世を忍ぶ仮の日記
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朝、学園祭に行くために少し早くに起きて、妹の部屋を通り過ぎると、何かにうなされている様子。ウキウキと近づく。 「どうしたの?」 眠っている人間に話しかけてみると、見事返事が返ってきた。素敵な返事が。 「中国はいやぁ……いやっ」 泣きそうなくらいにうなされている。 「何がそんなにイヤなの?」 興味本位に訊ねてみた。 「名前がしょっちゅう変わるけえいやあ〜」 「それって、今の中華人民共和国の事で良いんだよね?」 「うん」 それだけ言って眠る妹。 でかける前にもう一度「中国は大丈夫?」と訊ねると、何故か嬉しそうな顔をして「頑張っとる」と満足げに言っていた。 頭の中が「あいかわらず面白いヤツだなあ、こいつ」というので頭がいっぱいになりつつお出かけをする。
学校に到着して、直ぐにメールを打って、友人がどこにいるのか訊いてみたら、声楽科の歌のイベント会場に居る、との事で、ダッシュでギリギリ開始には間に合う。 最初はクラシックのアカペラ(綺麗)。2部がミュージカルメドレー(楽しい、可愛い)。ミュージカルメドレーの方は、懐かしい曲がいっぱいいっぱいあって、笑顔がこぼれました。『天使にラブソングを』の曲を聴くのは何年ぶり!? 自分たちが合唱コンクールで歌った曲じゃなかったから踊れなかったけど(笑)「おお! 蘇る我が青春! あの先輩は格好良かった!」というので目頭が熱く……アメリカンドリーム〜……。ウエストサイドやサウンドオブミュージック、コーラスライン、レントなどもりだくさんで、男性も歌うので、今まで女子クラスノリで育った私には、男トニーが新鮮! 耽美トニーで育成された(?)私の脳みそですが、トニーって実は健康優良児なんだよね…。私のトニーは病弱で今にも倒れそうな美形のままなのよ。永遠の、トニー……(懐古モード)。折角だから『エリザベート』のミルクの大合唱も聴きたかったね! と横でエリザベートは言っていたが、声楽科の人に地声オンリーの『ミルク』の歌は可哀想でしょう? というと、 「声楽科っぽい綺麗な『ミルク』も案外面白いかもよっ!」 と言うことでリヒテンシュタイン(エリザベートの妹)と3人で合唱して遊んでました。かなり笑えます。綺麗な『ミルク』 声楽科の高校生の男の子なんて、すっごく不器用そうにボックスステップ踏むから果てしなく私のツボを刺激してやみませんでした。ステップ踏むのに必死になりすぎて歌って無い時があるよー!! 目が離せないっ。
すんごく楽しかったね〜、と晴れ晴れとしながら、次は『エリザベート』の大学1年有志版を観る為席取りをしつつ、お昼ご飯を食べる。オケの関係上1時間押しということで、まったりとお昼ご飯。学園祭の模擬店って、高いのか安いのか分からない。たこ焼き300円って実は高いような気がしてならないのだが、そうでもしないと採算が合わないのだろうか。もう一つの大学ミュージカル、『オズの魔法使い』のドロシーちゃんがやたらやつれた状態で現れたので、友人であるリヒテンはそっちに行く。私はエリザベートと踊りの話で華やぐ。そして私の注文したホットケーキは30分間来なかった。1分間で食べ終えてから、『エリザベート』を観に行く。 私達、役の人が通る通路側の端、しかも最前列の席を取っておりました。 鬼? いや、そのくらいでくじけるようじゃ、音楽科じゃなーい! 2日連続で観てました。 何故って?(ルキーニ口調) 1日目の失敗が2日目に生かされるのを観察するのが、昔やった側としてとてもとても興味深いから。そして更に細かくくだらないところに目が行くから。ツッコミどころが増えるから。 鬼? 腕より上まで白い手袋で、肘上に飾りがあるのはやっぱり有明の潮風を感じます<衣装。 でもこれ、学校の人たちに言ったって分かるわけが無いんだよね(分かったら怖いよん)。でもなー、コスプレ広場の人々って、大抵髪の毛切らないんだよね。でもって今回、髪の毛短いのはかり出されたのであろうリヒテンシュタイン役の子だけだった……。トート閣下役、1日目はお嬢様結びだったぞ。あれはどのトート閣下の映像をまねたのか、ご本人に尋ねたいが、多分会うことはあるまい(私あんまり学校行ってないから)。
