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気まぐれ日記 DiaryINDEX|past|will
負けません。 昼過ぎに村を歩く。何もないに等しい村だった。漁業で細々とかつ、穏やかに暮らしているとでかでかと書かれているような村だった。朝、日の出とともに船を出し夕刻には必ず戻って来るという。 一件しかない店は旅をする者が寄って行く程度の村なので、携帯食料、保存食はある程度そろっていたが、めぼしいものはなかった。 彼女は必要な分だけの食料を買って行った。虎と海岸を歩いていると香ばしい匂いがして来た。 「お嬢さん、一つどうだね? その猫も」 声の主に虎がギロッとにらむ。 「マレモンは虎よ、おじさん」 「そりゃ、失礼。でもおじさんは失礼だ」 彼女よりはだいぶ年上に見える。 「でも、魚はおいしそう」 枝に刺した魚が網の上で焼かれていた。油が溢れたまに火がぼっと上がる。 「そうだろ? 虎さんもどうだい?」 「いただく」 魚をごちそうになりながら、たわいのない話をする。 「そうか、昨夜この村についたのか。昨夜はよく眠れただろ」 「ええ。ここは海の子守唄って呼ばれるほどよく眠れるって聞いたけど」 「ああ、海の子守唄ってか? そんなかわいらしいもんじゃねーよ。ありゃ、人魚が歌ってんだい」 「人魚ですって!」 「ああ、あいつらは日が沈むと歌い始める。夜に船を出しているヤツを眠らせてその身体を海の贄にするんだ」 「人魚はそう言う事をするのか」 「だから、夜には船をださねー。俺以外はな」 「あなた以外?」 漁師は笑って照れながら答えた。 「人魚に惚れられちまったんだ、俺」
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