昼間に眠った所為じゃないのに、全然ねむれない。 12時まで凄く眠くてベッドに入ったのに。 眠気があるのに眠れない。 腹が立って、苛々として、泣きそうだった…(弱。 眠れるひとが羨ましかった。
あたしの夢に知っているひとが出てくる事は滅多にない。 友達とか学校のひととか家のひととか、出てこない。 一番出てくるのが、女のひと。 そのひとは何時も着物を着ていて、幼かったり大人だったりする。 あたしはその子に『鈴子』という名前を勝手につけてた。 もともと『鈴子』っていうのは、あたしが勝手に実家の天井で鳴る鈴の音や。 何となく気配のする童につけていた名前で。 あたしが其の座敷で眠らなくなり、自分の部屋をもつようになってからも。 部屋の扉の向こうで、鈴の音は止まなかった。 ばあちゃんに話すと、ネズミが歩っている、とあしらわれたけれど。 『鈴子』は可愛らしい鈴の音を鳴らしながら、あの家に棲んでいた。
今年、東京で暮らすようになってから七ヵ月。 最近、部屋の扉の向こうで、時々だけ鈴の音がする。
『鈴子』だけじゃなかった。 夢に出てくる子供達は、みんな鮮やかな絣の着物を着て。 時に井戸の中を覗き込んでいたりする。
夕べは螢火の夢をみた。 知らない場所に手を引かれ歩いて、闇をくぐり抜けると。 真っ暗な街の中、螢火が降り積もっていた。 涙が出そうなほど綺麗な景色だった。 其の先で、道端に死体が落ちていた。 それでも螢火は止むこと無く、闇の街に降り注いでいた。
夜型人間です。 昨日はちゃんと寝たのに、昼間、気絶しかけた。 慌ててパニックの薬をのんだけれど。 今夜もあまり眠れる自信はなく。 気が向いたらベランダに出て、脳味噌を凍らせるつもりです。 思考を少し止めたい。
あたしには此の環境で満足なのに。 ひとりそれを崩そうとしている人間がいる。 楽しければそれだけで、何もかも忘れてただ、馬鹿をしたいのに。 全てに理由をつけて、目障りです。
脳味噌のふわふわした気持ち悪い膜が拭えない。 今日は其れが原因で、2回倒れました。 足の裏がずっと冷たいんです。 冬のアスファルトを歩き回った時のように。 どんどん酷くなってるような気がする。 どうしたら治まる? 治ったとしてもきっと、憶えていたら帰ってきちゃうんだよね。 結局、僕らは動物なのです。
沈んで、沈んで、堪らなかった。 お風呂に入りながら、駄目だ、帰ろう、と思ってた。 地元に。 お風呂から上がったら支度をして、明日の夕方にでも帰ろう。 そう思って臑に出来た傷を嘗めた。 髪を洗っている時に、メールの着信音が聴こえた。 何時もならシャワーの音に掻き消されて聴こえない癖に。 お風呂から上がってメール見たら。 「うたってる?」 って書いてた。 本当はうたってなかったし、寧ろひとつ声さえ発していない癖に。 「うたってる」 と、答えた。 うそつき。 それと。 「僕の曲をうたって」 と書いてあって、少し嬉しくて返事をした。 それから三時間経ったけれど、まだあたしはハミングさえしていない。 うたう約束をした。 元気がでた。 電話が来て、話をしたら、言葉の隅に元気を見付けた。 その一言で、いまのあたしのひとつの部分が報われた気がした。
うたうことに意味をあてがって、ずっとうたえなかった。 やめたほうがいっそ、と思っても、毎晩。 日課になっていた腹筋とストレッチは無意識に続けていた。 それは全部、うたうために。 身体の中がぜんぶ出て逝けるように、振り絞る為ならなんでもする。
うたおう。 明日は、ひとことでも。
夜になると叫びたくなるのは何故?(笑) 叫び散らして腕を掻き毟って、駆け出したくなるのは何故。 なんかずっとずっと無機質な感じだよね、日記。 もっと浮き上がれば一日の表面を日記に出来るのに。 自分の中に潜り込み過ぎてる。 ああ、あたし元気よ。 眠れないさえなくなれば、元気よ。 変な焦燥感がね、胸の中にまとわりついててさ。 あたし分裂みたいよ、ひとりでいすぎかしら。 だってだれも在ないもの、地元に帰って遊ぼうかしら。 何処かに行きたい。
どれ、あたし?
