++ Nostalgic Diary ++
Written by : Kaori.Narita

 

今は遠い 同じ空の下の愛する貴方へ

いつかはこの日が来るのだと 分かっていたはずなのに
してたはずの覚悟なんて あっという間に崩れ去った

行かないで の言葉を 今までどれだけ飲み込んだだろう
貴方の知らないところで どれだけの涙を流しただろう

夢を追う貴方の姿は とてもとても眩しくて
私はその背中に向かって 手を伸ばすことさえ躊躇われて
静かに忍び寄る別れの時を ただただ恐れてきた


共に過ごした最後の夜 幾度となく目が覚めた
目が覚めるたび 隣で眠る貴方を見ては
今ここにいる安堵感と 明日からいない寂しさに震えた

片付けられた貴方の部屋が 余計につらかった
大切なものが箱に詰められるたび 涙が出そうになった
ちゃんとお部屋にお別れ言うんだよ って言ってみた
本当に言った貴方の姿に どうしようもなく切なくなった

車の中で聞いた歌 意図したつもりは微塵もなかったけど
奇しくも 今の貴方に当てはまる歌ばかりで
苦笑いながら他の歌にしよう と言った貴方の姿は
今も車の助手席に 色濃く残ってる

私の想いとは裏腹に 朝の混雑は予想以上に少なくて
駅までのあっさりと着いた道のりに ひどく落ち込んだ
間近に迫った別れを前に 切符を買う背中を見つめては
零れそうになる涙を 必死で堪えた

笑顔で見送ろうって決めた
貴方の中の最後の私は 笑顔でいてほしかったから
けど 貴方が乗る新幹線が見えたとき
抑えてきた感情が すべて溢れ出して止められなかった

窓際の席に座って ガラス越しに映った貴方
涙ぐんでいるその顔に ますます涙が流れた
不謹慎だとは思ったけど 嬉しかったのも事実

精一杯の笑顔を浮かべて 行ってらっしゃいと言った
ねぇ あのときの私 ちゃんと笑えてたかな?


帰り道 貴方がホームで嵌め直してくれた指輪に触れて
貴方の無事を願った 貴方の夢の成就を願った
そして いつか私も隣に追いつけるように って願った


私の周りには 貴方との想い出がありすぎるから
思い出すたびに きっとまた泣くんだろう

あの時流れてた 貴方が苦笑った歌を借りるなら
いつもより眺めのいい 隣に少し戸惑うんだろう

貴方の笑い顔 私を呼ぶ声 身体の温もり
貴方を恋しく思って 仕方ない日もあるだろう


けれど私は頑張れる
待ってるからね と貴方が言ってくれたから
その背中に追いつくのを目標に 歩いていこうと思う

だから その日が来るのを待っていて
背中が見えたら 思い切りしがみつくから
そのときは 思い切り抱きしめて


そして貴方にも 疲れてしまうときがあるはず
私は 貴方の休める場所になりたい
翼をたたんで 身体を預けてもらえる樹になりたい

だから 辛いとき 大変なときは寄りかかってきて
このちっぽけな手でも 支えることくらいは出来るから
いつでも 扉を開いて 貴方を待っているから


今は遠い 同じ空の下の愛する貴方へ


2006年06月08日(木)

お別れ

実家の愛犬が、この世を去りました。
私が14歳のときに生まれた子だったので、享年8歳と数ヶ月。
食い意地とわがままの多い子でした。

今年の春からずっと体調が悪く、やがて目が見えなくなって腎臓が弱って血尿が出て赤血球が少なくなって……病名はハッキリしないのですが、治らない血の病気だったようです。
父と母の意志で、安楽死という最期を迎えました。

私はそれを仕事場で、母の送ってきたメールで知りました。
夏までもたないだろうと確信にも似たものを感じ、GWに無理やり帰って後悔のないように可愛がって。連絡があるたびに覚悟も決めていたけれど。

あっという間に涙がこみ上げて。
それでも仕事場、同期の子達や上司の前で泣くのはイヤでお手洗いに駆け込んで。
洗面台にしがみついて声を殺して泣いて。
泣いて、泣いて、ひたすら泣いて。

昼休みに母に電話をし、最期の様子を聞きました。
苦しまずに逝けたこと、前の晩に病気になってから食べることを禁止されていた大好物をいっぱい食べていたことや、お墓も立派に作られたこと、昔一緒に遊んでいたお兄ちゃんわんこが眠っている隣に埋められたこと、いっぱいいっぱい話を聞きました。


……でも、病気と闘いながら最後まで生きるのがよかったのか、それともこの安楽死がよかったのかと、ずっと答えの出ない堂々巡りをしています。

私は、あの子は本当は最後まで生きたかったんじゃないか、と思います。
自分の体調が悪くなってから、ずっと病院に連れて行くたびに不安げに鳴いたらしいあの子。
最後の日まで、散歩を要求し続けたあの子。
あの子はきっと、また家に帰って、散歩に行って、ご飯を食べて、いつものように家の中ですやすや眠るつもりだったんじゃないか、と。
そう、思わずにはいられないのです。


私の中での最後のあの子は、ブラッシングを気持ちよさそうに受けている姿。
幾ばくか痩せた身体を、陽だまりの中で梳かしたのが最後の思い出。
優しくて温かな、陽だまり色の記憶。


天国で、お兄ちゃんわんこと会えたかな。
美味しいものいっぱい食べて、いっぱい遊んでるかな。

ねぇ、イール。生まれてきてくれてありがとう。
お前を抱いて家に連れて帰ったこと、庭を駆け回ったこと、膝に残るお前の温もり、忘れないよ。

私と出会ってくれてありがとう。
8年間、お疲れさま。そして……おやすみなさい。


2006年06月05日(月)