あたしは、救われない人間かな。 それとも、救いようのない人間。 まして、人間なのかどうかさえ、定かでは無いけれど。 虚しくない? 溺れているだけよ。 おいてけノ濠、置き去りにしたのよ。 自惚れて、悲しいひと。
『きみが在なくても、僕は生きて往けるから』
あたしを何時までも、弱い生き物だと思わないで。
悲しいひと、さようなら。
晴れきった闇空が、悲しいほど秋で。 地上五階のパノラマは、僕だけのモノになった。 光はもう摩天楼なんかじゃなくて。 線香花火みたいに、深くなるほど脆い虫。 僕はどんな罪を負った?
寂しくて寂しくて気が狂いそう。
そんな季節、好き。
またひとり。
僕から離れて逝った夜。
さようなら。
雨が酷くて掻き混ぜられた。 泣きそう。 無傷なままでは終わらない夏休み。 得たもの分、沢山のものを失くした気がする。 きっと明日の台風で、夏はもう連れてかれるんだろう。 愛してます。
この間、友達と小学校へ行ってきた。 もう何年ぶりだったか、なにも変わらないまま在った。 あたしが辛うじて生き抜いた数年間。 ソレ以前の平穏な毎日と時間が、落ちたまま埋もれかけてる。 夕闇に呑まれすぎて、あまり側までは近付けなかったけれど。 無邪気な残酷が犇めき合ってた。 ブランコを振り切るように漕いで。 軟派な若者を振り解いた。 周りが見えなくなるくらい必死に漕いで。 まるで其れからの3年間みたいだった。
あたしが朝、起きないと。 父親はあたしの部屋を開け、「病気?」と聞く。 昔から変らない憂鬱。 あたしは家で喋らない。 どんなに怒られても、どんなに望まれても、どんなに泣かれても。 あたしは喋らない。 あたしに声なんて無い、と思い込んだ。
夕べみた夢は空を飛ぶ夢。 両手を羽ばたかせると、あたしの体は屋根まで届いた。 蜘蛛の世界から休憩をして、ひとを裏切る爽快感。 甘いお菓子をかじりながら、あたしは屋根の上まで飛べた。 裏切れば、飛べる? 何処までも往ける。 ただ、其の後、吐き気がした。 酷い吐き気で目が覚めた。 どうして何時も、上手くいかないかな。
押し流された闇に
夕立を宛てがって
幾数頭の向日葵が
庭の真ん中でしなりを上げる
青い青い大気の奥に
昇る光が音を割ると
みそらの球体を回って知った
振動が鼓膜を叩く
暗いトンネルのむこう
おにやんまさえ進まない道
人肌に風
空から落ちて、刺す針
眠れない夜が連なり
ようやく迷子を覚えた頃の
深い藍色をした空が
僕に見せた
音の無い現実の世界
溺れた足の裏
雲が割れて
光が落ちる
何時か視ていた空襲の
骨組みのむこうの怒り
腕にしがむのは
誰のてのひら
目の前の騒々が
何故、こんなにも遠い
僕には何も興らない、と
もう息の失い身体
撫でて赤い桟橋を渡った
朝、庭を歩く、まるで御爺ちゃんのような日課を持っている。 田舎の家の敷地といっても、そんなに広い訳じゃなく。 ただ、見渡す限り、緑。 其処を1時間以上かけて何度も同じ場所を歩く。
先ずは家の前の坂道に向かい。 すぐ側にある墓地を、道に座り込んで眺める。 いずれ自分もあの場所に眠るんだ。 いずれ、ばあちゃんも、父親も、きっと。 そうして焼け始めたアスファルトにてのひらを当てて。 立ち上がり今度は庭に向かう。 あたしのてのひらよりも大きい、ハイビスカスに似た花も。 赤い百合も、白い百合も。 もう、枯れ始めた。 テッセンも咲かなかった。 そんな中で以外だったのは、ゴーヤの花の匂いの強さ。 ジャスミンに似た甘い匂いがする。 蔓をトマトに絡めてまで、必死に生きていた。 裏山には実の落ちたブルーベリー。 栗も柿も柚子も在る。 柚子と山椒の木には、アゲハの幼虫が棲んでいて。 黄色い角で、蝉の抜け殻を威嚇してる。 オレンジ色の花は、ソテツに依存していたし。 カブトムシを踏むと、相変わらず乾いた良い音がする。 余命少ない蝉は、空の方から降ってきて。 砂利道の上、羽を縺れさせてないた。 蜘蛛の巣は濡れて雪みたいに積もり。 奇形児の様な薔薇は、撓垂れていた。
雨の日も止むことのない、脳みその中の世界創り。
僕は、誰だろう。
夢を護る番人。
右腕、真っ白な皮膚の上から。 青い青い血が流れているのが見えた。
だから。
切った。
夢は護りきれる? 脳味噌が灼けて仕舞いそう。
夢を護る為なら、傷付いても。
傷付けても。
僕は平気。
寧ろ、消えて。
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