彼女の実家へ行ったのだった。
電車で実家の最寄り駅に到着すると 彼女のご両親が車で迎えに来ていた。 初めて会う父親に私はひどく緊張しながらも 自己紹介を済ませる。 すると彼女は、待ちきれずに近くのスーパーに買い物に行ってしまった母親を 迎えに行ってくる。と言い残し、さーっとどこかへ行ってしまった。 残されたのは私と父親。二人きり。 気まずさMAX。 会話に困った時は天気の話題。というのがセオリーであるが これは一回しか使えない手札でもある。 しかしながら会って3分でもういきなり追い詰められた私は あー。い、良い天気ですね。 早くも手持ちのカードを使い切った。 もうだめかも(早っ)
実家にお邪魔すると飼い犬のミミちゃんが熱烈な歓迎をしてくれた。 このミミちゃんが私にとっての救いの神となった。 手持ちぶたさになれば「ミミちゃーん。」と呼べばよいのだ。 会話が途切れれば「ミミちゃーん。」と呼べばよいのだ。 まだたどたどしい人間関係の潤滑油。 心のオアシス。
あのハイスペックドックにはほんとに助けられた。 今度遊びに行くときにはぜひミミちゃんにも手土産を持参すべきだろう。
ともあれご両親は私のことをとても歓迎してくれたし おいしい料理もたくさん食べさせてもらったし 酔った父上からは人生論なんかもトクトクと聞かせてもらった。 母上はクールでいて、父上はよく喋る人だった。 なんかうちとは逆だ。 この家族の中で育ち、彼女は今こんな人間になったのだと思うと 面白いものがあった。 それぞれの家庭でそれぞれの生活の仕方があり その中に唐突に他人の私が潜り込んで はじめのうちはぎこちないのも無理もないが 徐々に慣れて認めてもらえたらと思った。 私と彼女の寝床が同じ部屋に用意されているのを見たときは ああ、認めてもらえたかしら。と少し思ったりした。
ただ、みんなでテレビを見ている時、 「自分の娘がとんでもない馬鹿男を連れてきた時の父親の反応はいかに?」 というドッキリみたいな番組がやっていたときは さすがに少しきまずかった。
あー、僕はドッキリじゃないんですがいいですか。 という言葉を飲み込んだ。
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