⊂真昼の夢⊃
2002年10月24日(木)

昼間に眠った所為じゃないのに、全然ねむれない。
12時まで凄く眠くてベッドに入ったのに。
眠気があるのに眠れない。
腹が立って、苛々として、泣きそうだった…(弱。
眠れるひとが羨ましかった。

あたしの夢に知っているひとが出てくる事は滅多にない。
友達とか学校のひととか家のひととか、出てこない。
一番出てくるのが、女のひと。
そのひとは何時も着物を着ていて、幼かったり大人だったりする。
あたしはその子に『鈴子』という名前を勝手につけてた。
もともと『鈴子』っていうのは、あたしが勝手に実家の天井で鳴る鈴の音や。
何となく気配のする童につけていた名前で。
あたしが其の座敷で眠らなくなり、自分の部屋をもつようになってからも。
部屋の扉の向こうで、鈴の音は止まなかった。
ばあちゃんに話すと、ネズミが歩っている、とあしらわれたけれど。
『鈴子』は可愛らしい鈴の音を鳴らしながら、あの家に棲んでいた。

今年、東京で暮らすようになってから七ヵ月。
最近、部屋の扉の向こうで、時々だけ鈴の音がする。

『鈴子』だけじゃなかった。
夢に出てくる子供達は、みんな鮮やかな絣の着物を着て。
時に井戸の中を覗き込んでいたりする。

夕べは螢火の夢をみた。
知らない場所に手を引かれ歩いて、闇をくぐり抜けると。
真っ暗な街の中、螢火が降り積もっていた。
涙が出そうなほど綺麗な景色だった。
其の先で、道端に死体が落ちていた。
それでも螢火は止むこと無く、闇の街に降り注いでいた。


⊂麒麟の角⊃
2002年10月23日(水)

夜型人間です。
昨日はちゃんと寝たのに、昼間、気絶しかけた。
慌ててパニックの薬をのんだけれど。
今夜もあまり眠れる自信はなく。
気が向いたらベランダに出て、脳味噌を凍らせるつもりです。
思考を少し止めたい。

あたしには此の環境で満足なのに。
ひとりそれを崩そうとしている人間がいる。
楽しければそれだけで、何もかも忘れてただ、馬鹿をしたいのに。
全てに理由をつけて、目障りです。

脳味噌のふわふわした気持ち悪い膜が拭えない。
今日は其れが原因で、2回倒れました。
足の裏がずっと冷たいんです。
冬のアスファルトを歩き回った時のように。
どんどん酷くなってるような気がする。
どうしたら治まる?
治ったとしてもきっと、憶えていたら帰ってきちゃうんだよね。
結局、僕らは動物なのです。


⊂月蝕⊃
2002年10月21日(月)

沈んで、沈んで、堪らなかった。
お風呂に入りながら、駄目だ、帰ろう、と思ってた。
地元に。
お風呂から上がったら支度をして、明日の夕方にでも帰ろう。
そう思って臑に出来た傷を嘗めた。
髪を洗っている時に、メールの着信音が聴こえた。
何時もならシャワーの音に掻き消されて聴こえない癖に。
お風呂から上がってメール見たら。
「うたってる?」
って書いてた。
本当はうたってなかったし、寧ろひとつ声さえ発していない癖に。
「うたってる」
と、答えた。
うそつき。
それと。
「僕の曲をうたって」
と書いてあって、少し嬉しくて返事をした。
それから三時間経ったけれど、まだあたしはハミングさえしていない。
うたう約束をした。
元気がでた。
電話が来て、話をしたら、言葉の隅に元気を見付けた。
その一言で、いまのあたしのひとつの部分が報われた気がした。

うたうことに意味をあてがって、ずっとうたえなかった。
やめたほうがいっそ、と思っても、毎晩。
日課になっていた腹筋とストレッチは無意識に続けていた。
それは全部、うたうために。
身体の中がぜんぶ出て逝けるように、振り絞る為ならなんでもする。

うたおう。
明日は、ひとことでも。


⊂雨水シロップ⊃
2002年10月20日(日)

夜になると叫びたくなるのは何故?(笑)
叫び散らして腕を掻き毟って、駆け出したくなるのは何故。
なんかずっとずっと無機質な感じだよね、日記。
もっと浮き上がれば一日の表面を日記に出来るのに。
自分の中に潜り込み過ぎてる。
ああ、あたし元気よ。
眠れないさえなくなれば、元気よ。
変な焦燥感がね、胸の中にまとわりついててさ。
あたし分裂みたいよ、ひとりでいすぎかしら。
だってだれも在ないもの、地元に帰って遊ぼうかしら。
何処かに行きたい。

どれ、あたし?