だれ、あたし。
あぁぁ、脳味噌に蛆が沸いているみたい。 なんかへんだよ。 いつも、あたしは。
⊂ROSE LIFE⊃ |
2002年10月17日(木) |
口腔内の粘着質が、乾いた喉に絡み付いて苦しかった。
妹を殺した夢をみた。 誰かにあたしも殺されそうになった時、ふいに目が覚めて。 ドキドキが止まらなかった。 都合のいい脳味噌。 とても柔らかな夢だった。 秋の所為ばかりじゃないかもしれない、けれど。 理不尽に季節を恨んだ。 あたしはあの子を護るひとなのに。
たくさん歩いた。 歩くことに集中して仕舞うと、頭の中で思考も止まらなくなる。 自分はおかしい様な気がして、耳の奥が揺れた。 まるで逃げ回っているようだった。 何かが迫ってくる。 ひとじゃない、もっと大きなもの。
夜明けかと思って目を覚ましたのに、まだ夜中の2時で。 夜の長さに、恐怖した。 今夜は何でこんなに静かなんだろう。 気味が悪いほど、街鳴りが聴こえる。 雨も止んで仕舞った。 なんで眠れないの。 眠ったけど、2時間おきに目が覚めて、迫る朝に焦る。
朦朧としてる頭の奥に、覚えて仕舞った感覚が残ってるかな。 死んで仕舞う気がして、とてもこわい。 身体に痺れが込み上げて、糸が切れると体中の血が一斉に引いていく感覚。 てのひらも、あしのひらも。 温まらないベッドに戻るのがこわい。
コンビニに行ったら、冬の『身体の中からあったまりましょう』な食べ物が沢山あった。 けど、身体の中から温かくなる事に、酷く嫌悪感を覚えた。 もっと外側からあったかければいいのに。 あのころ、青い夕方に、お母さんの目をぬすんでコンビニに行った時くらい。 不自由になっていたかった。 誰かにつかまれていたい。 自由過ぎて、怖い。
海道町という場所が在って、あたしは昔、そこに住んでいた。 住宅街でひとがたくさん在るはずなのに、 ひと同士がくっつき過ぎていなくて、とても住み易い場所だった。 何処へ行くにしても、実家より便が良く、なんでもあって。 不自由な暮らしをするからこそ、逃げ出す事が生き甲斐だった。 だからといってもどうせ田舎で、少し外に出てしまえば田んぼだらけ。 遠くに宇都宮タワーの見える、親戚の家までのひらけた道は鮮やかな闇色で。 夕暮れ空に浮かぶ真っ白な穴の向こう側を、もうひとつの世界だと信じていた。 逃げる場所なんて幾つも在った、逃げる場所は幾つも在って。 帰る場所も幾つも在って、選ぶ事を強いられて、結局は。 あたしに帰る場所なんて無かった。 煩がられて、『出ていけ』と云われれば、在る場所を失い。 もうひとつを想うけれど、想うだけで、自転車をとばして、日暮れの道を走った。 携帯電話と云うものが、あの頃、手元に無かった事を幸いに思う。 13歳のあたしは自由も不自由も見境なく、あるがままに何処へでも向かって。 混ざりあった自由と不自由が、生粋な形を忘れたまま残ってる。 迷ってばかりいる。 わからないものばかりで過ごして来たから。 自分の内側に目を向ける事は、とても簡単だった。 そして向け過ぎて、まわりを見損ねてばかりいる。
また何云ってるかわからなくなった。 あたしにもわからない。
音楽というものに、あたしは目覚めていないのかも知れない。 そう思ったのは、先週の、水曜日の、深夜だった。 うたうということを見つめ直した時。 あたしはうたうことが好きなだけで、 音楽が好きな訳じゃない、ような気がした。 漠然。 音楽は、何時も隣に在る音楽は、聴く為の音楽で。 あたしは音楽をうたっている訳じゃなく。 うたをうたいから、うたをうたっていて。 うたをうたう為に音楽を作っているひとが、羨ましかった。 うたう為に、ギターを鳴らし。 うたう為に、ピアノを弾き。 伝える為に、言葉を紡ぎ。 それを無くしたらうたがない危機感を、音楽をやってくひとが持っているのかと思った。 考え始めたばかりの事だから、よく解らないけれど。 音楽に目覚めなきゃ。 どうしたら目覚められる。 目が覚めない、何が好き、なんだろう。 うたを作ろう。 うたう為に曲を作ろう。 言葉を紡いでうたにしたら、うたをうたえる。 音楽に成る気がする。 もっとたくさん自分の事を考えよう。
