Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
米TV番組/シカゴ試写会レポート
やはり公開直前になると、アメリカではいろいろあるようです。
11月3日(月)21:30-22:00 HBOテレビ(ケーブル)Making of Master and Commander これはどうしようもありませんね。地上波でもありませんし。
11月9日(日) CNN-People in the News 日本でもホテルなどはCNNが入っていますが、まさかこのために泊まるわけにも。
11月9日(日) History Channnel ヒストリー・チャンネルは日本でもケーブルテレビで見られるのではと思いますが、タイトルが不明です。いずれにせよ、字幕翻訳の関係上、日本での放映はかなり遅れるのではと思います。 タイトルがわかりましたら、またお知らせしますので、ヒストリー・チャンネルの受信できる方はチェックよろしくお願いいたします。
このほかラッセル・クロウは「Inside the Actor's Studio」という番組に出演することが決まっていますが、この放映はアメリカでも来年になるとのこと。 この番組は日本でも見られますね。NHK BS-2で「○×自らを語る」とかいうタイトルで。不定期ですが夜9時頃の放映だと記憶しています。 いずれにせよ日本でも放映はかなり先のことでしょう。
さて先週放映のあったCBSテレビのEntertaiment Tonightですが、こちらにラッセル・クロウのインタビューが載っています。ファンの方がテープ起こししてくださったようです。 ただし会話の内容は映画にはほとんど触れておらず、もっぱら1月に生まれるというクロウの赤ちゃんの話題。彼は僕も赤ちゃんのおしめを変えるつもりだ…と言って、おしめの話題が続くのですが(環境にやさしいおしめ…とか)、まぁあまりサープライズ号のオーブリー艦長には関係のない記事かもしれません。
もう一つ。これは記事ではありませんが、10月28日にシカゴで行われた…これは試写会でしょうか?…に出席したファンの方のレポートがこちらです。 このイベントでは、最初に映画上映があり、その後ラッセル・クロウに質問が寄せられる…という形ですすめられました。クロウは大変丁寧に質問に答え、質疑応答は1時間半超に及んだとのことです。 その主なところは以下の通り。
映画は10巻The Far Side of the Worldを軸に、1巻「新鋭艦長、戦乱の海へ」と3巻「特命航海、嵐のインド洋」からいくつかのエピソードを織り交ぜ、構成される。
ラッセル・クロウは毎週18時間、数ヶ月にわたりバイオリンの特訓を受け、「きらきら星」から始めて最後には映画用に4曲を演奏できるまでになった(ただし映画本編ではそのうちの2曲しか登場しないので、クロウ自身は残りの2曲をDVDに入れてほしいと願っている)。
オーブリーの発音について。オーブリーが実際にどのような英語を話していたかについては、映画製作にあたって詳しく検討された。製作班はオーブリーの出身地の人々の発音を録音して研究したが、これは偶然にもオーストラリア英語のアクセントに近いものであった。オーブリーの父は陸軍士官で海軍士官ではないため、この地方のアクセントをオーブリーのアクセントとして採用した。ちなみに代々海軍士官の伝統がある家の場合は、アクセントが異なり上流階級のアクセントに近い発音になるとのこと。 ジャックの出身地はドーセット州の筈ですが、少年時代の一時期はノーフォーク州で過ごしてます。これは何処の発音を指して言っているのでしょう? でもここまで正確に考証している…ということは、スティーブンは当然アイリッシュ・イングリッシュになるんでしょうか?…私程度の耳には聞き取りにくい方言なのですが、こまりましたね。 でも代々海軍士官の家になると発音が違うんですね。ではきっとコーンウォール州のファルマスのお屋敷に代々の肖像画がかかっているお宅では、コーニッシュ・イングリッシュを話すわけではないのですね(…それは他のシリーズの話)。
すみません。脱線しました。シカゴ試写会レポートに戻ります。
船の暮らしというのはどういうものか?という質問に対して、まず第一にラッセル・クロウが答えたのは、天井まで5フィート10インチ足らずであること。身長6フィート超のポール(ベタニー)は、頭をぶつけなくなるまでに3週間かかった。
艦長というのはどのようなものですか?という質問に対しては、1)艦長は常に確信をもって行動しなければならない。たとえそれが間違ったことであったとしても。逡巡している暇は無い場合が多く、乗組員たちは即座に艦長の命令に従わなければならない。2)艦長であることは孤独である。艦上でのスティーブンとの友情が、艦長にとってどれほど大きな意味をもっているかがよくわかる。
毎週末にはチームを組んでラグビーの試合をやっていたが、これが撮影中のチームワークづくりに役だったばかりでなく、戦闘シーンの撮影にも効果的だった。フランス艦乗組員役チームが、サープライズ号乗組員役チームに試合を挑んできたこともあった。
嵐のシーンの撮影では、2基のジェット・エンジンを4メートル手前に据えて、猛烈な風と雨を再現した。ウィアー監督は1日10時間11日間にわたってジェット・エンジンを回し続けたため、毎日が飛行場にいるようで(轟音で全く会話はできない)頭が痛くなってしまった。
マストの上での撮影について。慣れれば楽しめるとはいうものの、撮影前にはダーシー(副長役)とずいぶん長い間話をした。だが海に出たら、二人とも登ってしまったよ。海面から157フィート(約30メートル)あったそうだ。
★お詫びと訂正(またかよ…とおっしゃらずに) 10月28日の日記で、写真はねたバレしています…と書きましたが、上の話題からするとねたバレはしていない模様です。あの人は別の人…ということはやはりあのシーンは無いということなのでしょうか? それはそれで悲しいですけれど。
さらにもう1点。10月26日の更新で年号が確定できないとしたオーブリの艦長任官日ですが、1804年であると、資料本をお持ちの方から教えていただきました。ありがとうございました。 これにともない、10月26日の日記に追加訂正を加えました。ご参照ください。
2003年10月30日(木)
参考書籍(洋書)のご案内
行き帰りの通勤電車で細々読んでるオブライアンの原書、8巻を読了し9巻に入りました。 オブライアンの場合は斜め読みが出来ないので、どんなにがんばっても1冊1ヶ月はかかる。 もはや11月14日の公開前に9巻を読み終わるのは無理そうです。 1年半前に、なんとか映画公開までに9巻まで読もうと思い、原書を一括購入したのですが、やっとその時買った最後の巻にたどりついたので、またその先を購入しなければなりません。円も高くなってきたことだし、今がチャンス。 私がこの原書を買った時には1ドル=125円もしたんです。まいっちゃうなぁ1冊あたり100円近く安くなってるじゃない(泣)。
Amazon.com(米国)では映画化記念版なのか、表紙がラッセル・クロウの10巻が出ているようです。せっかくだから記念に、10巻はアメリカ版のこちらにしようかしら。 もっとも個人的には、原書は、アメリカ版よりイギリス版の方がおすすめです。ジェフ・ハント氏の表紙挿絵がじっくり見られますし、イギリス版には巻末解説のおまけがついています。 ただし実際に読むことを考えると、アメリカ版の方がコンパクトで活字が見やすいかもしれません。…まぁ一長一短でしょうか?
オーブリー&マチュリン・シリーズには、9月20日の日記でご紹介した「Lobcouse and Sptted Dog」の他にも、用語辞典「A Sea of Words」や地図帳「Harbors and High Seas」、百科事典「Persons, Animals, Ships and Cannon in the Aubrey-Maturin Sea Novels of Patrick O'Brian」(人と動物と船が並列なところが主人公たちの価値観に忠実で泣けます)など関連書籍が数多くありますが、今回の映画化に際し関連書籍としてとりあげられているのが「Patrick O'Brian's Navy : The Illustrated Companion to Jack Aubrey's World」という本です。
Amazon.com(米国)のブックレビューによれば、ジャック・オーブリーのフィクションの世界の実際を詳しくフルカラーのイラストで紹介した本であるとのこと。当時の艦や武器の詳細なイラスト、士官や水兵たちの艦上生活の実際。戦闘と戦略。全20巻の舞台となる場所の地図。当時の英国の政治や文化について。登場人物一覧表もあるようですが、これは20巻までねたバレしているようなので、購入なさる方はお気をつけいただいた方が良いかもしれません。レビューを読んだ範囲内で推察するに、辞典・図鑑・地図を一括しイラストを活用した、初心者向けのコンパクトな解説書のように思えます。
アメリカでは今、雨後のタケノコのごとく関連書籍が発刊または再版されているようです。 「ロード・オブ・ザ・リング/指輪物語」の時も、トールキンの真面目な研究書から素人むけの突貫便乗本まで、ありとあらゆる本が発売されましたが、指輪物語と異なり、これらの本が日本語に訳されることはまず無いのだろうなぁ(嘆息)。
ともあれ、これら雨後のタケノコたちの交通整理にお役立ちなのは、このページ。 Bruce Trinque氏とおっしゃる熱心なパトリック・オブライアン読者ご推薦の関連書籍レビュー・ページです。ここにはアヤシげな突貫工事本は含まれていません。 でも「Port Wine Sea」という読者パロディ集は含まれているんですけれども(16巻The Wine Dark Seaのもじり)。これいったいどのような作品なんでしょうか?
このラインナップは、歴史書が一覧になっていてありがたいですね。「Nelson's Navy : The ships, Men and Organization 1793-1815」など1冊持っていたら大変役にたちそうですが、こんな調子で買い始めたらあっという間に「買い物かご」の合計額が100ドル突破してしまいそうで困ったものです。 唯一の救いは、今がドル安のことでしょうか?
