stray notes

氷砂糖

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折 鶴
2003年07月31日(木)

帰りの電車で、折り紙で鶴を作っているひとを見た。年は40代後半から50代前半くらい、女性で、眼鏡をかけていて、髪型はパーマがかかったショート。化粧をしてはいるが、口角の下がったくちもと、きびしく冷たい目元、つりあがったまゆにしかめられた額をしていて、全体にひどくいかめしい、何かへの怒りをくすぶらせているような雰囲気があった。が、鶴を折る手は器用にすばやく動き、次々と折鶴ができていく。彼女はしわしわのビニール袋に、できた折鶴を無造作に入れていく。バッグから間断なく折り紙を取り出してはつくる。

ぼうっと眺めながら、ずっと忘れていたことを思い出した。中学のとき、全校で、鶴をたくさん折ったことがあった。同じ学年の違うクラスに、難病にかかっている子がいたのだ。彼女の何度目かの手術のためか、あるいは入院生活の途中でかはわからないけれど、鶴を皆で折っていた。彼女の病名は忘れたけれど、「天使のように優しい子だった」と言われていたのは知っている。一度遠くから見たことがもあった。その頃は視力も普通にあったので、久しぶりに学校に来て、沢山の級友に囲まれた彼女が、実際天からの使いのような、少し浮世離れした雰囲気で、やわらかく微笑んでいたことを覚えている。

結局、千羽鶴の願いはかなわなかった。でも、できあがっていた鶴たちは彼女に届いていたというのは聞いた。喜んでいた、ということも。この、目の前で鶴を折っているおばさんにも、何か事情があるのかな……。祈りがこめられていたのかな。わからないけれど、もしそうなら、かなうといいなと思う(全然違うかもしれないが)。思いながら、わたしは電車を降りた。


あなたのピアノが聞きたいです。
2003年07月25日(金)

13時過ぎ。夜は飲み屋だが、昼はランチを出しているお店で食事をしていた。ふと、店内にかかってる音楽が心地好いな、と思った。家では大体巷で流れているような、人の声入りをかけているのだが(最近までt.A.T.u、今はあゆの&)。クラシックもいいものだな、とぼんやり思う。ピアノの音が、心身にやわらかく浸透していく。でも……ピアノなら、あのひとがいちばんだったな、と思い出す。

中学校の集会。わたしはスピーチコンテストで入賞したため、いつもとは違う席にいた。賞状をもらったあとも、楽屋のような場所にいた。「彼」もそこにいた。彼はどこかのピアノのコンクールで優勝した、のだったと思う。表彰されたあと、1曲弾いていた。すごく綺麗だった。わたしはあれほど素敵な演奏を、後にも先にも知らない。真珠が転がっていくような、海がそれを追いかけるような(変な比喩ですみません)、広がりと清澄さを感じた。彼はにこにこしていたわけではないが、演奏することがとても気持ちよさそうで楽しそうだった。1曲しか聞けないのが残念だったし、その1曲がとても短く思えた。それほど心身に心地よかった。

甘い顔立ちのハンサムだった。先生方も敬意をもって接していたし、彼の立ち居振舞いや表情や雰囲気は、大人と対等で自然だった。一緒にスピーチコンテストに出ていた先輩が、吐息混じりに教えてくれた。「○○くん、凄いよね。彼、ほんとはわたしたちよりずっと英語上手いのよ。海外公演とかたくさん行ってるから」と。わたしはそういった世界にはうといので、それがどの程度のものなのかはわからないし、そんなにすごいならなんでこんなフツーの公立中学にいるんだ? とは思ったが、軽く微笑んで会釈して、席に戻った彼は、たしかにとても育ちがよさそうにみえた(それなりに挫折したり壁を乗り越えたりした芯の強さはありそうだったが)。

名前も覚えいていない。曲名もわからない。今も彼がピアノを続けているかだってわからない。でも、聞けるものなら。多少高くても、聞きに行きたいな……と思う。あてもなく唐突にそんなことを思い出す、わたしは疲れているのかもしれないが。


