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ラヂオスターの悲劇
トマーシ
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2004年01月27日(火)
海に還る。海からやって来る。

「海に還る。」

 周りには砂糖みたいな白い壁。大時代な窓。大きな影。そこから涼しい風が舞い込んで。その風が海の匂いがしたのだ。
 その窓べりに裸足で腰掛ける少女。膝を抱えて。パジャマみたいな白いワンピース。
「暑いね。」
 帽子をパタパタ振ってセンシティブ・インDは少女に話し掛ける。長い長い坂を登ってセンシティブ・インDは彼女の家を訪ねていた。すっかり汗だくになったシャツに風を入れて。
―振り向けば―
 センシティブ・インDは知っていた。彼女の目はラブラドールレドリバーみたいにつぶらだ。知ってる。ただひたすらに好奇心というやつにはインDはいつも背筋がゾクゾクさせられてしまうのだ。彼女の目はそういう目、子供の目だ。
 しかし彼女は振り返らない。キャラメルの包み紙か何か、でも半透明のつまらないものに違いない。そんなものがフワリと風に乗ってインDの足元に落ちた。それはどんな意味あいに於いてもそれ相当の距離感しか伝えない。だがそれには構わずインDは少女のもとに近寄る。少女はモゾモゾとさらに自分の膝を手繰って。
「さあ、今日はどうすればいい?」
それはたいそう大きな窓だったので、もう一方の端にインDが腰掛けることが出来た。窓から見えるもの。インDは顔を顰める。でもしかめっ面して見えるものと見えないものがある。大きな海、古い灯台。その先端にたなびく赤い旗。―天気はそのうち崩れるだろう―大きな台風が近づいているよ。インDはそう聞いていた。その灯台に続く道は葡萄畑に囲まれていて・・・ それは申し分のない美しい景色だった。そして少女の屋敷の庭。暗い色をした広葉樹の腕が結局は彼らのところまで届かず、しかし何かを囲っているようにも見える。
「人食い?」
インDはそう聞き返す。それはそう聞こえたからだ。
「あの木も、あの木も、あの木も・・・」
しかし少女は答えないで、庭の木を一つづつ指し示す。ふふんと笑みを洩らして。彼女の指は何か小さな鳥の翼みたいだ。
「先生?今日は何もしたくないわ。だから先生が何か弾いて。」
インDは頷く。もはや職業的な手揉みを繰り返して。
「今日は誰も居ないね。」
インDは巨大な玄関(膝まで漬かってしまいそうなフカフカの絨毯の敷いてある)や窓ばかりが開け放してある長い廊下を渡ってくるあいだ誰にも会わなかった。インDはそのことを言ったのだ。
 答えを求めてキョロキョロ周りを見渡す。しかし少女は何も答えない。



2004年01月26日(月)
ドラゴンクラブ

「向こうではトランペットが輝いていて、でも僕の手はさっきからマッチばかり擦っていて・・・ほら?この灯り。」
そう言って振り向く。
 そこにはトランペットなどない。トランペッターもいなかった。古い映写フィルムが廻っているだけ。煙草のヤニで黄色くなった壁をスクリーン代わりにして。フィルムの弱くなってしまった箇所にくると、カタカタとまるで気泡が上がるさまのように画像が乱れる。チェト・ベイカーの「レッツゲットロスト」
 少し高いスツールが六つ。だが人は二人しかいない。カウンターの向こうを合わせれば三人。皆、思い思いの方向を向いて。もう店は看板を仕舞っていた。馴染み深い三人なのだ。そのクラブの名前はドラゴンクラブという。カウンターにはアジサイみたいに細かい花の鉢植えが飾ってあって、
 イン・Dはコートのポケットに指を突っ込む。それほど大した仕事でもなかったけれど、それでもイン・Dの手はクタクタに疲れていた。時々コーヒーを楽しむ以外はポケットから離れることすらない手。硬直しきっているのだ。時々ポケットに見覚えのないものを掴んだ気がすることもあるが。けれどそれは大概何かのレシートであったり、何かの明細であったり。
「ドラゴンクラブは長いよ。」
イン・Dは渋々とトマトスライスを摘みながら答える。彼の横にいるのは彼のガールフレンドだった。随分昔からの。そしてチェト・ベイカーの大ファンだった。
 