★追加情報のご案内 只野四十郎さんのHP「Sailing Navy 王国海軍 木造帆船軍艦の時代」に、「オーブリー関連書籍」のページが登場しました。「トップページ→参考資料→参考文献(洋書)中の「オーブリー関連本」とお進みください。
2003年10月29日(水)
秋から冬のエピック・ムービー/M&Cビデオクリップなど
全米公開まであと2週間たらず、アメリカのマスコミもそろそろ、この映画を取り上げ始めました。 CBSテレビでは先週金曜の映画紹介番組の中でメイキングを紹介したようですし、日刊紙USA Todayも「秋から冬のエピック・ムービー特集」」として、M&Cを始めとする5作品をこのページで詳しく紹介しています。 リンクはもちろん「マスター&コマンダー」に張っておきますが、上の各作品の写真部分をクリックすると他作品の映画解説も読むことができます。 M&Cについてはとりたてて新しいことが書かれているわけでもありませんが、ポール・ベタニーの評価が高いのが印象的です。
それにしてもこのラインナップ…歴史小説好きファンジー好きには豪華すぎます。 「ラスト・サムライ」「ロード・オブ・ザ・リング:王の帰還」「アラモ」「コールドマウンテン」ですよ。 私じつは密かにPremiere日本版12月号(特集:トム・クルーズと最後の侍たち)を買っていたりするのです。 日本での公開順は「ラスト・サムライ」がいちばん早くて(日米同時公開)12月。「コールドマウンテン」が正月第二弾だから1月末頃? 「王の帰還」と「マスター&コマンダー」が2月の予定です。 あぁ…日本は年度末だっていうのに。この忙しいときに…。
さらに、Yahooアメリカのこのページでは、Only on Yahoo! ヤフーのみの特別企画として、映画のビデオクリップを見ることができるそうです。例によって劣悪PC環境の私には無理なものですので試していませんが、ご覧になれる方はお試しください。 Only on Yahooの下の写真右、Click to watchの下のClip:というところをクリックしてみてくださいまし。
さてこのページにはいくつか写真が紹介されており、各写真はクリックすると拡大します。 トップページの6枚の写真の下に「More Master and Commander Photos」という下線表示があり、ここをクリックするとさらに新しい写真を見ることができますが、
この先の写真にはねたばれの可能性があります。
「The Far Side of the World」はシリーズ10巻目の作品ですが、今回の映画化にあたり、ウィアー監督はこれ以外の巻からもいくつかエピソードを持ち込んできています。その中には3巻「特命航海 嵐のインド洋」からのものもあるそうです。 3巻を読まれた方は、この先の写真をご覧になると「これはひょっとして3巻のあれ?」と思われるのではないかと思います。 いや私は、これってたぶんあれじゃないか?と思ってるのですけれど、いかがでしょう? あれだったらいぃなぁ、私あのエピソードは大好きなので、是非動く映像で見てみたいと思っているのです。
やはり、原作付き映画化の場合は、映画公開前のスチール写真公開にはリスクが伴いますね。 「ロード・オブ・ザ・リング:王の帰還」についても最近かなりの映像がネットに流れ始めてきていますが、これに関してはほぼ原作通りの物語進行のため、写真を見るとそれがどのシーンなのか、原作を読んでいるファンにはわかってしまいます。 「ロード…」については、私はいつもこのサイトさんから情報を見させていただいているのですが、最近の写真流出にはこちらの管理人さんも悩んでおられるようです。
実はこのサイトが、私がそもそもこの情報日記を始めようと思い立ったきっかけなのでした。 しかし実際に自分で情報中継を始めてみて思うことは、この指輪物語サイトの管理人さんってとんでもなく素晴らしい方だ…ということ。 なんと言っても情報量が、この日記とは天と地ほどにも違いますものね。よく毎日これだけの量を要約翻訳なされるものだと、本当に頭が下がります。 これだけの時間を工面するのは大変なことだと思うのだけれども。
私の場合、昨日は駆け込みで映画に行っていたので、更新ができませんでした。 10月31日で公開終了となる映画「アララトの聖母」。 アルメニア系カナダ人を主人公として、三代のアルメニア人の語る迫害の歴史。テーマも構成もマケドニア系アメリカ人を主人公にした「ダスト」(昨年7月日本公開)と全く同じなのですが、描き方も雰囲気も全く違っていて、同じ血で血を洗う過去の歴史を描きながらこのようなアプローチもあるのだと驚きました。 いろいろと考えさせられる良い映画だと思います。同時多発テロ以降、世界では民族間の対立がさらに激しいものになっているけれども、このような形での相互理解もあるのではないかしら? 今の時代には必要な映画のように思われます。
2003年10月28日(火)
M&Cサウンドトラック
映画「マスター&コマンダー」のサウンドトラックについて、こちらのページでその一部を聴くことができる…はずです。例によって時代遅れのネット環境にある私のPCには無理な相談なので、私自身は試しておりませんが、通信環境の良い方はぜひお試しあれ。 このページ右上の「Listen」というところをクリックしてみてください。
このページでは映画全体とサウンドトラックの紹介をしていますが、画面をずずいっと下の下まで下げていきますと(逆光の美しい洋上のサープライズ号の写真のさらに下へ)、キャスト一覧が出てきます。 これは、以前に公式ホームページのところでも書いたことですが、このキャストはねたばれをしています。 うっかり見てしまいますと、部下のうちの誰がジャックのもとに戻ってくるのかわかってしまいますので、この件についてお知りになりたくない方は、サープライズ号の写真より下をご覧にならない方が賢明です。
さて映画M&Cのサウンドトラックは3人のオーストラリア人作曲家の手によります。彼らは先年シドニーで行われたミレニアム・イベントの際に共同で「The Ghost of Time」を作曲しており、ピーター・ウィアーはこれに感銘を受けて、今回のサウンドトラックにこの3人の音楽家を選んだとのこと。 一人目はIva Devis、ポピュラーミュージックを得意とするオーストラリアのミュージシャン。二人目はRichard Tognetti、オーストラリア室内楽団のリーダーでバイオリニスト、作曲の他にも映画では、ラッセル・クロウへのバイオリン指導にあたっています。三人目はChristopher Gordonここ数年、作曲家として頭角を現しTVドラマ「白鯨」の音楽などを担当していますが、本来は指揮者で映画「ムーラン・ルージュ」のサウンドトラックは彼の指揮によるものだそうです。
帆走軍艦の時代は、ドラムが行動開始の合図となることから、このサウンドトラックにも打楽器が多用されているとのこと。 また19世紀の歴史ドラマにもかかわらず、シンセサイザーを用いた曲もありますが、これはウィアー監督の「当時の船乗りたちは最先端の冒険者であった」という考えに即したものだそうです。 19世紀らしい、素朴な民俗音楽やジャックやスティーブンがよく演奏している古典音楽ももちろん含まれています。
サウンドトラックの構成は以下の通り 1 The Far Side of the World 2 Into the Fog 3 Mozart: Violin Concerto No. 3 K.216, 3rd movement 4 The cuckold comes out of the Amery 5 Smoke 'n' Oakum 6 Vaughan Williams: Fantasia on a theme by Thomas Tallis 7 Corelli: Adagio from Concerto Grosso op. 6, No. 8 in G minor 8 The Doldrums 9 J.S. Bach: Prelude From the Unaccompanied Cello Suite no. 1 in G Major, BWV 1007( チェロ演奏ヨー・ヨー・マ) 10 The Galapogos 11 Folk Medley 12 The Phasmid 13 The Battle 14 Boccherini: La Musica Notturna Delle Strade di Madrid no. 6, Op. 30 15 Full Circle
ボッケリーニやコレルリなどはおそらく、ジャックとスティーブンが合奏しているという設定なのでしょう。 でもスティーブンの吹き替え(!)はヨー・ヨー・マですよ。すごいですね〜。なんだかスティーブンには勿体ない(こらこら)ですよね。
サウンドトラックの紹介にあたっては、冒頭で紹介したページのほかに、こちらのレビューも参考にしました。
2003年10月27日(月)
先任順位
2つのネタで週末更新を予定していたのですが、調べものが終わらずupすることが出来ませんでした…ので代わりに、かなり脇道かもしれない雑談など。
先日、1805年10月に誰が何処にいたか?を調べていた時に、ふと妙なことが気になり、資料をお持ちの方にわざわざ調べていただきました。 その気になった妙なことととは、 ジャック・オーブリーとホレイショ・ホーンブロワーは、はたしてどちらが先任なのか?