見終わって、ミスドへ異動。 しばらく粘ってみたのですが、あまりの寒さに移動を強いられました。 移動直前に、妹から電話。 「ねえ、お父さんから今日ご飯一緒に食べようって電話があったんだけど」 「そんなこと言われても無理! 今日は学生会オケで友達が指揮して友達がコンマス! 今年で最後! 絶対聴く。ボレロだし!」 学生会オケの話はさっき知ったばっかりだ。そろそろ体力限界なところに、ダメージが大きすぎた。 そんな訳で断りの電話を妹にしてもらったら。 「明日でも大丈夫だってー」というメール。 突然、意識が飛ぶ私。 繊細な友達は私の状態を直ぐに察して、「大丈夫? 目がうつろだよ!」と心配してくれました。 「いや。えっと。ほっといてくれえ。ご飯食べたら保健室行く」 エリザベート姉妹は「ご飯、ご飯いいな〜美味しいものいいな〜」とステレオでした(笑)。きっと暖かいご家庭に育ったのでせう……(突然テンションが低い)。 近くの安いファミレスでご飯を食べる。なんか何食べてるのか分からないけど、辛かったのを覚えてます。そこら辺からそろそろ記憶アバウト。 学校に着くなり保健室ダッシュ。 ちょっとだけ休んで、野外ステージに、学生会オケを聴きに行こうとする。 スタンバイがだいぶ終わり、コンサートミストレスの友達が座って、調弦しようかな〜、というところで。 ……小雨。 ぽつぽつと。 案の定「しばらくお待ち下さい」という羽目になってしまう。 聴く方としては辛いのだが、楽器を弾きはじめてからざあざあ降られては、楽器が堪えられない。指揮者、一度神憑りになると止まらないだろうし……。しかし7時から、ティンパニーやハープ2個の移動をしているとすんごい時間になるのでは? 一度「いざ聴こう」というモードで、心の蓋を少し開いてしまった私には、人の多さが既に辛かった。挙げ句、明日父親と会わなきゃいけないかもしれない、という恐怖……(恐怖とか書いて良いのか私は)。流されるまま、4階に向かう列の1階に居たら、 「もう駄目」とあっさり駄目になってしまった。 保健室に逃げ込んで「ごめんなさい人混みのすごさも手伝って久しぶりに本気で調子が悪くなったのでしばらくベッド借ります」と蓋をして、先生も(あまりにも人が多すぎて、将棋倒し事件が起こりかねなかった)心配で廊下を覗きに行っている間に、過呼吸発作を起こす。もうへとへと。本気で駄目なんだけど、それよりもオケが聴きたい。 発作治まった頃、保健室の内線に、学生課から「酸欠の人が出ないようにドアを開けました」と報告の電話が入る。 ……そのくらいの人がいるのね……随分帰った筈なのに……。 それでも頑張って這い蹲るようにしてベッドを出て、オケを聴きに行く。 丁度ゲストソリストのギターだったので、ヒールの音厳禁。 私が聴きたかったのは、渾名ハッチ率いるオーケストラ。 この人のラベルの『ボレロ』の解釈が、どうしても知りたい。聴いて直ぐ理解できるか、それは自信無いけど、凄いだろうってことは予測が出来る。
いざ、ボレロ。 すっと一瞬もの凄い緊張感が走る静寂の中、ボレロが始まる。 何処から聞こえてくるのか分からない位置にある、小太鼓。一糸乱れない。サンプリングでもしたかのように、淡々とリズムを刻む。そこに何の感情も無い。ラベルの望んだ通りに。 興味深いのは、弦楽器(バイオリンとビオラ)のピチカートが、今回ゲストがギターだったことで閃きがあったのか、ギターの構えのままピチカートだったことでしょうか。あれはもともとそういう風に設定されているのか? 効果はてきめんでした。最初は恐ろしく計算高い無表情のピチカート。管楽器がソロではなく、4度で流れはじめたあたりから、弦楽器がところどころで刻みの為に構えたりもするが、刻みもどこまでも無表情に、押さえ込んで。そして直ぐに淡々としたピチカートの刻み。一糸乱れぬ太鼓。 そしてとうとう来た。弦楽器のメロディ。ここからはもう独壇場。弓の返しの一つ一つ、フレージングまでが私を痺れさせました。脳天突かれるようなエネルギーを突然突きつけられるのですが、弓の返し方、フレージング、全てがもの凄い主張をしてくる。そして、指揮者はここから神憑る。 左利きの指揮者、右手が動き始めるとそれは神憑りの合図。 「もっと来い!」「そのエネルギーは受け止めた。もっとだもっと」 右手が言っている。 右手に言われた演奏者各自は「もっとか! それならもっとやってやる!」と更に指揮者に対して与えるのだが、指揮者のキャパは余りに大きく、「受け止めた。もっとだ!」