地下鉄でかっこいい人を見た
2003年07月22日(火)

朝、通勤中、とある駅で。女性を支えながら男性が、「すみません、通してください、おります」と言ってホームにおりていった。恋人か夫婦なのかな? と思ったが、どことなく雰囲気が変だ。ぼーっと眺めていたら、男性は手を高く上げ、駅員を呼び、「病人です。お願いします」と言う。駅員が女性を支えると、彼は「すみません。よろしくお願いします」と言って車内に戻ってきた。

うわー、かっこいいー。顔は見えなかったけど、わたしはこういうひとに凄く弱いのです。大きな背中、厚い胸、広い肩。背広着た後姿の感じからは、30代後半かな? わたしは健康状態が低空飛行のわりに、倒れたりはしないタイプなのですが。とっさに支えてくれるような男の人には、強い憧れがあるのです(よろけたら一緒に倒れるような人だとつらい。というか困る)。そういうひとがいてくれるのは嬉しいし、世の中嫌な事件も多いけど、捨てたもんじゃないよね、と、心があたたまるような気がしました。

しかしあの女性、あれから大丈夫だったのかな。連休明けで疲れていたのか、栄養状態がもとからよくないのか、無茶苦茶顔色悪かったです。アイシャドウや口紅が浮いて見えるくらい、顔の色がなくて。ひとりで立っていられないようだったし、命に関わる状態でないといいのですが。


おばさまありがとう
2003年07月19日(土)

洗濯物を、コインランドリーに持っていった。いつもは10分100円の乾燥機を使うのだが、今日は量が多いし、たまには7分100円(こちらのほうが火力が強い)を使おうかな、と思い、下の方の乾燥機に洗濯物を入れた。お金を入れて、スイッチを押して……。? いつまでたっても動かない。と思ったら、上の段の乾燥機が、中に何も入っていないまままわりはじめた。うわ、押すとこ間違えた! しかも空焚き! ひえー火事になっちゃったらどうしよう!

「すみませーん。すみませーん」
どんどんと店主の家に通じるドアをたたくが、反応がない。いないのかな……。そりゃあ常駐してるわけにもいかないだろうけど。どうしよぉ……。呆然としながらあせっていると、後ろから、
「どうしたの?」
と、小柄でショートカットのおばさまが声をかけてくれた。
「えーと、下のでかわかすつもりだったんですけど、上のスイッチ押しちゃったみたいで」
「あらー。お金もったいないわね、いれなおせば?」
「え。あの、途中であけていいんでしたっけ?」
「んー? 大丈夫じゃない? あけてみましょうか?」
 って、このかたもうあけてらっしゃるし。…あ、大丈夫なんだ。とまった。
「あ、ありがとうございます。いれなおします」
 わたしは急いで下の機械から上の機械にいれなおした。
「このスイッチもねー、まぎらわしいわよねー。わたし、ときどきあけちゃうのよ。けっこう平気なのよね」
 朗らかに話している彼女に、
「どうもありがとうございました」
 と告げ、わたしはいったん家に戻ることにした。

 帰る道々、わたしって応用力ないよなぁ、機転もきかないしなぁ、と少々情けなかった。わたしがパニック映画に出てたら、はじめのほうであっさり死ぬか、他の登場人物に迷惑をかけながら中盤まで生き延びるか、何にせよパニクって、自分で道を切り開けないまま死ぬんだろうなぁと思ったりした。

 何はともあれおばさまに感謝。ああいう、地に足のついた、少しのことで動じない、そして臆することなく人に手を貸せる人はいいなと思う。思うけど、そちら側に回れる日というのは、もしかしたら来ないのかもしれないなぁ……。



箇条書き。
2003年07月17日(木)

・最近ブックオフに売った本、以前千円いかなかったのに、同じくらいの量で、3千円以上になったので吃驚。同じようなことをWEB上の知人さん(といってもいいのだろうか?)も書いていらしたので、やはり基準が変わったのかもしれない。

