2012年01月09日(月) |
たまにはお花見を(仮)2 |
その日の夜。フォルトゥナートは厨房のそばにいた。もちろん空腹になったから――というわけではない。数時間前の領主の言葉が気になったのだ。 もう一つは単純な好奇心もあった。夜な夜な厨房に響く物音。城の中なのだ、何度も続けば誰かが犯人捜しにやってくるということは考えてみればすぐわかるはず。にもかかわらず物音をたてるとはいったいどんな者なのだろう。 ふと背後に人の気配を感じた。 否。これは人と呼んでいいものなのだろうか。 「やっと見つけた」 否。声だけを聞けば人のそれよりも非常に弱々しい。まるで、十数年来の友人に巡り会えたかのような、遭難すれすれで人に遭遇したかのような。 「ここってさー。警備きついからこまっちゃうよ。騎士団だっけ? 君って城の人たちと仲いいんだよね。だったらさあ、もう少し警備をゆるくしろって言っておいてよ」 持っていた杖で相手を威嚇する。 「いい加減にしてください。リザ・ルシオーラ」 相手はこともなげにひょいと避けるが想定内。一度、本気で振り下ろしたらどうなるだろうかと考えたこともあるが頭をふってうちけした。貴重なマジックアイテムを賊でもない、場合によっては賊以下の相手に使うことはないだろう。 「折り入って頼みがあるんだ」 「不法侵入で強制排除しますよ」 彼とは不本意ながら縁がある。仮にも領主が助けた命を無下にすることもないだろう。踵を返し再び警備に戻るはずだった。 「ここの厨房に一緒についてきてほしい」 この言葉を聞くまでは。
過去日記
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