2004年01月24日(土)
ニェト

簡単な、本当に簡単な言葉で全て伝わるというのに。

たぶんあれだ。僕は目線の高さをないがしろにしたのだろう。

そう思い当たることがここ数日続いている。



2004年01月23日(金)
夜、3・2・・・・

 部屋を暗くしよう。僕はスイッチを引き、それから手探りで小さな灯りに手を伸ばした。少し前からレコードプレイヤーからはセゴビアが鳴っている。

そう。それくらいで。

心の水位というか、高まりがかつてあった場所に戻っていくような感覚。漠然と自分の幸せのことを考える刻限。特に失望するでもなく幻滅してしまう。常に水道の蛇口を廻し続けているような気がする。ご苦労なことだ。

断言はしない。しかし僕には確信があった。それから息を継ぐ場所や何も無いこと。本当に生まれてこのかた何も無いかのように何も無いのだ。

フラットな気分でそんな世にも恐ろしいことを確認している。どんなに力んでもそれは変わらない。



2004年01月22日(木)
ネコの名前

友達の飼っていたネコの名前はメパチとコテツ。

僕が京都にいたころ仲の良かった野良さんはクーティ。

ナナという名前のネコは大学付きの野良猫。彼は感情の強いネコだった。

実家のネコはデュデュ。これも野良猫だった。デュデュはルルと呼ばれたり、ただネコとだけ呼ばれたりと大変だ。でもあまり気にしてないみたいで、そこはこっちも気楽だったりする。彼は賢くてとても鷹揚だ。でも年々太っている。

クーティが一番好きだったかもしれない。人の膝に乗るのがとにかく好きなネコだった。聞き分けがよくてとても野良とは思えなかった。毛並みが綺麗で綺麗な尻尾。それが伏見稲荷を外れたあたりの路地でニャーニャーと困り果てていた。

僕はよく餌を持って行っていた。クーティはとてもいい匂いがした。



2004年01月21日(水)
十九時間

よく寝た。
起きたとき、体が痛かったもの。
もちろん休憩を挟んで十九時間。
テレビも電気もストーブまでも。
付けっぱなし。
だからかどうか、よくわからないけれど、手足がまだ痺れてる。
最近は夜中にも相撲中継をやっているみたいで、一瞬焦ったりして。
せっかくの連休が、まぁこんなかんじ。
これから新宿の友達のイベントへ、
オールナイトなので、明日もまた怪しいことになるだろうなぁ。



2004年01月16日(金)
左ウイング

 小学校、中学校とサッカーをやっていたのだけれど、Γテジションは常に左側。
左利きだったからだ。
ウイングだったときもある。
あまりいいウイングではなかったけれど。
ボールなんか構っていられなかったのだ。
たぶん走ることが好きだったのだ。



2004年01月15日(木)
イベント、ライブ 告知、日記

 昨日は友達のイベントに行ってきた。渋谷で、少し怪しい側の方にそのライブハウスはあった。友達は同い年ながら今や立派なミュージシャンであるので、時々、いや頻繁にそういうイベントを打っている。またそれが彼の仕事だったりする。
しかしその日は、その友達が演奏するわけではなかった。それは21日に打つイベントで見られる。

一月21日(水) 
新宿 クラブワイヤー(花園神社裏)
UMU NIGHT 「新年会」 
21:00 OPEN
21:30 START
出演
SHORT CIRCUIT
HOUSEPLAN
その他

