玄関の外 ガスメーターの上の巣に 黒い尾が見えている
少し前から 昼間ドアを開けると ぱあっと飛び立つ姿があった そう 何年ぶりかで ツバメがやってきているのだ
けれどもその巣は もうひとつの軒スレスレのが 欠けた時に作られ どういう理由でか 使われずに終わったもの
近くには 壁伝いにコードも這っているから 小動物の餌食になる 危険があるせいかも と思っていたのだが 幼鳥の巣立ちにはむしろ こちらの方が車を回避しやすい
そもそもツバメは カラスなどの天敵から 守ってもらうために 人間の傍に巣づくりするのだとか となればまずは 卵が孵るまでが当面の山となる
過去の 巣から落ちて死んだ雛や 巣立ってから死んだのやら 思い出すと気が重くなるけれど 今年はどうなるだろうか
旦那の浮気が 発覚したとき 実家に帰りたい と言ったら 母親から拒絶された と言う話を聞いた
本人にとっては それはあまりにむごく 世界中でひとりぼっち の気分を味わったらしいので 何だか申し訳ないが 素敵なお母さんだな と咄嗟に思った
世間にはむしろ まだ何も起こっていないうちから 何かあったら帰ってらっしゃい っていう方が多い いくつになっても子供は子供 辛く悲しい思いをさせたくない 有難い親心
そういう底なし沼に いつか気付いて これではいけないと 自立するならまだよし けれども 足りない足りないと トラウマと称して 足踏みし続けることもある
果たして 嫁に行ったら簡単には帰ってくるな と言う心はどんなものだったろうか
手放したようで どこかに紐つけている 親の覚悟のなさは 子供にも腹を括らせない そんなもたれ合いの中では じわじわと 生きながら死んでいくだけだ
あの時帰っていたら 今とは違った人生になっていた
きっとそうだろうと思う わたしは今この人生の その人しか知らないけれど すごく素敵なのは確かだ
新しく開院した耳鼻科へ いつものパターンの 喉から来る風邪の初期だが 大抵は長引くので 今回は早めに治そうと算段
がしかし 予想していた吸入もなく 抗生物質が効きにくい風邪 とのことで 一応薬は三日分出たが 経過するのがいいとの判断 次回の予約もなかった
うーん いまどき こんな医者がいたのか
今はもうなくなった一軒は 吸入だけの予約もありで 短いスパンで来院させ 良くなったからって フェイドアウトは許さない ってカンジだった
だからいつも めちゃ混んでいたし なのに診察自体はあっという間で 検査はしたがる 最近の耳鼻科なんて そんなもんと思って すっかり足が遠のいてしまった
こちらは予約なしの初診で 待ち時間30分 潰れないだろうか心配になる 正直処置がなくて なんか物足りないが 問診は的確で説明も十分
きっと 良心的ってコトなんだろうな
形はできたが やっぱりなんだか 物足りなくて 手縫いでステッチ
一昨年よりも ラインの流れは洗練されたが 長い一本を指先でつまみ くるくると落ちた跡を 別糸で留めつけるのは同じ
お釈迦様が蓮池で カンダタに垂らした あの蜘蛛の糸は するすると水のなかに 水は空のように 見えたのだろうか
けれども 容易には 切れてしまわない糸で ただ 糸は糸らしく 糸だけの営みを延々と
それは 何かのためではなく 何かの具象でもなく そういう糸が 世の中に あってもいい
意味とか目的とか 意識が作り出すものから 外れた糸は 何故かわたしを いつもと違うところへ 連れて行ってくれる
ここ数年 ずうっと考えている 作品と呼べるものについて イメージを膨らませていたら 窓の外に山鳩がやってきた
おーこれわ 何かの吉兆か なんて 単純だけど それだけで嬉しくて 手が届きそうな所にいる ぷっくらした鳥を眺めた
そしたら電話があって リメイク服のオーダーだった
しかもしかも これまでのお得意さんじゃなく 初めての方で できるかどうかの不安より どうなって行くのか 楽しみなカンジ
拝見できる着物が 麻っていうのもいい あれ でも 教えてもらえるのか なんて言葉もあったから ひょっとしたらご自分で とかかも そっちもいいな
