気まぐれ日記
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2005年05月28日(土) それでは

 はじめます。


 ゆっくりと動いていた島は障害物がなくなると、急にスピードを上げた。帆船よりも早い。
 「なんだ? 急に」
 それでも、軽快に進む島にダノは感激している。シルアは怖いのかしっかりと地面の草を握っている。タジュトは例によってはしゃいでいる。
 「早い早いー!」
 「早すぎよー」
 そうしているうちに、島は北東の街についた。その頃には朝になっていた。
 この街も、海賊による被害を受けていた。町全体がなんとなく閑散としている。
 「俺、ちょっと用あるから……先に宿で休んでいてくれ」
 ダノは港町で頼まれた薬を届けることにした。こういうことは早めに済ませたほうが楽だ。
 街の人に聞き、病気の男の家を見つける。
 「ちわっす。薬届けに来たぜ」
 「あの、どちら様でしょうか?」
 青い顔をした若者は、ベッドから起き上がろうとした。身のまわりはきれいに片付いている。掃除や洗濯をしてくれる親切な人がいるのだろうか、と彼は思った。
 「いや、赤の他人だが……あんたの兄貴に届けてくれと頼まれてな」
 薬の包みを若者に渡す。
 「ええっ、あの海賊の中を? ありがとうございます。これですぐによくなります」
 包みを抱えて若者はうれしそうに礼を言った。
 「お礼は何も出来ませんが……熱にうなされながらよく夢を見たんですが、それが不思議な夢でして……青い竜が赤い玉を抱えているんです。そこに青い玉も出てきてそれが一つになると、大きな青い宝石になるんです。あなたがここに来たのも何かの縁ですし、一応教えておきますね」
 若者は、玄関までダノを見送ろうとしたが、彼はそれを断って家を出た。
 「早く良くなりなって、兄貴に元気な姿を見せろよ」
 「ありがとうございます。旅の方」
 
 タジュトとシルアが宿に入ると、暇をもてあます船乗りたちが食堂を陣取っていた。
 かなり酒に酔っている船乗りが、皆の中央で語っている。他の男たちは、「やれやれ、またか」という顔で、仕方がなく話に付き合っている様だった。
 「俺は、西の果てまで行ったんだ。ほんとだぜ。そこにな、大きな渦潮があって飲み込まれたんだ。そんとき、偶然俺は空気の実を持ってたから、助かったんだ。そして、俺は見たんだ。海底の町をな……。すげかったなあ」
 「海底の町?」
 「そんなものまであるのね」
 動く島はあったが、さすがにそれは信じ切れなかった。
 「そうさ、嬢ちゃんたち。ありゃ、すげえ」
 「本当に見たの? おじさん」
 「へっへー、嬢ちゃん。こいつは酔っ払うとほら吹きになるんだ。信用しちゃあなんねえぜ」
 別の船乗りが笑いながら言う。
 「嬢ちゃんたちはどっから来たんだ?」
 「塔から」
 タジュトが言うと、皆がしーんと静まり返った。そして、誰かが笑った。それが、呼び水となって全員が一斉に笑った。
 「うひゃひゃひゃひゃ、嬢ちゃんは最高のほら吹きだぜ」
 「本日最高だ! うひひひ」
 「はーはっはっはっはっ、あんた、いい根性だ!」
 「本当だってばっ!」
 なおも大笑いが続く。タジュトはほら吹き男を信じたくなった。その船乗りは今は店の奥に引っ込んで酒を飲んでいる。
 「ねえ、おじさん」
 「なんだい、嬢ちゃん」
 「空気の実って何?」
 「ああ、水につけると空気が出て来るんだよ。ほれ、これだ」
 胡桃の少し小さい実を胸ポケットから出した。酒の入ったグラスにそれを入れると、確かに泡が出てくる。
 「これは、もう古いからあまりでないけど、これ一つありゃ、水の中で三日は暮らせるじゃねえか?」
 「これ、どこにあるの?」
 「さあなあ……俺も偶然手に入れたわけだし。南のじじいならなんかしってるかもな」
 「じじい? おじいさん?」
 『おじいさんを探しなさい』女の人の言葉がよみがえった。
 「ありがと、おじさん。あたし、おじさんの言った事信じてるからね」
 「おう、俺も嬢ちゃんのこと信じるからな」


草うららか |MAIL

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