あの当時の海軍さんでは、これは一番大事なことでした。 席次からボートに乗る順番まで、全て先任順。艦長任命日が全てなのです。 ドラマ「ホーンブロワー1」で焼き討ち船が迫ってきた時も、ボートに乗る順番で「先任」を主張していた艦長さんがいましたっけ(笑)。
というわけで、この先任順位なのですが、オーブリーについては2巻「勅任艦長への航海」(下)275ページに「5月23日付で勅任艦長に昇進する」とあります。 ただ問題は、この5月が何年の5月かなのです。 オーブリーが海軍本部でメルビル卿からこの昇進を告げられたのは、1804年9月。さてではこの5月は翌年の5月なのか?それとも遡り辞令が交付されるのか?いったいどちらなのでしょう? 実はこれがけっこう大問題なのです。 というのは、ホレイショ・ホーンブロワーが勅任艦長になったのは、1805年の春から夏の間だからでして、5月23日が1805年であった場合、非常に微妙な問題になるのですね。
オーブリーの問題がはっきりしない以上、これはホーンブロワーの任官日付を詰めるしかないのですが、あいにくとこちらも、本編には詳しく書かれていません。 けれどもありがたいことにホーンブロワーには「ホレイショ・ホーンブロワーの生涯とその時代」というC.N.パーキンソンの研究書(?)があります。 私は残念ながらこの本を持っていないのですが、この件、先日のオフ会の折りにこの本をお持ちのT氏にお願いして調べていただきました。(ありがとうございました。)
それによりますと、この本にも正式な任官日は明らかにされていないとのことです。しかし、 「ホレーショ・ホーンブロワーの生涯とその時代」P.176によると 「しかし、後任にもかかわらず、彼は沿岸防備隊の体調に任命された。これで 1805年6月1日以降、ホーンブロワーは少なくとも制式艦長の資格を持つ ようになった」との記載がある。 とのことです。
ということは、一応ジャック・オーブリーの方が先任と考えて良いのではないでしょうか? ですからもし、「M&C」のロンドン・プレミアにヨアン・グリフィスが招待されたとしても、彼はラッセル・クロウを先任として立てなければならないわけです(???)。 ちなみに年齢では、オーブリーが1770年生まれ、ホーンブロワーは1776年生まれですから(10月21日にご紹介したM.S.氏の一覧表による)、オーブリーの方が6才年上です。
ちなみにオーブリーの部下であるサープライズ号の海尉たちは、みな1803年以降の海尉任官になりますので、1796年6月海尉任官のホーンブロワーの副長ブッシュには、とうていかないません。
★追加訂正 ジャック・オーブリーの勅任艦長任命日について、1804年5月23日であるという情報を、「Persons, Animals, Ships and Cannon in the Aubrey-Maturin Sea Novels of Patrick O'Brian」(10月29日付け参考書籍をご参照ください)をお持ちの方からいただきました。ありがとうございました。
というわけで、これでオーブリーの先任は確定です。さかのぼり辞令ってあの時代のも(あの時代だからこそ?)あるんですねぇ。
2003年10月26日(日)
Honour This Day――トラファルガー海戦記念日
10月21日は、英国ではトラファルガー戦勝記念日。 ロンドンにいっらしゃる方は、今日トラファルガー広場に行かれるとパレードがご覧になれます。 ネルソン提督がスペインのトラファルガー沖でフランス・スペイン連合艦隊に大勝利をおさめたのは、1805年10月21日のことでした。
トラファルガー海戦の意義とか詳細については、専門に解説してくださっているサイトさんが幾つもあると思いますので、ここでは趣向を変えて「この日、海洋小説の主人公たちは何処にいたか?」を、明らかにしてみようかと思います。
2〜3年前のこと、海外の海洋小説ページを探していて面白いものを見つけました。 M.S.氏なる方の作成された「ナポレオン時代の海洋小説主人公たちの経歴一覧(Careers of Fictional Napoleonic Sailors)」というHP。 左端に年号(1756-1815)、右には生まれの古い順にボライソー、ドリンクウォーター、ホーンブロワー、オーブリー、ラミジー、デランシー…と海洋小説の主人公たちの名が並びます。誰がいつ何処にいたか?はっきりすっきり一目瞭然の一覧対照表になっているのです。 もっともこの一覧表、日本では未翻訳の小説も含まれていますので、完全にねたバレではあるのですが。
あまりに便利なので、そのときはページごと保存させていただきました。 ところが今回、これをupするに当たって、みなさんにもこのアドレスをご紹介しようと思いましたら…HPが消えていたのです。 あぁなんてこと。 M.S.氏ご自身は別に活動停止されたわけではなく、海の向こうの掲示板には時々書き込みをされているようなのですが。 早くまたHPも復活していただきたいと切に願うものでした。
ともあれこのM.S.氏の力作一覧表から、1805年を見てみたいと思います。
まずはこのHPの主役であるジャック・オーブリー艦長。 1805年10月は、原作では3巻に当たります。ジャックはサープライズ号で遙かかなたのインド洋に遠征中でして、トラファルガー海戦の一大事などつゆ知らず、東インド会社の船団護衛にいそしんでおります。((3巻「特命航海 嵐のインド洋」ハヤカワ文庫)
やはり航海途中にあったのが、C.N.パーキンソンの主人公リチャード・デランシー艦長、彼は10月に英国を出航しローラ号でインドに向かうので、ジャックとはちょうど入れ違いですね。(5巻「南海の秘密基地」至誠堂) この二人は全くトラファルガーに関わっていないのですが、これはむしろ例外で、他の主人公たちの多くは、多かれ少なかれこの海戦の影響を受けることになります。
アレクサンダー・ケントの主人公リチャード・ボライソーは中将。旗艦ハイペリオン号でトラファルガーより手前の地中海にいました。ツーロンとカディスの中間あたりのようです。 フランス艦隊に合流するスペイン艦を少しでも抑えようと、こちらも小規模ながら海戦を展開しています。 その後ジプラルタルに入港し、初めてトラファルガーの勝利とネルソンの悲報を知るのでした。(17巻「栄光の艦隊決戦」ハヤカワ文庫)
ダドリ・ポープの主人公ニコラス・ラミジ艦長はトラファルガーの現場にいました。が、実際に戦闘に参加したわけではなく(一応そういことにしておきましょう。戦列艦ではないのだし)、フリゲート艦カリプソ号で偵察や信号中継などの任務に当たっていました。無線通信の無い時代のこと、現場で海戦を目撃しながら状況を推察するしかなく、ネルソン提督の旗が降りてからも、最悪の事態を徐々に理解していくまでのタイムラグに、読んでいる私たちも事の重さを実感するのでした。(21巻「トラファルガー残照」至誠堂)
海洋小説の主人公で、いちばん現場に近いところにいたのは、M.S.氏によれば、リチャード・ウッドマンの主人公ナサニエル・ドリンクウォーター艦長のようです。ドリンクウォーターのシリーズは、日本では4巻(1800年)まで二見書房から翻訳出版されていましたが、その後続きが出ず立ち消えになってしまいました。けれども本国では先が出版されており、トラファルガー海戦絡みの物語はそのものずばり「1805」というタイトルの6巻目となります。 ドリンクウォーターはスペインで捕虜となり、なんと敵の旗艦(ヴィルヌーブ提督のヴュサンチュール号らしい)から海戦を体験するとのこと。ヴィルヌーブ提督の降伏後は護送任務にあたるようです。(6巻「1805」Sheridan House Publishers)
もう一人、この戦いに巻き込まれた小説の主人公がいます…が、海軍さんではありません。 バーナード・コーンウェルの主人公リチャード・シャープ。英国ITVでドラマ化され、ショーン・ビーンが主人公を演じたことで最近では日本でも一部では有名(?)。彼は陸軍のライフル銃兵です。 いったいどうして陸軍さんがトラファルガー海戦に巻き込まれたかというと、なんでもインドからの帰国船が海賊に拿捕され、捕虜として北アフリカに連れていかれそうになったところを戦列艦に助けられたが、その艦が海戦に参加することになった…といういきさつのようです。シャープはまぁあの通りの性格ですから、いったいどういう話しになるのか、とっても不安。どなたか読まれた方がありましたら、詳細をお聞かせください。(17巻「Sharpe's Trafalgar」 Harper Collins )
最後にご紹介するのは、やはり最近英国でTVドラマ化されているC.S.フォレスターの主人公ホレイショ・ホーンブロワー。 彼は勅任艦長になったばかりで、海戦当時には英本国で待機中でしたが、連絡を受けロンドンに出頭してみると、仰せつかったのはなんと、テムズ川をさかのぼるネルソン提督の葬列指揮だったのでした。(4巻「トルコ沖の砲煙」ハヤカワ文庫)
さて、再来年2005年はトラファルガー海戦から200年目の記念の年に当たります。ロンドン・グリニッチの英国立海事博物館などはこれに合わせて企画展などを予定しているようですが、…果たしてテレビはどうするのでしょう? ITVのドラマ「ホーンブロワー」はいまちょうどこの前の巻の途中まで来ているようですが。やはり2005年に合わせて4巻のドラマ化があるのか…? でもこの4巻…お読みになった方はおわかりだと思いますが、200年記念TVドラマにふさわしいのかどうかは…、ちょっと悩むところなのでした。 実を言うと、ホーンブロワー自身は上記のような状況なのですが、彼の副長をつとめたブッシュ海尉の方はトラファルガー海戦でテレメア号に乗り組み、なかなか活躍しているようなのです(「パナマの死闘」の中で語られています)。この際、ブッシュ(ポール・マッガン)主演…というわけには、やはりいかないでしょうねぇ。
というわけで、ずばり海戦そのものを描いた作品は、英国にはなかなか無いのですね。やはりトラファルガーについては史実があまりにも詳しく残されているので、フィクションで書きにくい部分もあるのでしょう。 こういうものはかえって外国人の方が書きやすいのかもしれません。 実は私の年代には女性の海洋小説ファンが意外と多いのですが、その原因となっているのが、1979年に発表された青池保子さんの「トラファルガー」。現在は秋田書店の漫画文庫に収録されていると思います。 たかが漫画とあなどるなかれ。本当によく資料を調べて描かれています。英国ポーツマスの海軍博物館にトラファルガー海戦時のジオラマ模型が展示されていますが、これを見た時に私が驚いたのは、それがかつて「トラファルガー」の漫画に描かれていたのと全く同じ光景だったことでした(リチャードが「鳥のように綺麗だ」といったあれです)。
2005年記念ということであれば、私はひとつお願いがしたいと思っています。ラミジ艦長シリーズのダドリ・ポープが書いたノンフィクション「England Expects -- Nelson and the Trafalgar Campaign」(Chatam Publishing)、これを是非、日本でも2005年に出版していただきたい…と。 この本は基本的にはノンフィクションですが、ネルソン提督とハーディ艦長のやりとりなど、途中一部フィクション風のところも挿入され、なかなか読ませる1冊です。 どこかの出版社でこの願いを叶えていただけないでしょうか?
