズにむかって淡々と話しかけていた。 「おさめなければ――」 言い終わるよりも早く、魔物の触手がおそいかかってくる。やっぱり彼は魔物と会話をしていたの!? でも結果をみれば一目瞭然。向こうには敵対する以外の意志はない。 「残念だ」 ぽつりとつぶやくと。お兄さんは目を伏せた。 「吾(われ)は海に連なりし者。吾が名をもって命ず」 唇から漏れるのは初めて耳にするフレーズ。 「氷雪をもって目前を蹴散らせ」 空気が冷たくなった。季節は7月の下旬だから暑いことはあっても寒くなるなって事はありえない。 「てめェの一家のおとしまえはてめェでつけないとな」 さっきまでは優しそうなお兄さんだったのに、紫の瞳がとても冷酷に感じられる。まるで、お伽噺に出てくるような氷の女王みたい。 お兄さんは一体――
氷のつぶてが怪物めがけて襲いかかる!
耳をふさぎたくなるような咆哮の後、振動はぴたりとなりをひそめた。
過去日記
2011年01月23日(日) 「ほのぼのお題」その6 2010年01月23日(土) 「文章修行家さんに40の短文描写お題」その20 2006年01月23日(月) 風邪 2005年01月23日(日) 文を書くときその3
|