それにしても 参考にできる服が少なすぎ 頑張って製作だ
2010年05月23日(日) |
黄金のトライアングル |
年に一回の 在庫調べで 毎日少しずつ残業し ようやく終わりが見えてきた
とは言え 以前の売り場のように 入り数と出た数を つき合わせる必要もなく いまいちスッキリ感に欠けるが 三回目の今年は なんだか随分楽だった
それはきっと 在庫が幾分減ったことに加え 売り場の隅まで 整理が行き届き ワケの判らないものが ほとんどなくなったせい
まるで定価を無視した値札とか 売れると思った根拠は何か 計り知れない商品の仕入れとか そんなやり方でも 誰も精査する人がいないので 野放し状態だったのだろう
それは今でも同じく どんなにキチンとやろうが 誰も評価できる能力はないのが 悲しい会社だが もうそれは 自分自身に誠実に 使われていても自立する という点に尽きる
そんで帰ってからは 別仕事三本を一気に仕上げ 連休で稼ぎが少なくなった分 これでいくらかリカバー 本当にチリツモだけど 博打じゃないのが有難い
気がつけばいつの間にか バイトも別仕事も 底が上がったかもしれない 堅いそのふたつと 博打の縫いと このトライアングルは 結構いいバランスになってきた
ここしばらく 気が付けば 目覚めるのがやたら早い そして 夢の中でも 布のコトを考えている
今手にしているのは モン族が 叩いて輝きを出したような 黒に近い藍染の木綿 以前ネットの商品に 少しだけ使った布だ
元々は 羽織みたいなかたちだった しかも分量が少なく 折り目は色が褪せ 状態はけっして良くないし 埃が付けば目立つ
なのに すごく好き 確りした厚さと手触り 大地に根ざした雰囲気が 気持ちを解放してくれる どんな抑圧も必要ないと 理屈抜きで感じさせてくれる
なんだか随分 違うものになろうとして 窮屈なところにいた 朱色木綿から藍色へ 自分自身でいる心地よさを 沁みるように感じながら
今朝起きてみると 台所にリスの顔
これまた久々じゃんと思い おーっ って声を上げたら ささっと引っ込んで ごそごそと音がする
前回起きて来た時も どこかで何かやっていた それを確かめようと 椅子に上がって 棚と天井の隙間を見たら ギャーッ
脇の砂壁を綺麗に剥がし その下の石膏ボードに ぽっかり穴が開き 壁の中の木は見えて ヤツはその隙間から 壁伝いに数十センチのあたりを がしがし掘り掘りしている模様
まじか とたんに頭がくるくると働き このままどんどん進んだら コタツ布団掘りと一緒で 自分がどこから入ったか 絶対判らなくなるに違いない
それにも増して この家の壁や天井の間から ねずみがその道を発見したら げっ歯目の逆流かっ うー 考えるだけでオソロシイ
とりあえずヤツを餌でおびき出し その隙に 再び入れないように 新聞か何かで防ぐ ってとこまでを 出勤前に敢行したかったが ぴゅーっと戻られタイムオーバー
もうバイト中も 気が気じゃなかったが 結局夜になって上の子に ありあわせの道具を総動員し 二度とそこに近づけないように 汗だくで処置してもらった
まったく 次にはどこを標的にするのか ヤツの領土拡大への情熱は 留まる所を知らない
辞めた人のあと 同じ業界の経験者が 面接にやってきた
結果はどうなるか知らないが ただそのことに驚いた だってまさにピンポイントすぎて きっと見えない采配が あったに違いない
つくづく 運の強い人っていると思う 人格なんて備わってなくても 努力なんてまるでしなくても そんなのとは関係なく なんだか乗り切れてしまう
長いその先の人生で どうなるかは判らないが きっとそういう人は 何があっても変わらず 楽しむことに貪欲で 淋しさとも無縁なんだろうな
以前は あまりにも不公平 だと思ったりしたが ひょっとしたら 切り替えの天才で だから普通の人なら 自殺でもしかねない局面でも ばっさり切り捨てて 次へと行けるのかもしれない
うーん なんかパラドックス っていうか自分でも 努力すりゃいいってワケじゃないと 痛感しているこの頃 うまく行かないとしたら きっと何かが間違っているのだ