本日の書き込みにあたっては、TさんとFさんのご助力をいただきました。本当にありがとうございました。 また、ここに登場する本について詳しいことをお知りになりたい方は、下層甲板の住人さんのホームページ「Lowerdeck」の海洋小説リストに全て網羅されていますので、こちらが便利です。 Lowerdeck HOMEの「Hammock」をクリックすると海洋小説リストにたどりつけます。
2003年10月21日(火)
命綱の無い理由――Capt.クロウ インタビュー
「ここから眺める世界は、ほんとうにとびきり素晴らしいんだ。ここまで来た甲斐があるんだよ」 ここというのは、サープライズ号のメインマストのトップ。甲板から138フィート(41m)の高さがある。 「命綱がなければ、かなり危険だ。トム・ロスマン(20世紀FOX会長)はもちろん良い顔をしなかった。彼は電話をかけて来て、一体全体君は何をやっているんだ!と言うんだ」
一体全体なぜ命綱をしないのか、ラッセル・クロウは説明する。 「僕自身は決して高いところが好きなわけではない。だがジャックが上るのである以上…」 パトリック・オブライアンは、ジャック・オーブリーを「実戦派の艦長たち(fighting captains)の中でももっとも決然たる男」と表現しているが、同じことがラッセル・クロウにも言える。…とメイキング本の著者トム・マッグレゴール氏は記している。 断固たる決意、生得の威厳、ぶっきらぼうなユーモア感覚まで。 クロウに自然と備わっているリーダーシップは、ピーター・ウィアー監督も認めるところ。 「彼は生来のキャプテンなんだ。俳優たちのキャプテンであると同時に、艦のキャプテン(艦長)でもある」
ジャックのこのような面について、クロウ自身はこう語っている。 「ジャックは家父長のようなものだ。常に全乗組員たちのことを気にかけている」 そしてクロウ自身もまた、撮影開始以前のトレーニングキャンプから、同様のことを気にかけていた。 「このような映画では、自然に確立されたリズムとか、上下関係とかが重要な意味を持つ」
オブライアンが自身の登場人物たちに語らせるように、俳優たちも演じる登場人物のエキスパートにならなければならない。演技に命を宿す上で最も重要なことである。 スティーブン・マチュリンとだけはジャックの話し方が異なるのも、同じように重要なことである。 ラッセル・クロウの語るスティーブン・マチュリン。 「スティーブンは、いろいろな意味でジャックの救い主になっている。ジャックの中には芸術を愛する心もあるが、スティーブンにはそれを開け広げられる。さもなければ彼は権威のみの艦長であるしかない。彼にはスティーブンが必要なのだ。スティーブンが腕の良い医者で、ジャックや乗組員たちの命を救ってくれるからだけではない。彼が船乗りでは無いからだ。スティーブンはジャックに率直で客観的な意見を述べることができる。彼らの世界観は非常に、まったく異なったもので、時には論を戦わせたりもするが、二人とも自分たちが航海している世界の広さは身にしみて実感していて、どれほど互いを必要としているかも十分に承知している。他の士官たちには認めていなくとも、スティーブンには自由な発言を許している」
そして先の話しに戻り、 「ジャックは体を張って自らの責任を果たしていく、それは彼の第二の天性だ。もし僕がその責任を体現しなければ、他の俳優たちや、サープライズ号本来の乗組員たちが自然と反応してくれることはないだろう。このようなことで彼らの信頼を勝ち得、高めていくことができる」 これが彼が命綱をつけない一つの理由。 そしてもう一つの理由は、ピーター・ウィアー監督の撮りたい映像を100%かなえられるように。命綱があるとどうしても撮影範囲が限られてしまうのだ。 「トム・ロスマン会長にもそう言ったんだ。それで落ちたらどうする?って彼は言うんだが僕は言った。こういう場合は、いちばん重要なことは何か?を考えて、臨機応変に対応しなけりゃならないんだよ、ってね。まず一番大事なことは、しっかり捕まっていることさ。簡単じゃないか!」
以上は、先日から引き続きご紹介しているメイキング本の第5章から、ラッセル・クロウのインタビューの要約です。一部意訳しています。 原文は、こちらをごらんください。
原文のニュアンスを出すことができなくて残念なんですけど、最後の「臨機応変に…」の部分の原文は、「Mate, you change your priority…」なのです。mateっていうのは、船乗り仲間の親しみをこめた呼びかけ。「おまえ」とか「兄弟」とか訳されている場合もあるけれど、ここではどうしてもそのニュアンスが出せなくて(なんと言っても会長さん相手だし、いきなりアンタよばわりでは意味不明になってしまいますし)、ちょっと残念。 原作を英語で読んでいると、この「Mate」っていう呼びかけは実に印象的です。そういう呼びかけのセリフが、ジョークとしてするっと出てくるところが、あぁラッセル・クロウは本当に原作をよく読み込んで役を自分のものにしているなぁ…と、私も実感としてわかるのでした。
2003年10月20日(月)
さらにメイキング本の写真
先日ご紹介したメイキング本より、さらに多くの写真をご紹介。 今回はジャックだけではありません。
こちら をご覧ください。
各写真をクリックすると拡大します。 それにしても、マチュリン先生の眼鏡は初めて見ました。
2003年10月19日(日)
19世紀の「音」――音響製作者インタビュー
もしあなたが、嵐の只中の19世紀にフリゲート艦の「音」を耳にしたいと思うのであれば、トラックの荷台に木材、毛布、300メートル超のロープを積み込み、カリフォルニア州南部のモハベ砂漠を目指すと良い。 砂漠についたら、木枠を組み立て、そこに300メートルのロープを全てぴんと張る。張り終わったらトラックを風速13メートルの強風に立て、アクセルペダルを一杯に踏み込むのだ。 トラックが時速113kmに達した時、そこに再現されるのは、パトリック・オブライアンが「荒れ模様の夜、全ての自然の絆を散り散りに吹き飛ばす天変地異の黙示」と評した、嵐の前触れとなるフリゲート艦の索具の音なのである。
映画「マスター&コマンダー」の音響製作担当(sound designer)であるリチャード・キング氏は、このようにして嵐のフリゲート艦の音を手にいれた。 彼には船員として49年間も海上生活を送った経験がある。 「本当に嵐の夜に自分の船を出そうなんて奴はいない」 だから代わりにこの方法をとったのだとキング氏は言う。
モハベ砂漠は、風が常に南西から吹き安定しているので、録音には都合が良い。 キング氏は砂漠の只中に巨大な足場を組み立て、巨大な横帆をとりつけた。そう、マストの代わりだ。この方法で、氏はさまざまな強さの風での帆がばたつく音を録音することができた。
ハリウッドにはもちろん、沢山の効果音のストックがある。 だがオブライアンの小説によく言及される「うなりを上げながら頭上を飛び越えて行く砲弾の音」はなかった。 そこでキング氏は、ミシガン北部に住む大砲コレクターを探し出し、州兵の演習場を借りて、実際に年代ものの大砲に様々な砲弾を装填して発射した。 丸弾(round shot)、鎖付き弾(chain shot)、葡萄弾(grape shot)。 録音チームは約80発の砲弾を発射し、発射音だけではなく空中を飛んでいく砲弾の風切り音をも録音した。 キング氏によると、風切り音は発射音と同じくらい凄まじい音なのだとか。
これは「The New Yorker - The Hollywood Issue 10/20」に掲載された音響製作担当者へのインタビュー記事の要約です。原文はこちら。 SOUND DESIGNER--Widked Wind
索具が風に鳴る音、これは楽しみです。 艦の肋材がきしむ音も再現してもらえるのでしょうか? 復元船のローズ号とエンデバー号で撮影しているのだから、これもホンモノ。安心して待っていて良いですね。
私は船の肋材がきしみ、船体に波が当たる音が好きです。聴いていると自分も船に乗っているような気分になることが出来て、私にとってはこれ、癒しのサウンドなのですよね。
どうしてそんな音を持っているかって? 答えは「ホーンブロワー2」(エピソード5)のDVDです。 このDVD、発売直後の2001年6月にAmazon.comで入手したのですが、英語字幕が無いもので(NHK放映前でしたから、もちろん吹き替えもなし)何とかヒアリングする以外に話を知る手段が無く、でも画面があるとどうしても見てしまうので、耳がお留守になってしまいます。 そこでヒアリングのため音だけをウォークマンに落としてじっくり聴く…というのを実行しました。 そのときに初めて肋材のきしむ音…というのを聴いて、あぁこれが船乗りたちが常に聞いている音なのかと感動したのでした(陸に上がるとこれが無いので、静かすぎて落ち着かない人もいるという)。
就寝前のひと時、部屋の灯りを消した後、ウォークマンを耳にこの音を聴いていると、不思議に心が落ち着きます。皆様もぜひお試しあれ。 といっても、それは何処のシーンかいうと、気の狂った艦長に悩む海尉たちが、船倉で謀議をはかっているところだったりするのですけれどもね。 こんなものを寝る前に聴いてって? とりあえず今のところ、幸いにも私はソーヤー艦長の登場するこわい夢は見ておりません。
★訂正のおしらせ 10月16日(木)の日記について、わかりにくい表現があったため、同日午後11時半頃に追加訂正をアップしてます。木曜日の早い時間にこの日記をご覧になった方は、お手数ながら前日に戻り、追加訂正にお目をお通しいただきますようお願い申し上げます。
2003年10月18日(土)
「M&C」メイキング本、10月24日発売
映画「Master and Commander」のメイキング本は、10月24日発売ですが、これに先だってこの本を入手したファンが、ラッセル・クロウの掲示板に一部画像を投稿しています。 クロウの掲示板への投稿ですから、写真はジャックばかりです(スティーブン、副長、キリックとの写真はあります)。
投稿されたご本人も著作権の問題を気にしているらしく、「問題がある場合はご一報ください。すぐに撤去します」との注意書きがついていますので、突然画像が消える、またリンク切れになる可能性もあります。ご了承ください。 メイキング本画像
このメイキング本は、アマゾン・ジャパンから注文可能です。ハードカバーとソフトカバーがあり、値段は何故かどちらも2,514円 ハードカバーはこちら ソフトカバーはこちら
アマゾン・ジャパンでは本の様子がわからないのですが、(米国)アマゾンと英国アマゾンUKで写真を見ることができます。 米国アマゾン アマゾンUK
米国アマゾンでは$20.97=2,320円、アマゾンUKでは£11.19=2,090円。 英国版の表紙は渋いですね。
著者のTom McGregor氏は、英国ITVドラマ「ホーンブロワー」のメイキング本の著者でもあります。 で、さっきの日本版のハードカバーとソフトカバーの謎なんですけど、「ホーンブロワー」の時は、英国版がハードカバー、米国版がソフトカバーだったんです。だから今回も同様の可能性は高いと思いますが、どうでしょう?
