2010年03月04日(木) |
つかれてるひと(仮)。 |
ちりん。 風にゆられ鈴の音が響く。 そう言えば去年かったものだった。なんとはなしに出かけ、夜店で買ったんだった。
風鈴の音色はきれいで。ほんの少しだけ暑さを和らげてくれる。だけども実際の温度までは和らげてはくれないわけで。 「はぁ」 息をつくと、背後から白い手がのびてきた。 「どうぞ」 手の先には湯のみ。その中には麦茶。御丁寧に氷まで浮かべてある。 「こりゃどうも」 遠慮なくうけとり口にする。乾いたのどに冷たい感触が気持ちいい。一気に飲み干すと、白い手の主が満足げに微笑んだ。 「暑い時には冷たいものが一番です」 手の主は浴衣を着ていた。 紺色の浴衣。すそには小さな花の模様がほどこしてある。髪はひとつに結いあげかんざしでとめてある。 浴衣姿の女性。今の時期ならさして問題もないだろう。今の時期なら。 だが、これが一か月続くなら。 再度息をつくと、彼女は心配そうにこちらの顔をのぞきこんだ。 「つかれてるんですか?」 空になった湯のみを手にとりながらそう聞く彼女。眉根を寄せる姿は愛らしく。少しだけ、今の状況が和んだ気がした。 けれども、鈴の音も麦茶も彼女の表情も。今の状況を根本的に解決してくれるわけではなく。 彼女を見つめること数秒。俺は三度目の息をついた。 「うん。つかれてる」 「そうですか。それは大変ですね」 湯のみを手にしたまま、片付けますとばかりに彼女は体の向きを変える。 ぱたぱた。そんな足取りや足音は全く聞こえない。 違う。ぱたぱたじゃない。こういう時はすうっと、だ。 視線を浴衣のすそにやるも、そこから先は何も見えず。遠のく後ろ姿に四度目のため息。 彼女には足がなかった。
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思いついたものの試し書き。 気が向いたら書くかも?
過去日記
2007年03月04日(日) 「EVER GREEN」11−7UP 2006年03月04日(土) 「SkyHigh,FlyHigh!」Part,95UP 2005年03月04日(金) はたらくようになって 2004年03月04日(木) SHFH10−5
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