enpitu



セクサロイドは眠らない

MAIL  My追加 

All Rights Reserved

※ここに掲載されている文章は、全てフィクションです。
※長いこと休んでいてすみません。普通に元気にやっています。
※古いメールアドレス掲載してました。直しました。(2011.10.12)
※以下のところから、更新報告・新着情報が確認できます。 →   [エンピツ自由表現(成人向け)新着情報]
※My Selection(過去ログから幾つか選んでみました) → 金魚 トンネル 放火 風船 蝶 薔薇 砂男 流星群 クリスマス 銀のリボン 死んだ犬 バク ドラゴン テレフォンセックス 今、キスをしよう  俺はさ、男の子だから  愛人業 

DiaryINDEXpastwill


2003年03月02日(日) 私は、両親に甘えられなかった分を取り戻すように、彼の愛を受けたいと必死になっていた。

双子でなければ良かったと思う。これだけ違っていても、なお、両親を含む周囲は、双子は同等に扱わなければならないと固く信じているようだ。実際には、全然違うのに。全然違う二つの人格を同じになど扱えるわけがない。

私達は、一卵性双生児だった。生まれて一年以内の私達姉妹の写真。丸々太った金色の巻き毛の赤ちゃんが二人。写真には、いつも、満面の笑顔を浮かべて写っている。二人はいつも同じように笑い、おそろいの洋服を着せられていた。

だが、二歳になった時、姉は原因不明の難病を患い、私達はその時から別れ道の右と左に、進むべき方向が別れてしまった。それ以後の写真では、次第に二人一緒の写真は少なくなる。姉の写真は、ほとんどが室内でのものになった。ベッドルームで、お気に入りのぬいぐるみに囲まれていたり、誕生日パーティで呼ばれたたくさんの親族に囲まれたりしている。一方の私は、外遊びが大好きな活発な女の子になっていた。外で、太陽の日差しの下で遊ぶ私の写真が多い。

姉は、うまく食事が取れず、次第に痩せ細っていった。私が小学校に上がる頃にも、まだ、三歳の子供のように小さかった。筋力も発達せず、外出はいつも車椅子だ。毎冬、肺炎を起こし、両親は大騒ぎするはめになる。

二人の娘を平等に育てようとすればするほど、両親は、姉に気を遣い、姉が寂しい思いをしないようにと、自然、姉の側に付いていてやるようになった。私は、美貌と健康を一人占めしている代償に、両親の愛情をずいぶんとたくさん我慢した。いつも姉と比べられて、「あなたは恵まれているわね。」と、人々から言われるのにもうんざりしていた。

私は、姉をかわいそうに思った事など一度もない。家の中で、私は姉がいないように振舞った。姉の事を考えれば考えるほど、姉がいない事を望むようになるだけだ。

私は、姉という呪いから逃れるために、双子の姉などはいないと思う必要があったのだった。

ハイスクールに入り、私は、ますます美しく育った。勉強もよく出来たので、クラスの人気者でもあった。男の子達からはどんどんデートの誘いが来た。私は、誰とも付き合わずに、しばらくは、皆と友達のように振舞った。

だが、そのうち、一人の転校生と付き合う事を決めた。彼は誰よりも大人だった。黒い癖のある髪。浅黒い肌。控えめな微笑。彼は大人だった。私は、両親に甘えられなかった分を取り戻すように、彼の愛を受けたいと必死になっていた。彼も、そんな私を、とても大事にしてくれた。

そうして、ある日。

「きみの誕生日パーティに呼んでくれたら嬉しいな。」
彼は、いつものように控えめな口調で、私に言った。

それまで、私は、誰も私の誕生日パーティにクラスメートを呼んだ事がなかった。理由はもちろん、姉を見られたくないから。だが、その頃、学校ではステディを家に招きあうのが流行っていたのだ。

「でも・・・。」
私は、困惑した口調で言った。

「嫌ならいいんだよ。」
彼のあっさりとした言い方が、私に寂しさを感じさせ、私は慌てて言った。

「今まで、私、お友達を家に呼んだ事がなかったの。ほら。姉が病気でしょう?父も母も姉の世話に懸りきりだったから。でも、あなたはいいわ。きっと姉も一緒に歓迎してくれると思う。」
「本当?嬉しいな。」

彼は、私の手をそっと握り、私は、赤くなってうつむいた。

--

パーティは、いつものように、姉の好みをふんだんに取り入れた悪趣味なものだった。私は、そんな様子を恋人に見られる事が恥ずかしくておどおどしていた。だが、彼は、実に見事にふるまった。礼儀正しく父と母に挨拶をし、姉と私を対等に扱って、誰もが、彼としゃべっていると、彼と同様、心が綺麗な人間という気分になるのだ。

「どう?」
私は、途中、彼を気遣って訊ねた。

「最高だよ。君の家族は素敵だね。」
私はその言葉を聞いて、心に暖かいものがふわっと流れ込んで来るのを感じた。

姉は、私のそばで、ウトウトし始めていた。大勢の人の間にいて、疲れたのだ。

「姉の事も、ありがとう。」
「双子だものね。よく似てるよ。」
「ええ。ただ、ちょっとだけ。姉と私は違ってしまった。いっそ、病気になったのが私だったらどんなに良かったか。代わってあげられたら、どんなにいいかと思う事があるの。」

私は、この時、誇らしげな顔をしていたと思う。彼が私にとって、親であり、兄であった。彼に認めて欲しかった。実際、姉に対して思いやりがある言葉を出したのはこの時が初めてだった。

その時だった。

「本当にそう思ってる?」
姉の声が響いた。

私は、驚いて振り向いた。

寝ていたはずの姉の目は、キラキラと輝いて私のほうを見ていた。

「ええ・・・。ええ、もちろんよ。お姉さん。」
私は、答えた。

--

今、私は、柔らかい布団の上で、毎日毎日を過ごしている。姉は。私の彼とデートしている。

誰も気付かない。私達姉妹は入れ替わってしまったのだと。私が言ったところで、誰が信じるだろう。

姉と恋人は、しばしば私の寝室を訪れる。姉は、あたかも私を世の誰よりも愛しているような言葉を掛けてくれる。だが、用心深く、その言葉だけは避けているのが分かる。
「ああ。出来る事なら、代わってあげたいわ。私達は双子ですもの。同じように幸福になる権利があるのだから。」


DiaryINDEXpastwill
ドール3号  表紙  memo  MAIL  My追加
エンピツ