昨日のバイトはとても暇でした。 居酒屋のバイトなんですけどね。 小雨がパラついていて、 風も冷たかったからみんな家にいるようでした。 9時になっても誰も客が来ず、 マスターと二人でくだらない話などしてて 今日はもう上がりかなーとか言ってたらふいにお客さん。 見たことのないお客さんです。 30代後半といったところでしょうか。 そこいらにいるような、普通のオッサン。 このくらいの年代の客さんと言えば大体、常連さん以外はあまり見ないので珍しいなぁ。と思っていました。 俺&マスター>いらっしゃいませー。
僕とマスターはエプロンを締め直し、お客さんを案内。 その人は無言で傘を畳み、なにやら沈んだ表情でカウンターの席につくと大きなため息ひとつ。 視線が合ってもニコリともしません。 そして 客>ジョッキ。
とだけ言って、また黙ってしまいました。 僕はおしぼりを出し、ジョッキを注ぎ、お通しを出して注文を待ちます。
俺>ご注文はお決まりでしょうか?
その人は、メニューを1度だけチラっと見て
客>豚串とモロキュウ。
と注文しました。 なにやら愛想のない客です。 機嫌が悪いのでしょうか。 でもまぁ。たまにはこういう人もいますから。 僕はただ自分の仕事をするだけです。 話し掛けられなければ黙っていればいいのです。 でもマスターは違います。 店の主ともなると、やはり客とのコミュニケーションは重要です。 無言な居酒屋なんて居心地悪いだけですから カウンターに座っている客さんに色々話題を振って、楽しい雰囲気にさせるのもマスターの仕事の一つです。
マスター>今日は嫌な天気ですねぇ。 客>ん?・・・ええ。まぁ。 マスター>お客さん。はじめてですね。この辺に御住まいですか?
客>・・・・・・いえ。違います。 マスター>うちのモロキューは味噌が特製なんですよ。 客>・・・・・そうですか。 マスター>・・・・・・。 客>・・・・・・。
うーわー! 嫌な空気っ! なんなの。なんなの。 どうやらこの客、会話する気がない様子。 だったらバーにでも行けよ。もー。 無口な客もたまにいますけど ここまで露骨に黙り込む人なんて見たことなかったです。 嫌なやつー。ムカツク。
マスターもてこずっているようでした。 が、がんばれマスター!応援してるよっ!
まぁ、僕は皿洗いして 知らんぷりしてましたケド。
諦らめないマスターりべんじ。
マスター>なんか元気ないですね?なにかあったんですか? おおっ。マスター、ガッツあるじゃんっ。かっこいいっ。 客>・・・・・・。
おおいっ!!シカトかよっ!
こいつは強敵だ・・・・・・・・・・。 マジで会話しやがらねー。 カウンターの真ん中の座ったくせに。 マスターの真ん前に陣取ったくせに。 マスターの顔色・・・・・悪くなってきたゾ。 ていうか目が泳いでるぅ。 マスター気が小さ過ぎぃ。 うちのマスターをここまで追い込むとわ。 こいつ。この客。 ムカツクけど・・・・。ムカツクけど・・・・・。
オモロイ。
ていうかだんだん楽しくなってきた。
なにが楽しいかって。 マスターのうろたえようが最高。(悪魔)
心なしか、串をかえす手も震えているような。
俺、ウッキウキ。
も、ももももももっとやってくれっ。 もっとやってくれっ。さぁ!
ヨダレ出そうでした。 がっつし聞き耳立てて傍観決め込んでました。 だって滅多に見れないんだもん。マスターのあんな顔。
すると不意に、客が口を開きました。 客>・・・・・・・・・ちょっと・・・・悩み事があって・・・・。
おおっ!これは新展開っ。 この客が黙りこくっていたのは ただ単に無愛想だったんじゃなくて すんげー落ち込むような出来事があったのかっ! なるほどっ!それでか!
しかし一体なにがっ! 大のオトナをここまでブルーにさせる理由はっ!?
き、きききききき聞きたいっ!!!
お、お客さんっ! ぜひその理由を教えてくださいっ! なんなの?!なにがあったのっ?!
ていうかマスター!なにしてんだよっ!! 串なんて焼いてないで 早く理由を聞けよっ! (謀反)
僕の祈りが通じたのか、マスターが尋ねる。
マスター>一体どうしたんですか?あ。聞かないほうがよろしいですか?
ゴラァ!マスター! 余計な気使ってんじゃねーよ! ズバっと聞け!ズバッと!(もはや敵)
そんな僕の心の中の叫びも知らず またもや重い沈黙が流れ、 そして それを打ち破るように客の口からゆっくりと話され始めた話は 僕とマスターの興味を引くに十分な 切ない恋物語だった・・・・・・・。
長くなったので続きは明日。←得意
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