気まぐれ日記
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ああ、なんだか説明くさい話だわ。 あ、続くってつけるの忘れた。
数時間後、そこにアセテイトが帰ってきた。 「二万デリルの借金の肩代わりをした」 「……」 アセテイトが帰ってくるなりブロードに伝えた。二万デリル、贅沢しなければ一年くらいは暮らせる。そんな借金をどうやって作ったのか、相手が兄ならば安易に想像がついた。 「で、兄さんは?」 「逃走した。妖精で追ったが……はね返されてしまった」 「だろうね。兄さんも妖精使いだし」 ますます、断りにくい状況に陥った。ナイロはにっこり微笑んでいる。それが怖い。アセテイトがナイロの隣で無表情に座っている。 「じゃあ、聞くけど。なんの用事?」 「城の倉庫に住み着いた妖精の排除だ」 「かわいそうなことすんなよ」 「だが、こちらとしても迷惑なんだ。頼んだ」 やはり、無表情に言うと彼は立ち上がって部屋を出て行こうとした。 「おいおい、アセテイト。ちょっとは休んだらどうだい。そう、急ぐ仕事でも?」 「いや、ないが。しかし、もうここに用事はないからな」 ナイロが声を掛けたが、少し振り返ってすぐに出口に向かった。 「やれやれ、愛想のない。ねえ、ブロード君」 「ああ、そーだな」 「君のお兄さんに頼んだら」 「あ、それ俺の専門じゃねえからブロードに頼みな、って言ったんだね」 「そう」 「俺も専門ってわけじゃないけど」 「まあ、君はこの城の図書室を開放したっていう実績があるからね。まあ頼んだよ」
倉庫は地下二階にある。入り口は鉄でできた扉だった。ブロードは取っ手を掴んだ。 「うわっ」 びりっと静電気を受けた感触。 「大丈夫?」 アプリが付き添い(という名の野次馬)でついてきて、横で心配そうにしている。 「うん。んじゃ、気を取り直して」 もう一度取っ手を掴んで、扉を開けた。中は暗く何も見えない。アプリがランプで照らしても部屋の置くまで光は届かなかった。剣、槍、戦斧などがうっすらと見えていた。それらがひとりでに浮き上がって、 「ブロード君、危ない!」 ランプを放り出して、ブロードを突き飛ばし、自分は剣を抜いた。そして、襲い掛かってきた武器たちを剣で払いのけた。払いのけた剣がブロードの頬を掠めた。 「危ないのは、アプリさんだ!」 アプリはすでに第二撃を交わしている。 「でも、まあ直撃したら確かに命はなかったかも……」 さっきのも一歩間違ったら命はなかったが。 「おい、お前。いい加減にしろ。俺は交渉に来たんだ」 「交渉だと? 魔法使いを雇ったと聞いた。退治しにきたのではないのか?」 それがうっすらと現れた。見た目は女兵士だった。古い甲冑姿で重そうな剣を下げている。妖精だけあって美人だが、可憐さはなく冷たい表情だった。 「まあ、上の奴らは排除したがっているけれど。俺はしたくない」 「ふむ、では私をどうしようというのだ?」 「出来うる限りのことをする。で、あんたはここで何をしたい」 「無論、武器の手入れだ」 「でも、ここに来る人はあまりいないから……」 と、アプリ。妖精が、ガシャン、と足を踏み鳴らした。 「そうだ。私がせっかく磨いたのに誰も気づかん。それが許せん」 部屋や家につく妖精は、身勝手な者が多い。勝手に世話を焼いて、勝手に腹を立てる。 「腹立ち紛れに、全部錆させた」 そして、せっかくやったことを無駄にする。 「じゃあ、どうして欲しかったの?」 「武器を手入れする道具が欲しかった」 でもそれは、(主に人間の)物が欲しいための行動でもあった。 「人間の使う武器はいつもきれいにしている。だから私もきれいでありたい」 「……もしかしてあんた、剣か?」 「違う。そこの槍だ」 妖精が部屋の奥になると思われる棒を指差した。暗くてよく見えない。 「ある武器職人が私をあの槍に宿した。そのころの私は拗ねて魔槍として力を発揮しない、持っていれば徐々に腕が石になるという呪いがついているという理由であちらこちらを転々として最後はこの城の倉庫に流れ着いた。この暗い湿った倉庫の中で私は後悔した。すこしでも私が力を貸したならこの暗い倉庫に押し込められることはなかったと思った。そこで私はこの倉庫の中の武器をきれいにした」 「じゃあ、あんたが現役復帰ってことでいいんだな? 手入れする道具は自分がきれいになって使われるためなんだから」 「お主、この私を使うのか? その腕、石になっても構わぬのか?」 「その呪いを解くから。それに俺は槍なんか使えない。誰かうまい人に使ってもらうよ」 「この私の呪いを解くことが出来るのか? 面白い人間だな。では、任せた」 妖精は消えた。冷たい表情が少し崩れて笑っていた。一瞬だったが。改めてランプを用意して倉庫の中に入った。全ての武器が自ら光り輝いているようにきれいになっていた。その奥に、布に覆われた細長いものがあった。汚れた札がついてあり、『危険 呪われています』と書かれてあった。
「と、いうわけで、これが例の槍」 アプリが職人に頼んできれいにしてもらってきた。飾り柄のついた二つ刃の槍である。 「へえ、こんなすごい物が倉庫にね」 「調べてみたらね、先々代の王様がこの槍を預かったって書いてあったわ」 「しかし、ここには槍の名手はいない。どうする?」 と、アセテイト。 「それだけど、アセテイト。君が使えばいい」 彼は、一度ナイロを睨んだ。しかし、アプリがそれを差し出すと手に取った。ブロードが知る限り、アセテイトは剣の腕が長けている。ナイロが勧めるということは槍の腕も長けているのかもしれない。案外、どんな武器も使いこなせるのかもしれない。 「おい、これにはどういう効果がある?」 「彼女は石妖精だから効果は呪いと一緒だよ。ただ、呪いを解いたから少しの間足止めさせるくらいしか……」 「ただいま」 兄が戻ってきた。 「終わったか? ブロード。ありゃ、なんだその顔、怪我して……」 アセテイトはその槍で兄を突いた。針で軽く刺す程度の弱さで。 「何すんだッて、あ、あり?」 その場で兄は固まっている。 「か、身体がうごかねえ!」 「なるほど。おい、この解呪料金は二万デリルでいいな」 「あんたがそれでいいならいいよ」 「ナイロ、これは使わせてもらう」 「はいはい、どうぞ」 兄はまだ固まっている。 「お、おい、ブロード。どうなってんだよ」 「いろいろ、兄さんがどっか行ってるうちにあったんだよ」 ブロードはそう言って笑った。アプリも笑い転げている。兄はわけもわからず、しばらくは固まったままだった。
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