うたをうたいたい。 この時間を越えてしまったら、もう何も無くなってしまうから。 それまでの間にあたしは。 うたの居場所を見付けてあげなきゃいけない。 あたしの中で一番長く生きていたあたしを。 殺したくはないの。
お風呂に入ったばかりの温かい身体が、少しだけ大切に想えた。 自分で自分の、偽物でも、少し高い温度が幸せ。 ひとりじゃない気がした。 もう、どっちでもいいけど。
これからは。 腕が切りたくなったら、お風呂に入ろう。
今日も生きれる。 幸せ。
去年の初冬に観た、星の雨を最近よく思い出す。 どんなにたくさんセーターを着込んでも、膚を刺した空気の冷たさも。 冷えきった坂道の上に寝た時の、後頭部の重たさも。 大気に護られた地球に、届かず燃え尽きて逝く星屑も。 2時を過ぎても眠れない此の頃は、鮮明に思い出せる。
星の雨は光り放ちながら、真空の中に生きてるプランクトンみたいで。 全ての光りが地球に刃向かい来る様は、何かを握っていないと耐えられないくらい。 耳鳴りが止まらないほどの、星の大雨だった。
小さい頃に観た、テレビの中、何処かの国の戦争に似ていた。 星は目掛けられた様に、闇空の一点を信じて燃え尽きて逝く。 何かにぶつかると砕けて、光りは粉々と散った。 無様でいながら、とても美しかった。 空から目が離せなくて、 部屋に戻ってからも夜が明けるまで、何度も窓の外を観ていた。 星の雨は丸切り3日間、止む事が無かった。 それからはもう、観れなくなって仕舞ったけれど。
意識が分裂をはじめた気がする。 今日は学校で色んなひとに話し掛けられて、言葉を返した。 あたしをあたしが視ていた。 あたしは喋っていないのに、あたしは喋っていて。 馬鹿なほど会話は噛み合わず、自分を見失った。 もう半月、眠りは浅く、1日に3時間も眠れれば良い方。 あたまがあたまの働きをしなくて、有っても無くても同じだと思った。 あのひとは毎日、煩わしいメールを何件も送って来る。 あたしだって毎日が元気じゃない訳でもないの。 楽しく生きてるのに、気分が沈んでる事を前提でメールが来て。 あたしは憂鬱になる。 『沈んだら無理にでも外に出ろ、なんならあたしを呼び出して。』 『沈んだら無理にでもテンションを上げて、なんなら一緒にカラオケ行こう。』 遊びたいのなら、お友達とすればいいのよ。 何がしたいの? 夜も明けない内から薬を頂戴なんて、なに。 もう消えてよ。 最近の苛々の原因、もう頭がオカシクなりそうよ。 勝手に生きて、一緒にしないで、あたしを見ないで、気に掛けないで。 今までひとりで出来たのよ、これからもひとりで出来ない訳がないでしょう。 憂鬱は放っておけば治まる事も、薬をのまなくても眠れる方法も。 あたしはちゃんと解ってるのよ。 限度を越えた優しさは爛れ。 思い出すだけで、苛々と吐き気が止まらない。
眠れない。
日曜日に、空が何処かわからなかった。 雲の隙間から青い空が見えて、地上が何処なのかもわからなかった。 酸素で息をしてるみたいに、宇宙の何かで呼吸してる生き物が居てもおかしくない。
雲は針みたいに泡立っていて。 銀色の波は、重たい何艘もの船を持ち上げていた。 雲の波間から見える青い空が、恐ろしいほど遠くて。 自分の背いの小ささを感じた。 砂浜は何処。 ひとは海から生まれても、立つ場所がなきゃ完全じゃない。 酸素じゃもう、息が出来ない気がした。 苦しかった。 眠れなかった。 月がない。 艶消した真っ黒の闇が、白い息を残さずに食べた。
此処は何処だろう。 足の裏は、ただ痛かった。
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