頑張っていることに 執着していても それは何も連れて来ない 目指すのはどこなのか 過程を楽しむって 過程に足を取られない って意味と同じかもしれないな
なんか昨日はやたら疲れた それは何故かと考えたら あーいつものアノ人が またここで話しをしてった と先輩
溢れる不満をギリギリと それは聞いてもキリがなく 閉店間際だろうが 解っているはずなのに 切り上げてくれるワケではない
そういう話しを聞くと こうしたらどう とか 言ってみたらいいじゃない とか こちらはつい打開策を 提案してしまうのだが
話している本人は そんなの望んじゃいないので 聞いても聞いても また同じようなコトを 吐き出しにやってくる 要するに他人には ただ同調して欲しいだけなのだ
誰にもきっと そういう部分はあるだろう けれども 状況を変えるか 変えられないなら自分が変わるか それも無理なら受け容れるか 選択肢は三つしかない
どれにも中途半端のまま 成長しない自分を棚上げにして マイナスのエネルギーを 繰り返しダダ漏れさせるのは 妻が夫の帰りを待って 今日こんなことがあったの って会話とはワケが違う
きっと周囲の人は 餌食にならないように 少しずつ離れてしまうだろう と思うのだけれど それすら何故なのか 考えることもないんだろうな
なんか ひさびさに 溢れるイメージ リメイク服が わんさか並んで 自分の出番を 押すな押すなで
そのなかには いつかの トリコロール兄弟もいて 手が追いつかずにいるうち 待ちきれずに去ったのに ちゃんとまた 戻ってきてくれたよ
しかも あの頃はまだ 雲を掴むようだったけど より具体的になって 朱色の長女は もうほとんど形を終えた
それに 刺し子糸でステッチをしたい よく着られた 馴染んだ素朴な木綿 きっと襦袢替わりに使われて いただく機会がなければ 存在すら知らずに終わった
だから ちょっとおめかしして 主役にしてあげよう そうしたら 野暮ったいような地色が 燃えるように息づくだろう
苦手だったはずのいろ これが使えるようになったら 違う段階がやってくる ようやく ようやくだ
先日友人と会って 秋の展示会に向けての話を少し
場所が決まっていないので お互い今の時点で 気になる所を挙げてみた 使われていないような建物 空き店舗など
とある場所のとき 継続的にお店をするのかどうか となって 今のところそういう可能性が 自分の中にないのに気付いた
っていうより その都度飛び道具的に 何か思いつく試みができるような 不定形な感じがいい 続けて行くことよりも 新奇さを失わずにいる方が 楽しんでできる
それはきっと わたしの金星そのもので 永続なんてことを 先に掲げてしまうとダメなのだ 一回ごとの体験と それから来る実感が また明日を連れて来る
いつか実現するかもしれない何か を思って忍ぶより 今楽しく取り組める方が ずっとわたしらしい そのために流浪したっていい ちょっとそういうコトに 素直になってみたい
知人の定年後の話し
そもそも 社会に出なくなったら 若くったって とたんにもっさり老ける っていう実例は数多く いつまでも精神に張りを持つには 定年なんて関係なく ずっとできる仕事を持つべき
なんてコトは 以前から言っていたのだけど おんなひとり 金もなく後ろ盾もなく 何かを始めるにしたって 特技はないし でもこの土地で 歳は取りたくないってワケだった
それが突然一変 きっかけは独身縁者の 定年後は居酒屋をやりたい という夢のひと言だった 料理なんてまるでしないくせに という彼女に でもだったらそこで昼間 喫茶店をやらせてもらったら という所から始まった
実はあれから考えて これまで集めたカップが使える とか思っちゃって
美味しいコーヒーが飲みたくて ミルや豆のこと 鮮度を保つ方法など よく情報交換をしているし 自分が居心地よくいられる お店のイメージにはこだわりがある
お店の人がお客と馴れ合っていない 黒子に徹していながら 寛げる雰囲気を持っている そんな場所ならわたしも行ってみたい いい香りのするカウンターの中に すっと立つ彼女が居る それはとてもリアリティのある図だ