だれ、あたし。



あぁぁ、脳味噌に蛆が沸いているみたい。
なんかへんだよ。
いつも、あたしは。


⊂ROSE LIFE⊃
2002年10月17日(木)

口腔内の粘着質が、乾いた喉に絡み付いて苦しかった。

妹を殺した夢をみた。
誰かにあたしも殺されそうになった時、ふいに目が覚めて。
ドキドキが止まらなかった。
都合のいい脳味噌。
とても柔らかな夢だった。
秋の所為ばかりじゃないかもしれない、けれど。
理不尽に季節を恨んだ。
あたしはあの子を護るひとなのに。

たくさん歩いた。
歩くことに集中して仕舞うと、頭の中で思考も止まらなくなる。
自分はおかしい様な気がして、耳の奥が揺れた。
まるで逃げ回っているようだった。
何かが迫ってくる。
ひとじゃない、もっと大きなもの。

夜明けかと思って目を覚ましたのに、まだ夜中の2時で。
夜の長さに、恐怖した。
今夜は何でこんなに静かなんだろう。
気味が悪いほど、街鳴りが聴こえる。
雨も止んで仕舞った。
なんで眠れないの。
眠ったけど、2時間おきに目が覚めて、迫る朝に焦る。

朦朧としてる頭の奥に、覚えて仕舞った感覚が残ってるかな。
死んで仕舞う気がして、とてもこわい。
身体に痺れが込み上げて、糸が切れると体中の血が一斉に引いていく感覚。
てのひらも、あしのひらも。
温まらないベッドに戻るのがこわい。


⊂よなが⊃
2002年10月14日(月)

コンビニに行ったら、冬の『身体の中からあったまりましょう』な食べ物が沢山あった。
けど、身体の中から温かくなる事に、酷く嫌悪感を覚えた。
もっと外側からあったかければいいのに。
あのころ、青い夕方に、お母さんの目をぬすんでコンビニに行った時くらい。
不自由になっていたかった。
誰かにつかまれていたい。
自由過ぎて、怖い。

海道町という場所が在って、あたしは昔、そこに住んでいた。
住宅街でひとがたくさん在るはずなのに、
ひと同士がくっつき過ぎていなくて、とても住み易い場所だった。
何処へ行くにしても、実家より便が良く、なんでもあって。
不自由な暮らしをするからこそ、逃げ出す事が生き甲斐だった。
だからといってもどうせ田舎で、少し外に出てしまえば田んぼだらけ。
遠くに宇都宮タワーの見える、親戚の家までのひらけた道は鮮やかな闇色で。
夕暮れ空に浮かぶ真っ白な穴の向こう側を、もうひとつの世界だと信じていた。
逃げる場所なんて幾つも在った、逃げる場所は幾つも在って。
帰る場所も幾つも在って、選ぶ事を強いられて、結局は。
あたしに帰る場所なんて無かった。
煩がられて、『出ていけ』と云われれば、在る場所を失い。
もうひとつを想うけれど、想うだけで、自転車をとばして、日暮れの道を走った。
携帯電話と云うものが、あの頃、手元に無かった事を幸いに思う。
13歳のあたしは自由も不自由も見境なく、あるがままに何処へでも向かって。
混ざりあった自由と不自由が、生粋な形を忘れたまま残ってる。
迷ってばかりいる。
わからないものばかりで過ごして来たから。
自分の内側に目を向ける事は、とても簡単だった。
そして向け過ぎて、まわりを見損ねてばかりいる。

また何云ってるかわからなくなった。
あたしにもわからない。


⊂街路戦争⊃
2002年10月13日(日)

音楽というものに、あたしは目覚めていないのかも知れない。
そう思ったのは、先週の、水曜日の、深夜だった。
うたうということを見つめ直した時。
あたしはうたうことが好きなだけで、
音楽が好きな訳じゃない、ような気がした。
漠然。
音楽は、何時も隣に在る音楽は、聴く為の音楽で。
あたしは音楽をうたっている訳じゃなく。
うたをうたいから、うたをうたっていて。
うたをうたう為に音楽を作っているひとが、羨ましかった。
うたう為に、ギターを鳴らし。
うたう為に、ピアノを弾き。
伝える為に、言葉を紡ぎ。
それを無くしたらうたがない危機感を、音楽をやってくひとが持っているのかと思った。
考え始めたばかりの事だから、よく解らないけれど。
音楽に目覚めなきゃ。
どうしたら目覚められる。
目が覚めない、何が好き、なんだろう。
うたを作ろう。
うたう為に曲を作ろう。
言葉を紡いでうたにしたら、うたをうたえる。
音楽に成る気がする。
もっとたくさん自分の事を考えよう。