昨日のライブもそうだったけれど、きっと元気な人たちがいっぱい集まると思います。みんなほとんどプロみたいな人たちなので、演奏もバッチリです。ジャンルはギターポップ系、とのこと。
オールナイト、で、drink込みの2000円。

どうぞ週中の予定の参考にしてください。

 さて、昨日のバンドはとにかく元気だった。何か少し懐かしい感じすらして。

箱そのものはとても小さかったけれど、それはほぼ埋まっていた。僕は今回も最初からいたけれど








2004年01月14日(水)
鳥の声

 昨日は朝からボンヤリ公園で散歩していた。
 急に鳥の声が聞きたくなって
 ちょうど近くには大きな公園があった。
 サッカー場、野球場、遺跡、釣堀、
 その公園に無いものは何もなかった。

 大きな木も沢山あり、それが連なっていた。
 からすが非常に多い。でも良く知らない鳥も沢山いた。
 小さな鳥がその大きな木の木蔭を前屈みに進んでいく。

 次はカメラを持って行こう。
 ニコマートという古いカメラを
 実家から持ち出していた。
 それを持って行こう。
 



2004年01月13日(火)
銭湯

  夜更けに友達と銭湯へ、ということはままあったりするけれど、
 昨日もそれだった。どうしたって冬の銭湯は止められない。
 といって、次の日は疲れがドッと出るのだけれど。
 今週は週初めに行ったライブが効いたとしか思えないのだけれど
 不思議に調子が良い。
 一緒に行った友達(銭湯の方)はそのバンドとは友達だったので
 感想を是非言いたかったのだ。
 poly ABC
 最近はそればっかりが頭の中をグルグル廻ってる。
 ヴォーカルの女の子は踊る赤い靴履いた女の子みたいに
 素敵だった。
 その友達の家にはポーリーの1stミニアルバムも置いてあった。
 彼がイベントの準備にせっせと励んでいる間、
 僕はそれをずっと聴いていた。
 そのアルバムもとても良かった。
 
  とにかくそれは昨日の話。銭湯明けの疲れは
 再度湯に入って取る。畳み掛けるのがみそなのだ。
 というわけで昼間から銭湯に行くべきか迷っている。



2004年01月12日(月)
病気の町

 町の到るところ、 友達もみんな ひどい咳に苦しむ そんな夢をみた。

 



2004年01月11日(日)
ライブ

 チェルシーホテルに入ったのは六時半を少し廻った頃
 客はまだまばらで、わりに高い天井ばかりが明るい。
 それは人が増えるに従って暗くなった。

 今日は特典など無く、通常料金で入場。
 「彼」がいたならば、大概ロハなのだから
 このあたりの事情ばかりはよくわからない。

 とにかく最初のビールを頼む。それから煙草を一服
 バーカウンターに体を傾けて
 キラキラに磨き上げられた灰皿に最初に吸殻を置いたのは僕だった。

 目の前をスックスックと頭を上下させながら、
 ヒョロっとした男が。
 ビールは意外に腹に溜まる。
 こういうところでは何をするにも急ぎすぎてしまう。
 それはビールだって免れない。

 最初のバンドの演奏が終わると長いインターバルに入った。
 どうやらアンプの調子が良くないらしい。
 人の頭の向きは一様ではなくなり、すぐ近くやあるいは遠くの誰かに、
 声は行き交う。
 僕は段々肩に重いものを感じ始めていた。
 目を瞑ってみて分かることが全て出尽くした頃にようやく演奏は再開された。
 そして人はグッと増えていた。
 僕は段々前の方に来ていた。丁度良く凭れかかれる柵が見つかったのだ。
 お目当てのバンドは一番最後。
 でもライブの雰囲気は悪くは無かった。
 何かスクスクとパーティが進んでいくような
 むしろ闖入してきたのは僕なのだった。

 ポーリーの出番が来た時、何故か僕は前から数えて三番目くらいの人
 になっていた。 メインのバンドのときは少し下がるのが
 作法なのかもしれない。
 でもこれが見たくてここに来たのだからと、構わず居座る。

 ポーリーはすごく良かった。 ライブも全然良かった。
 ライブとシーディではまた少し違った。
 何を言っても嘘になってしまうような
 すごく素敵だった。
 ライブでこんなに気持ちが昂ぶったのも久し振りかもしれない。
 とにかく翌日になっても残像みたいなものがチラチラしたのだから。
 
 また是非行きたい!