同じ著者だからというわけではありませんが、今回クロウのBBSに出ている7番目の写真って、ライトの当たり方とか雰囲気が、「ホーンブロワー」メイキング本のフォスター艦長(デニス・ローソン)の写真によく似てる…と思うのは私だけ?おかしいなぁ。黒海(ホーンブロワーのロケ地)と太平洋では、ずいぶん緯度に差があるから陽の光も違うと思うのだけれども。
追加訂正: 2つ上の段落に、「日本版のハードカバーとソフトカバー」という誤解を招く表現をしてしまいましたが、これはアマゾン・ジャパンから注文できる英語版という意味です。日本語訳のメイキング本が出るわけではありませんので、ご注意ください。 あぁこれが指輪物語くらい有名だと日本語訳も出るのだけれども(ため息)
追加ついでに余計なおしゃべりを一つ。 今回、掲示板に上がっている写真の終わりの方に、海から上がろうとしているジャックの写真がありますが、これってやっぱり毎巻恒例の「艦長水泳」シーンでしょうか? まぁその、某シリーズとは違って「毎巻恒例艦長水浴」ではないし、公序良俗も思ばかっているようですが…。
2003年10月16日(木)
休暇届+海洋小説ファンのためのモータースポーツの楽しみ方
この連休は、更新をお休みさせていただきます。 鈴鹿にF1日本GPを見に行ってまいりますので。 メールを頂戴している方へ>お返事が来週になりますので、あしからずご了承くださいますよう、お願いいたします。
海洋小説も、オフ会などでお話をしていると、男性と女性では見方が違うなぁと思うのですが、これってモータースポーツを見る時にも同じことが言えます。
男性の方は、操縦方法(操艦・運転)や、マシン(艦・クルマ)本体に目がいきがちですし、女性はどうしても人(登場人物・ドライバー)を見てしまいます。 そして、どうしても人で見てしまう私の場合、一見まったく無関係に見えるこの二つの趣味に、共通点が生じます。というか、結局は同じ見方をしているんです。
海洋小説の魅力の一つに、「艦が艦長の性格のように動く」面白さがあります。オーブリーのシリーズは、これまではジャックが独航する話が多かったので、あまり感じられないと思いますが、アレクサンダー・ケントのボライソー・シリーズを読んでいると、この面白さはよくわかります。 17-18世紀は操艦や操砲など全て人力でやっていますから、艦長の性格や部下に対する統率力といったヒューマン・ファクターが、かなりの部分で艦の性能に直結してしまいます。 第二次大戦の時代になると、艦の反応スピードが上がるので、艦の動きそのものにも艦長の人となりが現れることになる。これを見事なドラマに仕立てあげたのが「眼下の敵」で、敵対する2人の艦長は最後には互いを深く理解するようになる…という皮肉な結果がうまれるのです。
F1やその他のモータースポーツを見ていて、私が面白いなぁと思うのは、同じところです。 例えばF1では同じカラーリング(外見)のクルマが2台ずつ走っています。遠目には2人のドライバーの見分けはつきませんが、ドライバーの性格やレースへのアプローチがわかってくると、カーブの突っ込みや咄嗟の判断などで、見分けがつくようになるんです。 海洋小説では各艦に独特の雰囲気がありますが、それはもちろんレースチームにも言えます。最近はどこのチームも多国籍軍になってしまっていますが、それでもオーナーがイギリス人であるか、イタリア人であるかによってチーム・カラーはかなり違いますし、同じ日本企業でも、ホンダとトヨタでは攻め方のアプローチがかなり違う。やっぱり社風みたいなものが出るんだろうなぁと思います。
そしてやっぱり、イギリス人はイギリス人の、フランス人はフランス人の、ドイツ人もイタリア人も日本人も、その国の人らしい戦いをしてしまうんです。これだけ国際化されていて、チーム・スタッフも多国籍なのに、これは不思議。やっぱり競争という場に出ると、追いつめられて地が出てしまうということなのか。 そうそう、同じイギリス人でも、スコットランド人はスコットランド人らしく、アイルランド人はとてもアイルランド人らしいので、英国の冒険小説読み慣れている私はつい苦笑…。 日本人は、マシンも人も、優秀だけど繊細ですね。集中力勝負はきくけど、粘って勝つとか力づくで勝つとかは苦手。
以前に地味なイギリス人ドライバーのファンをしていたことがありました(もうその人は引退してしまいました)。彼は決して諦めない人で、粘って粘って表彰台にたどりつくのです。 1年という長いシーズン、もしくは予選〜決勝という3日間の中で、応援している私の方が先に諦めてしまうことが何度となくあり、ときどき「どうしてこの人、これでも諦めずに強気でいられるの?」と思ったりしたのですが、決勝が終わってみると、彼はしっかり表彰台の一角に乗っている。 先に諦めてしまった私は深く反省。 その時実感として、どうしてナポレオンもヒトラーもドーバー海峡が渡れなかったのか、ちょっぴりわかったような気がしたのでした。
2003年10月11日(土)
「Premiere」誌米国版11月号
映画専門誌「Premiere」米国版11月号の「M&C」に関する記事が、アメリカのネットに紹介されていました。 「Crowe's Nest」(Premiere 2003.11)
Premiere米国版の記事は、いずれPremiere日本版に掲載されることが多いのですが、日本公開が3月初旬なら、2004年2月20日発売の4月号でしょうか? 1月20日発売の3月号は「ロード・オブ・ザ・リング」特集になることが予想されるので、それを考えると3月初旬公開の方が国内雑誌の扱いは多くなるかなぁ…などど。 今から何やら、鬼の笑いそうな話ですが…。
さて、この記事は、ピーター・ウィアー監督と主演のラッセル・クロウが、いかに1805年のサープライズ号の航海を再現していったか?を紹介しています。
ウィアー監督がサープライズ号の正確な再現と時代考証にこだわったことは、前回ご紹介しましたが、監督が大切にしたのものは事物だけではなく、小説に描かれていた空気、雰囲気の再現でした。それぞれのシーンを再現しながら、実際とは何かが違う…と感じとる監督の鋭い感覚に、スタッフやキャストは感嘆しています。
ウィアー監督は、パトリック・オブライエンの長年のファンでしたが、この映画化を引き受ける前に、オーストラリアの復元船エンデバー号にクルーとして乗り組み、4日間航海しました。この経験を通して自信を得た監督は、この仕事の指揮をとることを決意したそうです。
砲の煙の色から、背景で作業する水兵のロープワークまで、全てが正確に再現されているか? ウィアー監督の目はあらゆるものを見逃しません。 出演者たちが当時の空気を再現できるよう、監督は全ての俳優たちに、撮影中はTVを見ることを禁じました。俳優たちは代わりに手紙を書いたり、楽器を演奏したり、絵を描いたりして空き時間をすごすことになりました。
ウィアー監督は雰囲気づくりに、音楽を効果的に利用しました。水葬シーンの撮影前には、全てのキャストが配置につくと、悲しく荘厳な曲を流しました。それから艦長役のラッセル・クロウが進み出て、水葬をとりしきる…といった具合です。
監督とともに、率先して出演者たちの雰囲気づくりを進めていったのは、「艦長」のラッセル・クロウでした。 船乗り役の出演者は全員撮影前に、操帆や武器の扱いを学ぶ2週間のトレーニング・キャンプに参加したのですが、キャンプ開始前夜、クロウは参加者全員を集めグロッグ・パーティを開いたそうです(グロッグのレシピは、ウィアー監督が提供しました)。パーティの席でクロウは全員に色分けされたシャツと名札と針と糸を渡し、最初の命令を下したのでした。 「明日の朝までに、胸に名前を縫いつけてくるように」 このシャツ、士官は青、水兵は白、そしてもちろん、海兵隊は赤だったそうです。
撮影中もクロウ艦長は、ラグビー対抗戦、ジャム・セッション(この話は、ビリー・ボイドが他でも語ってましたね)などを主催し、非公式に士官たちを夕食に招待するなど、オフでも出演者たちのチームワークを深めようと、いろいろ心配りをしていたようです。 撮影中もクロウは、自分の演技だけではなく周囲の全てに気を配っているとスタント・コーディネーターは語っています。「彼には常に全方位360度の周囲の動きが見えているんだ」
ウィアー監督とクロウのおかげで、この映画は単なるart-house adventure(歴史博物館を見て歩く冒険…というような意味でしょうか?)やアクション映画にとどまらず、深みのある心理劇に仕上がっている…と、この記事は結んでいます。
2003年10月10日(金)
サープライズ号 製作スタッフインタビュー
アメリカのサイトに、この映画のもう一人の主役とも言うべきサープライズ号のセット製作(と役者船ローズ号の改修)を手がけた3人の人物のインタビューが掲載されています。 この映画では、海上ロケではローズ号を用いましたが、バハ・カリフォルニアのFOX社のスタジオ内に原寸大のもう1隻のサープライズ号の精密なセットを建造し、こちらでも撮影を行っています。
