2001年04月25日(水)


昨日の続き。


その客は


「実は誰かに聞いてもらいたかったんですよ。」



という一言から
静かに噛み締めるように話し始めました。


男の話を要約するとこうです。


数ヶ月前、携帯のメルトモ掲示板で一人の女性と知り合ったそうです。
その女性は20代後半の既婚者で
趣味や考え方が合ったせいか
まめにメールなどしていたそうです。
でも彼女は元々、メールだけの関係を望んでいたので
同じ街に住んでいながらこれまで1度も会うことはなく
自分もだんだん会いたいとは思わなくなり
メールだけの関係がこれまで通り続けばいいと考えていた。と。


おお。これは僕としても興味深い話です。
それが携帯の話とは言え、
ネットの世界にどっぷりと漬かっている僕としてはなかなか他人事ではありません。
興味しんしんです。


マスターの方はメールとかなんとかっていう世界がよく理解できないらしくなにかにつけて、


「それはなに?」「掲示板って?」



とか話の腰を折ってくれました。
正直言って





ウザかったです。(もう完全に下克上)







そこまで事のあらましを説明し、
いよいよ話の本題です。



土曜の夜に、いつもの通り彼女からのメールがあったそうです。
しかしその内容は男をとても驚かすものでした。
内容はこう。


「今日は家に帰りたくない。これから会えないか。」、と。




う〜〜お〜〜〜!!!





マジですかっ。マジですかっ。
なんかドラマみたいじゃないですかっ。
ラブロマンス満開じゃないですかっ。




おめーいい歳こいてなにしとんじゃっ!(暴言)
羨ましいっ!





ていうかマスター息荒いっ!
しっかりシテー!!



どうやら彼女はダンナと喧嘩してしまったそうです。
元々、夫婦仲が芳しくなく、
それで寂しさを紛らわすためにメールをやっていたらしいんですが
今回はかなり派手に喧嘩してしまい、
思わず家を飛び出してしまったんだそうです。


男はもちろん放ってはおけなかったので
急いで待ち合わせ場所に行ったとか。




あー。
夫婦喧嘩をしてしまったっていうのは深刻な問題ですが。
それまで長い間メールなどをして気心知れた相手です。
もちろんそれだけ関係が続くってことはお互いに気に入ってたんですから会うのは感慨もひとしおでしょう。




男は言いました。


想像してたよりもキレイな女性だったと。


雨の中、傘もささずに立っていたと。


すごく落ち込んでいたとも。


彼女が、自己紹介する間もなく
男の顔を見た途端に泣き出してしまったとも。


落ち着かせるのに一晩かかったとも。







そうかぁ。大変だったんだなぁ・・・・・。
ってえ?!



ひ、ひひひひひ一晩っ?!



今、一晩っつったか?このオッサンっ!
一晩ずっと一緒にいたのっ?!
彼女とっ?
ど、どこに?!
だって彼女は雨に濡れてたんでしょっ?
はやく着替えないと風邪ひくじゃないっ。
ふ、ふふふ風呂入らないとっ!


い、いや。でも・・・・まさか。
だって相手はすごく落ち込んでいるのだもの。
まず一緒にいて慰めることが大事。
自宅や、ホテルに行ったとしても
優しく側についていてあげなければいけない時です。
大事な友達ですから。
それが大人の男。
というより人間として当たり前の行為です。
そんな時に手ぇ出すなんて、鬼畜以外のなにものでもないですから。



そうですよね。うん。
あー。人間って素晴らしい。
こうやって助け合って生きているのだなぁ。うんうん。




マスター>え?ホテルに連れ込んだんですか?







ママママママママママスター!!!!!
なに馬鹿なこと聞いてるんですかーー!!
人があえて考えないようにしてたことをーー!!
人間の「負」の部分に踏み入るような質問をーー!!































えらいです。
惚れました。それでこそマスター。




男はその質問に


「他に行くところがなかったんで。」


と当たり前のように答えました。


ふむ。
見た目はタダのオッサンだけど。
なかなか紳士な男らしい。
その物言いから、決して馬鹿な行動はとらなかったと分かります。
ナンパ目的でメルトモ探しているような男だと見間違えてしまった自分がすこし恥ずかしくなりました。そして僕はちょっとこの男が好きになりました。



男は続けてこう言います。


彼女に、これからも時々会ってくれはしないかと言われた。と。
それで悩んでいる。と。
なぜなら自分も彼女も既婚者であるので
これ以上、不用意に親しくなるのは問題があるのでは。
そしてそうなりそうな予感がある。と。



なるほど。
それでそこまで考え込んでいたのですか。
んー。
やっと理解できました。


自分に口出しできる問題ではないことも分かりました。
マスターもそれが分かったらしく。
終始聞き手です。


そうやって
切ない恋愛の話を聞きながら、
他に客もいなかったので3人で語り合いました。
サービスで焼き鳥など焼いて。



きっとこの男も、誰かに話を聞いてもらうだけでよかったのでしょう。
さきほどとは変わって笑顔を見せるようになりました。
真面目な性格の人なのだなぁ。と思いました。
まぁ、口は軽いかもしれませんけど。
逆にまったく知らない人間だからこんな話を聞かせてくれたのかもしれません。




そのうち逆に、僕の就職活動のアドバイスなんてしてもらったり。
また店にきてくれると嬉しいです。
あんな話をしたんだからもう来ることはないと思うけど。




その男が帰った後も
マスターと二人で、恋愛のことなんかについて話していました。
ああいうこともあるんだねー。
ネット恋愛とかなんか全然知らないマスターにとって
とても変わった出会いに感じたようです。

そしてやはり興味はその携帯のメルトモ募集掲示板にいったようです。



マスター>ねぇ。リク君はそういうのやったことある?

俺>いやぁ。僕は携帯ではそういうことはしないんで。

マスター>そうかぁ。それって俺でもできるかな?

俺>え?マスターやってみたいんですか?

マスター>んー。そういうのも試しにやってみたいなぁと思ってね。

俺>そうですかー。まぁ、今、ネットの世界はいろんな出会いがありますからねー。

マスター>そうらしいねぇ。

俺>マスターの好きそうな、大人のサイトもありますよ。きっと。はははは。

マスター>え?どんなの?教えてっ!



・・・・・・・こ、こやつ・・・。冗談で言ったのに。
さきほどの気持ちの良い客とは対極に生きてる人間のようです。
ああ。人がせっかくいい気持ちだったのに。

俺>い、いや。僕はやったことないんで分からないですけど・・・・。

マスター>それってどうすれば分かるのかな?

俺>それくらいなら調べればすぐに分かりますよ。

マスター>ほんとっ?じゃ調べてっ



うわ。マスターまじだ。
マジでやる気だ。
しかも友達募集じゃなくて、遊び相手募集する気だ。


僕は正直、そういう下世話な話をする気分ではなかったし、
調べるなんて面倒くさかったので、
こう言えば諦らめてくれるかな。と思って。


「じゃぁ、今日のバイト代に1000円上積みしてくれたら、調べておきますよ。はははは。」(バイト代は日払い)

と、冗談交じりに言いました。

マスターも

「1000円だとー。ぼったくり過ぎだよーリク君。もー。あはははは。」

などと言い、この話は和やかに終了しました。
ほっ。良かった。


さて。
もう少しでバイト終わりだから、
皿を洗っておくか。
あ。そだ。ゴミ捨てなきゃ。


「マスター。このゴミも捨てて来ていいですかー?」





























って、ちょ、マスター!

なに財布から1000円札出してんスかー!!



マスターから金だまし取る自信あり。


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日記才人