2004年01月10日(土)
眠りの壷

 そして、
 それはまるで細密に描かれた壷絵のごとく
 じっと眺めていると、見えるものは全て曲線ばかりであるような気がしてきた。
 ゴッホの描く空みたいに

 蝕まれているというか、
 全身がすべて温かで致命的なものに浸されていくような感触。

 いつの間にか薄いリボンに僕の体は巻きつかれている。
 最後の祈祷の言葉まで覚えていられぬ。どかすことの出来ないもの。
 スッと力が抜けていくあの刹那。
 
 眠りは赦しなのかもしれない。
 でも赦しているのはきっと自分自身じゃないだろう。



2004年01月09日(金)
青の部屋

ブンブンと生まれたての羽虫が目の前を交差する午後で
太陽は既に手の届かないところにまで昇っていた。
誰かが砂糖壷を割ってしまったみたいな
何ともいえない甘味があたりに拡がっていく。
丈の高くなった雑草が互いに腕を絡ませるようにして
僕の頬を撫でる。
構えた腰もだんだんと重くなり、草いきれの熱を含んだ風も苦にならない。
日なたに焦がしたような青草の平地に出てきたときには、
そこに突っ伏してしまいそうだった。

だが、急に空気の変化を感じる。
僕はそこに棒立ちになっていたけれど、
丁度、額の髪の生え際に冷たい風を感じた。
ネジをまくようにして、五感を鋭くする。



2004年01月08日(木)

目の次に耳を覗いた。

耳は鋭く尖っていた。

小さな耳



2004年01月07日(水)

「目が懐かしいんだと思う。」

「きっと」

「優しいのか、冷たいのかよく分からない。そんな目。」

「そんな目が良い目なのかどうか。」

「それはわからない。」

「でも、なかなかない目だと思う。」



2004年01月06日(火)
コースター

 喫茶店でよくコースターを貰ってくる

 ビリーホリディやレスターヤングのイラストのもの

 曰く 「昔は良かったね」 というもの

 その喫茶店からは表参道の喧噪を入り口の窓の形に刳りぬいて見える。

 ゆっくりとコーヒーが湧いてくる。

 コースターは柔らかい和紙を重ねたもの。

 みんな自分の持ってきた本を読んでいる。それほどの人はいないけれど

 気味がいいほどに時間が重なっていく。



2004年01月05日(月)
O Som dos Catedraticos

少し前に買ったデオダートのアルバム

ハモンドオルガンはやっぱり好きだけど
この人の使い方もまた好きだ。

幾分ジャズよりのデオダード。その傍にはマルコスヴァ―リ
幸せなボサノヴァ時代に意欲溢れる二人。幾分几帳面な造りに素敵なリズム
何を置いてもサマーサンバが素晴らしい。



2004年01月04日(日)
ヴァンドーム

まるで金だらいみたいな朝だ。
世界の果てから便りを担いだ旅人が近づいているとしても
その足音を見分けることが出来るだろう。



2004年01月02日(金)
体温

その恐るべき温かさ


2004年01月01日(木)
小道具としての缶コーヒー

「何だって出来る。」

 それは高層アパートのベランダでのこと。缶コーヒーを握りしめて吐く言葉としては上等だ。うら若い女の子。隅にはベゴニアの鉢。洗濯物は取り込まれている。風に泣くものとて彼女の長くて細い髪ばかり。