まず1人目は船大工のLeon Poindexter氏、ローズ号の復元にも関わった氏は、ローズ号の再改修と、スタジオ内に建造された原寸大のサープライズ号のセットの建造に従事しました。 2人目は、パトリック・オブライアンの大ファンでもある時代考証家のGordon Laco氏。彼は艦の建造のみならず、当時の風俗習慣から軍艦上の慣習まで、細部にわたって助言を行いました。 3人目は、オーストラリアから参加のNick Truelove氏。氏はオーストラリアの復元帆船エンデバー号の建造に携わり、完成後は乗組員としてエンデバー号での航海を経験しています。こちらでは原寸大サープライズ号の製作と、水兵らしい振る舞いの指導などを担当しました。 インタビュー他(HTML) これらのインタビューはいずれ、公式HPのスタッフページに収録されるとのことです。上記ファイルは重いので、上手く開けない方は公式HPを。
さて、このインタビューは全部で29ページにもなるので、ポイントだけかいつまんでご紹介します。
まず、サープライズ号のセット製作とローズ号の改修について。 10月2日にご紹介したように、サープライズ号は実在したフリゲート艦です。今回の製作にあたって、スタッフが英国海軍省に問い合わせたところ、幸運にもロンドンのホワイトホール(官庁街)には18世紀の実在艦サープライズ号の設計図面が残されていることがわかり、今回の製作は全てこの図面をもとに行われました。
実際に洋上航海に出なければならないローズ号には制約がありましたが(例:現代の海上航行にはレーダーやエンジンの装備が義務付けられている)、メキシコのスタジオ内に建造されたセットのサープライズ号は、各甲板の高さ、チェーンポンプの数や配置、旧フランス艦の特徴を残す甲板や絃縁(bulwarks)など全てが、正確に18世紀のサープライズ号の設計図面通りに再現されています。 またローズ号も、できるだけサープライズ号に近い形に戻すため、マスト上の近代装備を一部とりのぞいたり、絃縁を改修するなどの措置をほどこされました。
実際の設計図面をもとに正確に再現された砲列甲板(gundeck)の天井はとても低く、役者さんたちは四六時中、梁に頭をぶつけてはののしり、役者さん以外の全ての撮影スタッフは何時頭をぶつけても良いように常にヘルメット着用だったとか。
これらの作業を通して、また実際の撮影中にも、ピーター・ウィアー監督は、非常に厳しくリアルさ、すなわち「当時の通りであること」を求めました。 時代考証家のLaco氏のもとには、「艦上ではどのような時に帽子を被り、どのような時には手に帽子を抱えて歩いたのか?」とか、「1805年の英国でクジラの油はどの程度重宝されていたか?」などという細々とした質問が次々に寄せられました。 復元帆船エンデバー号の乗組員であるTruelove氏は、撮影中も常に水兵役の役者さんたちの動きをチェックし、「船乗りらしくない」動きを丹念に直していきました。水兵役の役者さんとエキストラは全て、2週間の船乗りトレーニングを受けたのですが、それだけでは補えない部分を詳しくチェックしたとのこと。
ピーター・ウィアー監督は絶対に妥協せず、細部に至る全てがリアルであることにこだわったと言います。 その情熱とこだわり、人々を突き動かす力には、3人とも感心しており、ウィアー監督と仕事がしたいと望む映画関係者の気持ちがわかった、と答えています。 Laco氏はまた「この映画を見る観客は、リアルな現実に、リアルに反応し行動するこの映画の登場人物たちに、必ずや心を動かされるだろう」とも述べています。
物語の中でサープライズ号は南アメリカ大陸の先端ホーン岬をまわり大西洋から太平洋に入りますが、この部分の映像はセカンド・ユニットの撮影班が実際の帆船から、航海しながら撮影しました。ただしこの帆船はローズ号ではありません。 セカンドユニットの帆船は、なんと復元船、新エンデバー号だそうです。
オリジナルのエンデバー号は、キャプテン・クック率いる18世紀の英国海軍艦船(正確にはH.M.Bark Endeavourなので、艦とは言えないかもしれません)で、クックが1770年に現在のニュージーランドとオーストラリアの東海岸を発見し、地図上に正確な位置を確定したことで、その名を広く知られています。 Australian Maritime Safety Authorityは1993年に、このエンデバー号を復元しました。 エンデバー号のホームページ
余談ながら、今夏7月末〜8月初にかけて、BBC製作による「新エンデバー号の大航海」というドキュメンタリーがBS朝日で放映されました。これは復元船新エンデバー号に現代のクルーが乗り組み、ハンモックに寝み、堅パンと塩づけ肉を食べ、天測で現在位置を割り出し、風だけを頼りに航海する…という18世紀そのままの方法で、オーストラリアからインドネシアへ向った、その航海を記録したTVドキュメンタリーです。 海洋小説ファンには大変参考になるすばらしいドキュメンタリーなので、ソフトの発売を願うのですが。
「パイレーツ・オブ・カリビアン」について、「このスタッフは海と船を愛してはいないのではないか」と指摘された方があるのですが、少なくとも「Master and Commander」については、この心配はなさそうです。 原作のファンでもあり、時代考証を担当したLaco氏はこう述べています。 原作を読んだ人ならば、ジャックがサープライズ号の帆走性能を愛していることを知っているだろう。ジャックが艦と一体となった時、紙の上では不可能に思えることが可能となる。ジャックは彼女(艦)から最高を引き出す術を知っている。サープライズ号はジャックのために生き生きと輝くのだ。映画の中でもサープライズ号はひとつの人格を持っている。
この部分を読んだ時に、思わずどきどきしてしまいました。私は3巻上のP.289あたりが大好きですが、これを画面で見ることができるのであれば、これほど嬉しいことはありません。
2003年10月09日(木)
ロンドン・プレミアにプリンス・オブ・ウェールズご臨席
アメリカのネット情報に面白いものが上がっていました。 「Master and Commander, The Far Side of the World」ロンドン・プレミア(Royal Premiere)の招待状。 チケットの画像はこちら 2003年11月17日ロンドン・レイチェスター広場のオデオンにて「プリンス・オブ・ウェールズご臨席」とあります。
プリンス・オブ・ウェールズすなわち皇太子ご臨席とは…やはりHis Majesty's Ship Surpriseだから??? 実は以前に一度、ロンドン滞在中に、皇太子ご臨席のプレミア上映と重なったことがあります。といっても翌日の新聞を読んで初めて知ったのだけれど。 その映画は「チャーリーズ・エンジェルス」。
「ふつうのハリウッド映画でも、お世継ぎがプレミアに行くの?」 思わず疑問を口に出した私に、同行の友人は答えた。 「あら、チャールズだからでしょ?」 納得。 チャーリーズ・エンジェルス、すなわち、チャールズの天使たち。 新聞には「チャールズと天使たち」というキャプションとともに、チャールズ皇太子と3人のエンジェルたちの写真が載っていました。
ちょっと興味を持ったので、「ロンドンプレミア」と「皇太子」をキーワードに日本語ページに絞って検索をかけてみました。 すると、皇太子ご臨席とあいなった最近のプレミアは、「ハリー・ポッター」「エニグマ」「ムーラン・ルージュ」。 他にもあるかもしれないけれど、とりあえず検索にかかったのはこの3作品。
「ハリー・ポッター」は今や英国が世界に誇る作品だからわかるとして、「エニグマ」は、チャーチル首相直々による英国最大の暗号作戦だから??? でも「ムーラン・ルージュ」は? それともチャールズ皇太子は映画がお好きで、気軽にプレミアにお見えになるだけのことなのでしょうか? どなたかご存じでしたらご教示ください。
余談ながら、「エニグマ」という映画。日本では不人気で、3週間足らずで上映終了となってしまいましたが、英国冒険小説がお好きで、第二次大戦を舞台にしたスパイものや海洋小説を読んでいらっしゃる方にはおすすめです。ダドリ・ポープの「囮のテクニック」(至誠堂)の世界が目の前に展開されます。暗号解読本部付きの海軍連絡将校も、ある海洋小説シリーズをお読みの方には印象が深いでしょうし(ねたバレを避けるために敢えてまわりくどい表現にしています)。 そろそろDVD化されてレンタルが出てくるのではと思いますので、一度ごらんになってみてくださいませ。
というわけで、「Master and Commander, The Far Side of the World」ロンドンプレミアは11月17日 今わかっている限りでは、ロサンゼルス・プレミアが11月10日、その2〜3日前にニューヨーク・プレミアが予定されているとのこと。
主要各国の封切り日は下記の通り。 2003年 11月14日 アメリカ 11月26日 ベルギー 11月27日 オーストリア、ドイツ、オランダ 11月28日 イギリス、スカンジナビア各国、ギリシャ、ポーランド、スペイン、トルコ 12月4日 オーストラリア、ハンガリー 12月19日 イタリア 12月31日 フランス 2004年 1月1日 ニュージーランド 1月9日 ブラジル
日本に関しては、2004年3月4日という説があるようですが、配給元のブエナ・ビスタ・ジャパンのページではまだこの情報はupされていません。私も気をつけていますが、どなたか確認のとれた方がありましたら、おしらせいただけると幸いです。
2003年10月07日(火)
「M&C」公式ホームページ稼働!