と更に相手に返してくるからどんどん演奏者はムキになってくる。今回ビオラがよく見える位置にいたんですが、ビオラトップが非常にサディスティックタイプの人で、「…もっと? もっと欲しいんだ? これならどうよ?」みたいな表情をしている(ように見える)のですが、最後になれば成る程もうムキになっているのが見え見えで、しかもその後ろは演奏を心から楽しむタイプだから、顔が紅潮しまくってもうたいへんなことに! チェロの人も顔が紅潮して、全員トリップしている。指揮者は熱く神憑り、どこまでも飛ぶのだが、どこかしっかり地に足がついているというか、恍惚の表情では無い。どこか「もっとだ! まだまだぁ!」と勝負されている気がしてきて、弾いている方は気がおかしくなるくらいのテンションまであげさせられてる気がするんだけど、全員の表情が楽しそう(そりゃ指揮者の動きが面白いというのもあるだろうが)。音楽でトリップしている。 ボレロ。最後の最後まで溜めておいたエネルギーを後半、「ここまでいけるのか音楽は!」という限界を超えられるんじゃないか、マキシマムになったところで音楽が終了。 聴いている方が、丁度昇天しちまったところで音楽が終わる。 これ、ラベルが思い描いていた通りのことをやって、大成功に終わったのでは? そして、何よりも、時間が押しすぎた、環境が悪すぎた所為で自然淘汰されてしまった「なんとなく聴きに行こう」という人々が消え「どうしても聴きたい」という人が残った為、観客のボルテージも最高潮に上がる。もう駄目だ、最高越えてる、あんたは凄いよ。終わると同時に腰砕けになりそうになった。もう目の前がオーケストラしか見えない。 音楽って素晴らしい! 叫びたくなりました。クラシック最高だよ。目頭熱いよ私。 しかし人混みに酔い過ぎて(端っこで聴いてたくせに)父親に「明日は無理!」と直談判しました。過呼吸で体力消耗した後に、人混みに酔いつつ(人混みでも過呼吸になれる←なれるなれないじゃなくて・笑)良い音楽を堪能して足腰立たなくなったら、これはもうしばらく休まないと自分おかしくなっちゃうよ。 そして、観客をおかしくさせるくらいのオーケストラと指揮者って凄いよ。 男性的な指揮だなーと思った。 日本人男性の指揮者って女性的だというのは前に友人と語り明かした事があるが、今日のは、音楽が男性的だったというのもあるが、指揮の仕方が雄々しかった。 個人的には、こっちが主流の時代が来て欲しい。切に。 そして、男性的=あくまでもジェントルマンに。 同級生で、高校の倫理の授業の時からすっとばしていたハッチへ。 帰ってきたときには更に5回りくらい音楽と人間として大きくなっているよう、願っておりまする。 学園祭って、非生産的なことにエネルギー費やしてるとは思うけどね(でも学生会オケは、地雷ゼロ運動に参加していた)、非生産的なことでも、これだけの感動を産むのは並大抵のエネルギーと尋常ではありえない才能の集まりだ。 聴かせてくれてありがとう! と叫びたい気分でした。
保健室で一休みしていたら、 「あの、倒れた方とかいらっしゃいませんね?」と学生課から心配の電話。 「はい、現在誰もいらっしゃいません(倒れたのはわたしー)」と思いつつ電話の応対。 そして保健室の先生とまったりグロいお話をあいかわず楽しげにしてから、さて帰る。 帰りがけに指揮者に会った。 「やっぱさいこーだったよー」 言葉にならないってこういうことを言うね。 何がやっぱりだ、と自分に突っ込みたくなったが、相手も終わりたてだし、色んな人から賞賛を受けているだろう(受けなきゃ変だ!)から「ありがとう〜」とかなんとか言ってた。日本語聞き取れないくらいへろへろになってた。
なんとか帰宅までできました。 妹が「生きてる〜?」と訊いてきたので 「うーん。半分以下と少し生きてる」と答えておきました。
ベッドに横になると、深々と思う。 エネルギーを受け止めて、それを変換して更に返していくことのすごさ。 ……悔しい。私も出来るようにならなきゃ……。 まだ、悔しいと思うことが出来る間に、それをやらなきゃ、自分が駄目になる気がする。 空回りでも良い(エリザベートと散々「私達って、空回りばっかの人生ね」と語っていた)から、とりあえずまた、ひた走って倒れよう……(起きたばっかりなのに?>自分)
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