うたをうたいたい。
この時間を越えてしまったら、もう何も無くなってしまうから。
それまでの間にあたしは。
うたの居場所を見付けてあげなきゃいけない。
あたしの中で一番長く生きていたあたしを。
殺したくはないの。


⊂青の透明⊃
2002年10月12日(土)

お風呂に入ったばかりの温かい身体が、少しだけ大切に想えた。
自分で自分の、偽物でも、少し高い温度が幸せ。
ひとりじゃない気がした。
もう、どっちでもいいけど。

これからは。
腕が切りたくなったら、お風呂に入ろう。

今日も生きれる。
幸せ。


⊂流星痕⊃
2002年10月11日(金)

去年の初冬に観た、星の雨を最近よく思い出す。
どんなにたくさんセーターを着込んでも、膚を刺した空気の冷たさも。
冷えきった坂道の上に寝た時の、後頭部の重たさも。
大気に護られた地球に、届かず燃え尽きて逝く星屑も。
2時を過ぎても眠れない此の頃は、鮮明に思い出せる。

星の雨は光り放ちながら、真空の中に生きてるプランクトンみたいで。
全ての光りが地球に刃向かい来る様は、何かを握っていないと耐えられないくらい。
耳鳴りが止まらないほどの、星の大雨だった。

小さい頃に観た、テレビの中、何処かの国の戦争に似ていた。
星は目掛けられた様に、闇空の一点を信じて燃え尽きて逝く。
何かにぶつかると砕けて、光りは粉々と散った。
無様でいながら、とても美しかった。
空から目が離せなくて、
部屋に戻ってからも夜が明けるまで、何度も窓の外を観ていた。
星の雨は丸切り3日間、止む事が無かった。
それからはもう、観れなくなって仕舞ったけれど。


意識が分裂をはじめた気がする。
今日は学校で色んなひとに話し掛けられて、言葉を返した。
あたしをあたしが視ていた。
あたしは喋っていないのに、あたしは喋っていて。
馬鹿なほど会話は噛み合わず、自分を見失った。
もう半月、眠りは浅く、1日に3時間も眠れれば良い方。
あたまがあたまの働きをしなくて、有っても無くても同じだと思った。
あのひとは毎日、煩わしいメールを何件も送って来る。
あたしだって毎日が元気じゃない訳でもないの。
楽しく生きてるのに、気分が沈んでる事を前提でメールが来て。
あたしは憂鬱になる。
『沈んだら無理にでも外に出ろ、なんならあたしを呼び出して。』
『沈んだら無理にでもテンションを上げて、なんなら一緒にカラオケ行こう。』
遊びたいのなら、お友達とすればいいのよ。
何がしたいの?
夜も明けない内から薬を頂戴なんて、なに。
もう消えてよ。
最近の苛々の原因、もう頭がオカシクなりそうよ。
勝手に生きて、一緒にしないで、あたしを見ないで、気に掛けないで。
今までひとりで出来たのよ、これからもひとりで出来ない訳がないでしょう。
憂鬱は放っておけば治まる事も、薬をのまなくても眠れる方法も。
あたしはちゃんと解ってるのよ。
限度を越えた優しさは爛れ。
思い出すだけで、苛々と吐き気が止まらない。

眠れない。


⊂鬼が島⊃
2002年10月08日(火)

日曜日に、空が何処かわからなかった。
雲の隙間から青い空が見えて、地上が何処なのかもわからなかった。
酸素で息をしてるみたいに、宇宙の何かで呼吸してる生き物が居てもおかしくない。

雲は針みたいに泡立っていて。
銀色の波は、重たい何艘もの船を持ち上げていた。
雲の波間から見える青い空が、恐ろしいほど遠くて。
自分の背いの小ささを感じた。
砂浜は何処。
ひとは海から生まれても、立つ場所がなきゃ完全じゃない。
酸素じゃもう、息が出来ない気がした。
苦しかった。
眠れなかった。
月がない。
艶消した真っ黒の闇が、白い息を残さずに食べた。

此処は何処だろう。
足の裏は、ただ痛かった。



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由弥 [御手紙]