「Master and Commander, The Far Side of the World」のオフィシャル・ホームページがやっと半稼働し始めました。 半稼働…というのは、「北米英語」のページしか稼働していないから。そのうえ、そのページの中にもまだあちらこちらに工事中が。
こちらがホームページの入り口ですが、 http://www.masterandcommanderthefarsideoftheworld.com/# 実際に稼働しているのは、こちら http://www.masterandcommanderthefarsideoftheworld.com/intro.html 最初のアドレスで右上の「ENGLISH:North America」をクリックしていただいても、下のページにたどりつけます。
それにしても「北米英語」と「それ以外の英語」を分けるというのは、どういうことなのでしょうか? 「ハリー・ポッター」は子供向けの読み物だったため、セーターとジャンパーなど、子供に馴染んだ日常英語を使い分け、英国版と米国版を作ったと聞きましたが、でもこれは19世紀の歴史もので、この場合、北米とそれ以外って何がちがうのでしょう? 確かにホーンブロワーは、英国版と米国版では一部異なるところもあるのですが(ちなみに日本語版は米国版から訳されています)、オブライアンに関しては英国版と米国版が異なるという話を、今のところ耳にしていません。どなたかこの差違に気づかれた方がありましたら、お知らせください。
さてこのホームページ、最初のフラッシュ映像の終了と同時に、南アメリカ大陸の地図が画面に浮かび上がってきます。そして、大陸をまわるように記されているのが、サープライズ号の航路図。航路上にはところどころに○印があり、ここをクリックすると、さまざまな情報が浮かび上がって来るしかけです。
一つ目は艦長航海日誌。 と言っても「風向、風速、総員日課通り」というお決まりの公式文書ではなく、ジャックの私的日記の形をとっています。…というよりは、最初のページにも明らかですが、これは妻ソフィーへの手紙でしょう。彼がよく書いている、艦の日常を伝えるあの手紙です。
その合間に、解説のページが入ります。これがなかなか本格的です。順を追っていくと以下の通り。 出航32日目(ブラジル沖)日記のはじまり→以下間に日記をはさみながら、 「艦長について」→「艦の紹介」→「リオ・デジャネイロ寄港」→「士官について」→「艦上生活について」→「乗組員について(水兵の階級、准士官について)」→「ホーン岬」→「戦闘準備」→「火薬庫について」→「砲列甲板について」→「砲撃について」→「軍医について」→「敵国フランスについて」→「白兵戦について」→「ガラパゴス」
★この解説ページを読むにあたっての「ねたバレ対策」 ・ストーリー展開を知りたくないという方は解説だけを読み、艦長日記を読まないことをお勧めします。 ・日記を読むと、どのような順番でことが起こるかだけはわかってしまいます。 ・エピソードや事件の結果、個々の登場人物の反応については日記を読んでもわかりません。 ・ただし敢えて1エピソードだけはネタバレされています。 (…これを敢えてバラした意図は、きっと私のような「おバカ」を釣るためでしょう。これを読んだ瞬間に、私は思わずPC画面にすがってしまいました。やれやれ)
さて、航路図とともに一航海を終えた後には、地図の下の「About the Film」という部分をクリックして、ホームページ本編に入ります。 本編は6つのカテゴリーに分かれています。 ・Story(工事中) ・Trailer(予告編) ・Cast(主要登場人物とキャスト) ・Filmmakers(主要スタッフ) ・Behind the Scene(製作裏話) ・Photo & Download(壁紙、スクリーンセーバー、写真など)
★このページを読むにあたっての「ねたバレ対策」 まだ工事中のところが多い上に、裏話などは読み切れていませんので、現在のところで気づいたことのみ書いておきます。 このほかにもまだネタバレはあるかもしれませんので、ご注意ください。
日本語3巻までの読者の方で、主人公の2人(ジャック&スティーブン)以外の登場人物のその後の運命を知りたくない方は、Castのところは避けて通った方が無難です。これは、この映画の中での登場人物の運命が書かれているという意味ではなく、一度本編上からは姿を消した脇役の再登場に関するネタバレです。
海軍は大きな一家のようなものなので、かつての同僚や上司や部下との再会は、海洋小説にはつきもののドラマなのですが、シリーズ10巻目の「The Far Side of the World」にもこれはあてはまります。 いやはやその、「彼」は8巻にも出てくるので、再登場することは私も知っていたのですが、キャストと写真を見たら、もうじつに「らしくって」…ここでも私はPCの画面にすがって泣きました…というか笑いました…というか。ふふふ。おたのしみに。
ちょうど良いのでもう一つ。この再会ドラマについて ★これからアレクサンダー・ケントの「ボライソー・シリーズ(ハヤカワ文庫)」を読まれる方への注意 再会ドラマが最も上手いのはケント氏です。このドラマを味わいたい方は、「絶対に表紙ウラの“登場人物一覧”を見ないこと」 ここでネタバレしてしまって、再会の醍醐味が半減した…という声をよく聞きますので。
それにしてもこのオフィシャル・ホームページは本当によく出来ています。 もう丸ごと全部ほしい!…という感じ。 プログラムごとDVDのおまけに入れていただきたい。
特に、地図と解説のページでは、当時の艦上生活の様子をリアルに伝えよう…というスタッフの意気込みが伝わってきます。 海洋小説ファンには本当に嬉しい映画になりそうです。 …でも地味、すごく地味。 私は嬉しいんだけれども、これで本当に一般受けするのかしら??? やはりこうなったらもう、アカデミックにアカデミー賞を狙って、オスカーの一人や二人に箔をつけてもらって一般にアピールするしかないのか?
…キャストのページを見ていてつくづく思ったのですが、このキャストって相当のくせ者揃いですよね。 このメンバーで一種の密室ドラマを演じてもらえるなんて、想像しただけでもクラクラしてしまいます。 あぁ今からこんなに盛り上がってしまってどうするのでしょう? とりあえずスクリーンセーバーはしばらくは絶対にダウンロードしないことに決めました。 きっと見とれてしまってPCを動かそうという気にならないに決まっていますので。
2003年10月06日(月)
役者船たち
海洋歴史映画のもう一人の主役は帆船です。 役者船…というのはつまり、映画でさまざまな船の役を演じた帆船たちについて。
「Master and Commander」でジャックの指揮官となるサープライズ号(H.M.S.Surprise)を演じるのは、アメリカのレプリカ船"H.M.S."Rose。H.M.S.はHis(Her) Majesty's Shipの略、現代では「女王陛下の」と訳され英国の艦であることを示します。が、レプリカのRoseはアメリカ船籍ですから、正式には"H.M.S."がカッコでくくられる…というわけです。
現在のRoseの元となった歴史上の実在艦H.M.S.Roseは、1757年に英国で建造された英国海軍の六等級フリゲート艦でした。フレンチ・インディアン戦争などで活躍しましたが、アメリカ独立戦争中の1779年、現在のジョージア州Savannah市(チャールストンとジャクソン・ビルの中間に位置する太平洋岸の港町)に立てこもった英国軍を、海からの進入より守るため、Savannah川水路の中央に沈められました。 その意味では、1794年建造1802年解役のH.M.S.Surpriseより、正確には一時代前のフリゲート艦となります。
今回サープライズ号を演じるレプリカ船ローズは、英国国立海事博物館に現存するオリジナルH.M.S.Roseの設計図から、1970年に復元されました。 アメリカで、セイル・トレーニング用の練習帆船として使用されていましたが、オーブリー&マチュリン・シリーズのアメリカでの出版元であるW.W.Norton社が、1995年4月にパトリック・オブライアン氏と夫人をアメリカに招いた際には、この艦上で記者会見とレセプション・パーティが開かれたとのことです。
"H.M.S."Roseのホームページ 実在艦H.M.S.Roseの歴史 パトリック・オブライアン氏Rose訪問
さて、この夏の海洋冒険映画と言えば「パイレーツ・オブ・カリビアン」。この映画で英国艦インターセプター号を演じたのは、やはりアメリカの復元船レディ・ワシントン号です。 「パイレーツ・オブ・カリビアン」は、18世紀前半が舞台と推定されますが、レディ・ワシントン号のオリジナルであるワシントン号は1750年〜1798年に実在したアメリカの商船(90トンのブリッグ船)でした。H.M.S.Roseとほぼ同時代を生きた船ということになるので、こちらは逆に、映画の年代より一時代後ということになります。
レディ・ワシントン号は、米国ワシントン州アバディーンを母港とする、Grays Harbor Historical Seaport Authorityの船で、個人レンタルも可能だとか。 ただし12月の「パイレーツ・オブ・カリビアン」のDVD発売までは、インターセプター号の衣装(?)のままだそうです。
レディ・ワシントン号のホームページ
このページを見ていくと、レディ・ワシントン号は現在製作中の歴史ドラマ「Night of the Maelstrom」では17世紀の私掠船の役を演じていることがわかります。このドラマも何やら面白そうなのですが、International Movie Databaseなどを調べてみても、製作状況が出ていないのですよね。 TV用の単発ドラマ、またはDVD用のドラマか何かなのでしょうか?
Nigth of the Maelstromオフィシャル・ムービー・サイト
そのほか、最近の役者船としては、昨年11月日本公開だった「モンテ・クリスト伯」。 映画ではマルセイユ港となっている港は、実はマルタ島のグランドハーバー。オーブリー&マチュリン・シリーズでは9巻の舞台、ボライソー・シリーズでも重要な役割を果たす当時の地中海の要衝です。 主人公が乗っていた商船を演じていたのは、英国船籍のEarl of PembrokeとKaskelot、Earl of Pembroke号は元スウェーデンの商用スクーナー船ですが、現在は18世紀のバーク型帆船に改造されています。
日本丸や海王丸のような公的練習船だけが現存帆船だと思っていましたが、欧米にはレディ・ワシントンやEarl of Pembrokeのような民間の帆船はけっこう多いのですね。 今回の調べものには、このページのお世話になりました。 このリストの中には、他の映画やTVドラマで活躍する役者船も数多くあります。
「パイレーツ・オブ・カリビアン」のヒットを機に、これらの船たちにも出演の機会が増えることを願ってやみません。
2003年10月05日(日)
ホーンブロワーと馬(HPご紹介)
友人の藤木ゆりこさんがが、ちょっと面白い視点のページを作りました。 題して「ホーンブロワーと馬」のページ。 http://home.att.ne.jp/yellow/hanaasobi/hansen/ha.uma.html
彼女は乗馬歴…もう10年以上になるのかな? 映画でも本でも、詳しい人しかわからない、乗ったことのある人しかわからない視点を教えてくれて、「なるほど!」と思うことが良くあります。
同じHP内に「馬の映画や本の紹介ページ」とか、「指輪物語における馬」のページもあります。こちらも面白いのでおすすめです。
そう言えば、ホーンブロワーを演じたヨアン・グリフィスの次の映画は「King Arhtur」のランスロット役ですが、先月20日に発売されたロードショーかスクリーンのどちらかに、この映画で相手役のギネヴィアに扮するキーラ・ナイトレィのインタビューが載っていました。いま彼女は乗馬と剣の特訓中だそうです。「これは相当おてんばなギネヴィア姫になりそうだ」と書かれていました。これはヨアン君の乗馬シーンにも(こんどは)期待して良いのではないでしょうか?藤木さん>
2年前の夏、彼女に誘われてもう一人の友人と、モンゴルに乗馬体験ツァーに行って来ました。一人で馬に乗るのって生まれて初めてだったんですけど、とりあえず早足(きっと専門的な表現が他にある筈)にタイミングを合わせるまでは出来るようになりました。が、ゆっくりの駆け足になったらとたんに振り落とされ、お馬さんには馬鹿にされて(笑)言うことを聞いてもらえなかったりも。
でもこの体験以後、歴史ものとかファンタジーを読むとやっぱり違うんですよね。お馬さんが近くなる…というか、登場人物たちの体験がより身近に感じられます。 同様のことは船にも言えて、これを「海星」の一日体験公開で横浜港沖をうろちょろしただけの私が言うのはおこがましいですが、やっぱり乗ってみると違うものです。
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話は変わりまして、土曜日に、先日ご紹介していた日比谷公園の国際協力フェスティバルをのぞきに行ってきました。 参加団体の中に、南米の熱帯雨林の保存を訴えて活動しているNGOがあり、そこでナマケモノの絵はがきを売っていたので、買ってきてしまいました。
解説によると、ナマケモノというのは必ず、自分の暮らしている木の根元を専用のお手洗いとするそうで、つまりは自分を養ってくれる木にちゃんとお返しをしている。循環型エコ・リサイクルのお手本なのだそうです。 こんな「いい奴」のナマケモノを「堕落」させてしまうなんて(ナマケモノは本来草食だそうです)、本当に悪い艦長ですね。 でもコイツ、愛嬌があって本当に可愛い。やはり一艦に一匹は欲しいかもしれません。
2003年10月04日(土)
映画「パトリオット・ゲーム」にキリック発見!