・WEBで知り合った人と、どこまで親しくしていいのは悩むところ。心の内をあれこれ明かしてもらったり明かしていたりするようでいて、実際は顔も本名も知らない、街のどこかで擦れ違ってもわからないひとなのだ。

・人それぞれ距離のとり方や感じ方は違うし、親しさのレベル設定も違うだろう。ここまで考えて気付いたけど、わたしは現実世界でもそのあたりの判断はうまくない。どこまで入ってよく、どこから入ってはいけないのだー? 人付き合いや世渡りのうまいひとは、そんなこと考えなくともわかったり、できたりするのだろうか?

・ネットで匿名であることで、小心だったり臆病だったりするひとが、気持ちや考えをひとに伝えられるのは悪いことではないと思う。そうして少しずつひととのかかわりになれてゆき、現実でも思いを述べられるようになるならむしろいいことだとも。でも、悪感情が露出して、猛スピードで駆け巡ったり、増殖したりしてるとなんだかなーと思う。そういうひとたちも、もとはコミュニケートしたい、と思っていたのなら、自分とあまり大差はない気もするしなァ。


喪中
2003年07月12日(土)

身近なかたの葬儀にあって思ったこと。自衛本能なのか、どこか現実感がないなかでも、ずっと思っていたこと。

死は、変に重々しく受けとめなくてはいけないというものではないとしても、けして軽々しく口にしたり粗雑に扱ったりしてはいけないのだなということ。ある程度の年齢にならないと、そして実際に経験しないと、この感覚は理解できないのだろうということ。

わたしは、記憶力が弱い。ので、なんでもことばにして残したくなってしまうくせがある。でも、これから死や、それに類するテーマを扱うときは、もっと注意深くよく考えて扱おうと思う。

今までも相応の覚悟でことばを使っていたつもりだったけれど、やはり知らないあいだは、気遣いや心配りが足りていなかったように思うから。

とか書き残してる時点で、アウト?


記憶が潰えてしまう前に。
2003年07月05日(土)

土曜日に働くのは、実を言うとそんなに嫌いではないです。すこしほどけたような、でもほどけきっていないような雰囲気が好き。あまり電車も込んでいないし、そんなに忙しくもないのもお気に入り(夫は休みなのに、というのは少し淋しいけど、彼だってひとりになる時間はあったほうがいいのかもしれないし)。

でも、仕事がこんでいない、というのは、雑念がわきやすいということでもあるんですよね。たまたまひとりだったりすると、かなり自制心が必要になります。PCが目の前にあって、ネットつないでよくて、調べ物もOKなのですが……。業務上ログ管理はされてるので、そんなに変な場所には飛べないし。自分のサイトやenpituには、危なくて行けないし。それでも言い訳可能な範囲で検索したり勉強したりしていると、うわっ。

まるで関係のないところから、昔大好きだった(今も好きです)かたの文章を見つけてしまった。でも、ここクリックしたら不味いだろうなぁ……。強い誘惑と衝動とたたかい、いったんブラウザを閉じました。家にPCがあるのだから、アドレス覚えて行けばいいや、と。しかし家ではPC自体立ち上げないこともあるし、たちあげても最近は決まったところ以外ネットサーフィンしないのに、どうしてこういうところでこういう風になるのかな……。

関係ないけどタイトル変えました。HPではDaysのままですが、毎日はやはり書けないので。そして日々のことを書いてるとも限らないので。記憶が潰えてしまう前に、印象に残ったことを書き留めるというスタンスでいくかな、と。


漫画の前で途方に暮れて
2003年07月03日(木)

漫画や文庫本があまりに増えたので、少し売ることにした。わたしは手が淋しかったり目が淋しかったりすると、ついつい買ってしまうので、このてのは増える一方なのだ。口が淋しくて煙草を吸うとか、飴をなめるということはないのだが、これも中毒の一種なんだろうなと思う。活字中毒、というよりは、冊子中毒?

