気まぐれ日記
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ブックオフにて宮部みゆきの「ICO」を発見しました。購入。 今夜は眠れない。(笑)
『要求 べグゼッド王子の身柄を無事保護したいのであれば、金貨五千五十二枚を用意してください。引き換え場所は、城下町東郊外にて、昼ころよりお待ちしております』 べグゼッドは力が抜けた。カシスが横でゲラゲラ笑っている。丁寧なのか馬鹿なのかわからない要求書を投げ捨てた。くしゃくしゃに丸めてゴミ箱に入れる気も起きない。 「カシス、いつまでも馬鹿みたいに笑ってんなよ」 「だって、だって……げはははっ!」 「この間抜け文章書いた奴をおもっきし思い知らせてやれよ」 「ある意味傑作。それにしてもなんで魔族はどっかいっちゃたんだ? 好都合だけど」 「さあな。いるよりはマシだ。朝めし食ったら行くぞ」 「緊張感ねえな」 それは、カシスも同じである。グオンも魔族の不在を伝えたきり起きてこないところを見れば二人に任せたと見える。 「いいんだ。昼までまだ時間がある。それに」 「貧血?」 「まあ、いつもより楽だけど」 それにしても、どういうわけでこんな中途半端な身代金額なんだろう、とべグゼッドは思った。
引渡し場所の、東郊外。にぎやかさはもちろんなく、この先は一日歩いてやっと村があるくらいの田舎道である。ほとんど人の通らないその道に、三人が並んでいた。男が二人顔を隠し、その間にイーリスがいる。 「さてと、金は用意できたかい?」 「ここに」 べグゼッドは袋を見せた。ずっしりと入った袋は足元に五十一袋ある。一袋百枚が五十、半端の五十一枚が一袋。兵士数名を借りて運ばせた。 「帰っていいよ」 「はっ」 兵士は金貨を置いて帰っていった。 「何故、帰す!?」 と、男が言った。 「いや、こっちとしちゃ、好都合だろ」と、もう一人が言う。 「いらないからさ」 カシスが言った。 「て、ゆーか、お前たちはなんだ? なんでガキが二人して引き取り場所に来るんだ?」 「そうゆうの、最初に聞くもんじゃねーか?」 カシスは呆れていった。カシスに呆れられたら終わりである。 「うるさい。お前たちは何者だ!」 「俺が、べグゼッドなんだ」 「……」 「……はい?」 「だけどな、お前らが誘拐したのは、こいつの大事なお客様なんだ。手荒なことはしてないだろうな?」 「お前、王子じゃなかったのか!」 「そんなこと一言も言ってなかったじゃないか!」 二人の男は抗議したが、イーリスは平然として答える。 「聞かれてないから」 「な、何おう!」 男が怒り狂う前にべグゼッドが叫んだ。 「だから、大事な客なんだ。だから身代金は払う。返してもらおう」 「わ、わかった」 「じゃ、俺は金から離れる。そっちはイーリスから離れて」 「よ、よし」 「おい、立場逆じゃねえか?」 「そんなことはどうでもいいだろ、さっさとしろよ」 カシスが剣の柄に手をかけた。 「え、あっはい」 二人の男はイーリスから離れ、べグゼッドとカシスは金貨から離れた。イーリスは走って二人のもとを離れ、べグゼッドとカシスの側に寄った。男二人は金貨を大袋につめて背負う。 「これで、取引終了だ」 「じゃ、達者でな」 「……」 腕の縄をカシスが切った。少ししびれているが、動かせる。 「じゃ、追うか」 「頼むよ、カシス」 カシスが勇んで駆け出した。見えなくなりつつある男二人を追った。そして、すぐ帰ってきた。 「ぜんぜん、相手にならなかった」 「だろうね」 べグゼッドはつまらなそうだが、ほっとした顔をする。 「あんたも災難だったね。でも、無事でよかった」 「まあ、これくらいなら」 兵士が数名駆け抜ける。あの二人を捕まえるためだ。帰ったのではなく、男二人の目から見えないところに待機していたのだ。 「袋の中、金貨じゃないね」 イーリスが言う。 「うん、木の木っ端とかなんだ」 「金貨が入ってたらあれだけ走れないぜ」 「なんで、気づかなかったんだろ」 「さあ、重みを知らないんじゃないか?」 確かに、あの二人に、これだけの金貨を稼ぐという重みは知らないだろうと彼は思う。 べグゼッドは、帰ろうと言って二人を促した。 「イーリス、腹減ってるだろ」 「うん、それに寝巻きだし」 「帰ったら、風呂も用意してもらおう」 「ありがとう」
後に誘拐犯二人を問いただした時のこと。 「魔族だよな、誘拐の手伝いをしたのは?」 「ああ、そうだ」 「でも、本当にどこかにいっちまったんだ」 魔族が報酬もなしに人間の手伝いをしたというのは考えにくいが、その後も音沙汰もまだない。何が起こるか、気をつけなければならない。 だから、この誘拐事件は未解決だった。
イーリスの章 了
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