Mother (介護日記)
IndexYesterdayTomorrow


2003年04月19日(土) 入院27日目 ( K先生の処方箋 )

今日は、ハウスのプリンと抹茶の葛餅と買った茶碗蒸しを持って行った。

母はベッドで眠っていた。


廊下で会った看護婦が振り返って話し掛けた。
私の方も、看護婦に母の様子を聞きたいと思っていたが、
「見ての通り」なのだから仕方ないかな、とも思って躊躇っていたところだった。

「今日はね、お母さん、かなり疲れているみたいで、朝からほとんど眠ってる。
 食事もほとんど摂れないし」


目を覚ました母に、一旦は補聴器をつけたものの、
眠るなら返って邪魔になるので、はずしてしまった。
最近は話すのも大変なので、特に話し掛けたりせずに、ただ手をつないでいる。


持って行ったプリンを「美味しい」 と言って半分強食べた。

食事は今日から流動食。
流動食になると何を食べているのかがわからないので、毎回メニューが渡される。
重湯は二口ぐらい。
白と緑と茶色のペースト状のおかずは、それぞれ半分づつ。
唯一形のあるゼリーだけは全部食べた。



帰り際、ナースステーションの入り口で看護婦と話しをしている主治医のK先生を見つけた。
今日は木曜ではないが、白衣を着ているところをみると宿直なのか?

この先生の顔を見るとホッとする。

「あ〜先生、こんばんは。
 この間の木曜日には、母のベッドまで来ていただいたそうで、本当にありがとうございます」

「本人はそれを覚えていた? 
 なんだかグッタリして反応が悪かったみたいだけど・・・僕だってわかったのかなぁ?」

「私は看護婦さんから先生が来てくれたと聞いたんですけど」

「今日はどうですか?」

そうだ、K先生の場合、こちらが話しやすいように質問をしてくれるんだ。

「なんだかまたここ数日で弱ってしまったみたいで・・・」

「舌はどうですか?」

「真っ白です」

「あぁ、そりゃカビだ。 ステロイドをたくさん使っているからね」

そう言い終わらないうちに、K先生は母の病室に向かって歩き出していた。

まだ目を開いていた母はすぐに先生を見つけ、右手を振って笑顔を見せた。

その手を先生はいつも握ってくれる。

母は声がすぐには出なかったが、その顔と手で一生懸命喜びを表現している。

「あ〜、今日は僕だってちゃんとわかるみたいですね(笑)」

そして口の中を確認した。

「それじゃ抗生剤を出しましょう。 看護婦さん、アレを・・・
 そんなに悲観的になることはありませんよ。
 木曜日に比べて今日はとっても元気そうじゃないですか。
 大丈夫、これなら治りますよ」

「ホント、先生に手を握ってもらうだけで母は幸せ、天国なんです。」

「いやぁ・・・そう言って死んでいった人が何人もいますけどね(^_^;)」

一瞬、え?と思ったが、謙遜なのだろう。


勤務が終わりショッキングピンクのTシャツ姿に着替えた看護婦と話した。

「私のおじいちゃんも入院していた時に、K先生に看てもらっていたんですけど、
 わかりやすく説明をしてくれるし、毎日病棟に来て話し掛けてくれるし、
 患者だけじゃなくって家族へのフォローもちゃんとしてくれて・・・

 私はこういう仕事をしているのに、
 実際に身内が入院してもずっと付いていてあげられないし、 
 ずっと看ているのもまた辛くって。
 それに辛い顔を見せるわけにもいかないし。
 そんな時でも、K先生にはいろいろ励ましてもらいました。 

 N先生(母の今の担当医)も、毎日病棟に来てくれるんですが、
 K先生とはまったくタイプが違いますからね・・・」

医者の腕についてはわからないが、言葉やスキンシップで救われる患者も多いはずだ。


『もうダメだ』 とわかってはいる。
だけど、それでも自信たっぷりに「大丈夫。 治りますよ」 と言ってもらえるとうれしい。
それが患者と家族にとっての一番の薬。 さすが、K先生の処方箋。

嘘だとわかっているけどアナタにならだまされてもいいと思う・・・なんてね、恋愛みたいだな。


IndexYesterdayTomorrow


ALLURE  ☆ MAIL

読んだら、押してね ↓ 

My追加