関東地方では、今週の木曜洋画劇場がハリソン・フォードの「パトリオット・ゲーム」でした。 これ原作は読んだけども、そう言えば映画は見なかった…と思い、あまり本気ではなく流し見していたのですが、英国王室の補佐官役がどうも「ポアロ」のヘイスティングス(ヒュー・フレーザー)なのでは…と気になって、翌日確認のため、映画データベースを調べてみたんです。 答えは当たりだったんですが、そこで思わぬ発見を。
キリック役のDavid Threlfallが出ている!
Threlfallは舞台が中心の俳優さんらしく、日本で公開された映画で出演しているのは、この「パトリオット・ゲーム」と「ロシア・ハウス」(ショーン・コネリー主演、原作はジョン・ル・カレ)だけなんですね。
「パトリオット・ゲーム」でのThrelfallはハイランド警部という役で、この映画、イギリス側の刑事さんは3人登場するのですが、たぶん一番印象の強いあの人だな…と目ぼしをつけ、今日もう一度、ビデオを借りてきて確認しました(あぁこんなことなら録画しておけば良かったわ)。
ロンドン警視庁の担当責任者で、病室のジャック・ライアン(ハリソン・フォード演じる主人公)のところに話を聞きに来て、犯人(ショーン・ビーンが演じている)の護送にも同乗する肝っ玉の座った警部ですが、脇役にもかかわらず小粒でピリリと辛いというか、いい味を出しています。 いや、かなりの性格俳優とお見受けいたしました。
「パトリオット・ゲーム」は1992年の映画ですから、今から11年前、当時30代だったThrelfallも、いまや40代後半になっていて、いやはや…なんだかとっても楽しみです。 憎悪にかられた犯人役のショーン・ビーンにもびくともせずに向こうを張ってましたから、艦長やロサンゼルス市警(映画がちがう…)が相手でも一歩も引かないかと。
それはそれ、として。 映画「パトリオット・ゲーム」。なんだか懐かしかったです。古き良きアメリカ…という感じで。 国際謀略小説のジャンルも時々手にとる私は、むかしのトム・クランシーは結構好きでした。「レッド・オクトーバー」「パトリオット・ゲーム」「クレムリンの枢機卿」ぐらいまで。 ところが1991年に湾岸戦争が起きてしまい、私は毎日テレビニュースで展開される現実で手いっぱいとなり、、ハイテク軍事スリラー小説なんてしばらくお休み…しているうちに、クランシーの主人公ジャック・ライアンはどんどん偉くなり、それとともにストーリーも過激化していきました。結局それ以降、「レッド・ストーム・ライジング」以降のクランシーは読んでいません。
ここ2〜3年、アメリカはますます強気ですし、私がふたたびクランシーの本を手にとることが仮にあったとしても、それはそうとう先になりそうです。でも15年前には「パトリオット・ゲーム」を面白く読んでいたのですよね。
この物語には、アメリカの良い面も多く描かれていると思います。主人公ジャック・ライアンと家族との絆、上司や同僚との信頼関係、お客様を我が家に招くことが本当に心のこもった持てなしだとするアメリカ独特の価値観…などなど。 最近のアメリカを見ていると、ついついそんなことを忘れてしまいがちですが、この映画を見ながら私は、そういえばアメリカにはこんな古き良き時代もあったなぁ…と思ってしまったのでした。 古き良き…とは、ふつうは1950〜60年代をさすもので、1980年代の後半をさしてこんなことを言うのはおかしいかもしれませんが。
2003年10月03日(金)
サープライズ号の帆船模型
アメリカのネットより、ジャック・オーブリー艦長の愛したフリゲート艦サープライズ号の、帆船模型のニュースです。 あなたのお部屋に、サープライズ号の模型はいかがですか? 完成品は$13,500(148万円!)、ご自分で組み立てられる場合のキット代金は$3,350(37万円)。
ただしこの模型、どうやら全長1.6メートルとか。実際に帆走も出来る(!)そうです。 模型の詳細はこちら。 六畳の私の部屋に入れたら、私が出て行かないと駄目か。
製作販売は、1760年〜1820年の1/24スケールの模型を専門に製作しているカリフォルニアの会社です。 The Ships of Steel, Chapman & Hutchinson Ltd. 購入方法(申し込み方法、支払い方法など)はこちらのページを。 海外から申し込みの場合、VISA、Mastercardで支払可能、発送はFedexですが、送料が$200程度かかります。 この会社には「この艦の大砲は撃てるのですか?」という問い合わせがよく寄せられるそうですが、答えは「NO」だそうです。
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海洋小説の場合、主人公となる艦が実在する例は比較的少ないのですが、3巻と、今回映画化される10巻に登場するサープライズ号は、同名の実在艦をモデルにしています。 先にご紹介したChapman & Hutchinson社のホームページには、実在のサープライズ号(H.M.S.Surprise)についても、こちらに紹介されています。
これによると、サープライズ号は、元はフランスのル・アーブルで1794年に建造された、L'Unite号というフランスの24門コルベット艦でした。 しかし1796年4月、地中海で拿捕され、サープライズ号と改名され、英国海軍の28門フリゲート艦となりました。 海事史上でこのサープライズ号の名を有名にしたのは、3巻「特命航海、嵐のインド洋」上P.255で語られる、サープライズ号とヘルミオネー号をめぐる事件です。 これは、1799年に反乱を起こし現在のヴェネズエラに逃げ込んだヘルミオネー号を、サープライズ号のエドワード・ハミルトン艦長が奪回したもので、そのためこの艦は、復讐の女神ネメシスの別名でも呼ばれることになったのでした。 実在のサープライズ号は、その後英国に帰国し、1802年に解役となりました。
というわけで、3巻の舞台である1805年には、サープライズ号という艦は歴史上には実在しませんし、同様に、ジャック・オーブリーが士官候補生だった1782〜83年にはサープライズ号はもちろん(その前身となるL'Unite号も)建造されていません。
ところで、ダドリー・ポープのラミジ・シリーズ(至誠堂)、C.S.フォレスターのホーンブロワー・シリーズ(ハヤカワ文庫NV)をご存じの方は、オーブリー3巻のこのくだりを読んで、「あれ?」と思われた筈です。
ラミジ艦長シリーズの12巻「密命の結末」は、このヘルミオネー号奪回事件を下敷きにしたフィクション。 サープライズ号役はラミジの指揮するカリプソ号ですが、作戦内容も実際の事件とはかなり変わっています(この場合は事実より小説の方が奇なり、で面白いです)。 この本の巻末には、このシリーズを訳された出光宏氏による詳しい解説がなされており、それによると、ヘルミオネー号はこの事件の後(1999年)にレトリビューション号と改名され、最終的には1805年に解役されました。
そこで記憶の良い方なら、ロバート・リンゼイ演じるペリュー提督のセリフを思い出されるでしょう。 「ガディタナ号はレトリビューション号と改名された。君の指揮する艦だ、コマンダー」 そう、ドラマ「ホーンブロワー2」(エピソード6)の最後に、ホレイショの初めての指揮官になるブリッグが、レトリビューション号という名前でした。 ただしこちらは、18門のブリッグ艦で、実在の32門フリゲート艦レトリビューション(ヘルミオネー)号とは艦の等級が異なりますし、それ以前の問題として、ホレイショが最初の指揮艦を得た1800年には、実在のレトリビューション号がまだ存在していることになります。
でも、今にして思うに、C.S.フォレスターは「スペイン要塞を撃滅せよ」を執筆した際に、ヘルミオネー号のことを念頭において、ガディタナ号をレトリビューション号と改名することに決めたのではないでしょうか? そして、2000年に放映されたTVドラマ「ホーンブロワー2」の製作スタッフも、それらを踏まえた上で、前後編となるエピソード5&6のサブタイトルを、「Mutiny(反乱)」、「Retribution(応報)」と名付けたのだと思います。 海事史に詳しい人にとっては、Mutinyと来ればRetributionなのでしょう。またあのドラマの結末と、各登場人物の運命を思うとき、「(因果)応報」というこのサブタイトルは、とてもふさわしいもののように思います。
2003年10月02日(木)
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