とりあえずばーっと黒いバッグ(4泊5日の荷物が入る)に、もういらなさそうなもの、二度と読まなさそうなものを詰め込む。しかしそれでもたいして棚やケースにあきスペースが増えないあたり、あんまり意味がないのかなーとがっくりしてしまう。今回はそんなに華のある本(中古でもすぐに売れそうなのとか)はないので、たいしたお金にもならなさそうだけど、とりあえずなくていいものではあるしなぁ。一応全部中味を確認したら、週末あたりにブックオフへでも持っていこう。

それにしても。よく買うよなぁ、よく読むよなぁ、と自分でも多少呆れてしまう。よーく考えると、数冊我慢すればハードカバーも買えたのでは? という気もしないでもない。ああでも場所とらないからいいのか。そういえば、実家にも山のよーな文庫や漫画があるんだよなぁ。こちらに持ってきたのもけっこうあるけど、持ってこられなかったものも、たくさん。

一度読んだらもう満足していらないもの。何度か読んで飽きたもの。何度読んでも飽きないもの。昔好きで今はそうでもないけど、手離せないもの。明確な基準はないけど、大事度は少しずつ違う。これらすべて収納できるだけのお金とスペースがあったらどうなったのかな、と考えないでもないけど、やっぱり捨てたり封印したり売ったりするもの、というのは出てきてしまいそうだな。

死んだら何も持っていけないけど、生きてる間は、快適に楽しく暮らしたい。だからきっと、また買っちゃうし、読んじゃうし、整理もしなくちゃいけなくなるんだろうなと思う。どの作業も気分はいいんだけどね。ときどき、あまりの量にぼーっとしてしまったりはします。自業自得。


人種が違う
2003年07月02日(水)

お給料があるうちに、と美容院に行ってきました。目にかかっていてうざったかった前髪を切り、ほとんどとれてしまっていたパーマをかけなおしました。それはいいのですが。今回いつも担当してくれるひとの補助で、若い男の子が簡単な処理をしてくれて、えーと。

「梅雨ってイヤですよね、梅雨がいいってひといるんですかね」
「んー雨が好きな人とかは嬉しいんじゃないですか?」
「そんなひといるんですかね。あ、砂漠の人とかですか」
いや、わたしは雨って静かで落ち着くから嫌いじゃないですよ。

「六本木ヒルズ行きました?」
「今バーゲンやってますよね。どっか行きます?」
ごめんなさい行ってません。行かないかもしれません。

「僕、移動ほとんどバイクなんですけど。ってかバイクしかもってないんですけど、最近休みの日が雨続きで。僕じっとしてるとか家でまったりとか苦手なんですよー。動いてないと辛くって」
わたしは逆です。家でのんびりとか好きだし、じっとするなと言われるほうがつらいです。

「髪、染めないんですか? なんか理由あるんですか?」
「いや、なんとなく(本当は、髪が細くて柔かいから、あまり苛めたくないのです)」
「あー、なんとなくっすかー。僕なんとなく染めちゃって、最近やばいんですよね、根元黒くって」
「でも、けっこう似合ってますよ?」
「あ、ありがとうございます! そうなんですよね、評判いいんでついひっぱっちゃって」
「次が難しいですねー」
「また新しいのチャレンジですかねー」

まあ人当たりや感じはいいし、雰囲気も元気な子犬のようで、可愛いと思えば可愛いといえなくもないんですが、多少疲れましたね。入ったばかり(多分。あまり見たことないし、雰囲気が新入りっぽい)で、頑張って喋ってたのかもしれませんが……次回から、もうすこし人を見ようね。あと、接客で喋るときは、好みに対する否定をまぜないほうが無難だと思うよ。君が嫌いなものでも、好きな人はいるかもしれないでしょ? 君が好きなものでも、嫌いな人だっているかもしれないんだし。

彼がここを見てる確率はものすごく低そうだから、内心の呟きを書いてみました。



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