しかも 縁者の考えている場所は 彼女が以前から 住むならその辺り と言っていたところ 老け込むのはまだまだ早い いきなりな新しい人生の予感に わたしまでワクワクするのだった
この時期の雨はいい
鮮やかさを増す 木々の緑から 煙が立ち昇るように 雨のしずくが そのまま蒸気となって 雲のように山を覆う
広葉樹が多い この辺りの風景は 時には多すぎるほどの湿気と 相まっているのだが 豊かな水を含んだ ふっくらした木の根元を 想像するだけで 気持ちもしっとりと潤う
5月にしては 少し低いという気温が 却って清浄な空気を伝えて 夏が来る前に この感じを少しでも長く 味わっていたいと思う
素敵な場所にいる
いつもより少し遠くへ 自転車で出かけただけで 何度も何度も そのことを確認し さらに伸びようとする 木々に自分を映す
同じ季節が巡っても 同じ日はない
そうだ 今年はホタルを見よう 子ども達が大きくなって すっかり忘れていた 季節の贈り物を
イメージ通りの 襟の形にしたくて 自分で線を引いた
そして いつもなら 何度もやり直して まあこれでいいか に落ち着くことの多い 角の仕上げを 自分流に変えた
洋裁の基本なら 中表に縫ったアールの 余分の縫い代を 斜めに落として ゴロつかないように するんだけど
あえてそのままで アイロンで綺麗に畳んで 表から手縫いで綴じる その方が ずうっと綺麗に出来上がるし 経過の時間は掛かっても 一発で決まる
例えば見返し部分も 大方の直線だけミシンを掛け 後は布の表を見ながらにする それは単純に 技術が足りないせいだが ミリ単位の調節も これなら簡単にできる
なんか 当たり前のように 裏側だけ見て 肝心な細部までも縫って さあ とひっくり返すまで 全貌がちゃんと判らないってのが すごく嫌なのだと気付いた
工程の中で なるべく 出来上がりを想起させる 表の顔を見る そのことで 完成形までのモチベーションを 保ち続けられる っていうオマケつき
これは 正しい方法に拘っていた時には 絶対に思いつかなかった 今のわたしに一番近い ストレスフリーな縫い方だ 確実かつ安全 って意味では 匍匐前進ってヤツかしら
いつの間にか ツツジも藤も咲いていて 道端のマーガレットとか つい摘みたくなるほど いい季節がやってきている
ちょっと遠くまで 自転車で出かけ 眼に緑を楽しんで 最近お気に入りの 喫茶店に寄って ささやかな贅沢の モーニング
随分前から そこにあるのは知っていたが 入ってみたら なんとも昭和な レトロ椅子とか テラスの両開き窓とかが いいカンジだった
お客さんは 軽トラの作業服だったり 結構入れ替わりやって来るが スペースが広いから まるで気にならないし お店の人の様子も 邪魔にならない
コーヒーは普通 モーニングだって 最近の小洒落たカフェのように 野菜が添えられているワケでもなく トーストにはバターだけ というシンプルさ
でもそれでいい 他に気を散らされることなく いつもとは違う空間に 独りで居られる 都会にはいくらでもある そんな場所が 得がたいのが田舎なのだ
深呼吸でもするように 駐車場の緑を見ていると お店の人が端っこに出かけ 何やらしゃがみこみ 立ち上がるとその手には 一束の蕗があった
ああいいなー やっぱりここ好きだわ
昨日から本格的に 下のコの部屋構築再開 照明器具を取り付け 本棚を組み立て カーテンレールをつけ 畳とカーペットを敷き PC用のケーブルを引く
けれどもまず 必要なものを二階に運ぶのも 独りでは腰が上がらないようで 手伝ってくれと時間指定 そして一本のネジ締めさえ 全く不器用で上手くできない
っていうかそもそも どうしたら出来るのか 自分なりのコツを掴むまでは 試行錯誤が必要な人なので こういう場面では 諦めが早すぎる そのクセ 反骨心だけは一人前だし 言い返す口の達者なこと
そして今日 撤去できなかったヒーターを 隠す用の布を選ばせたら トルソーに着せてある服を あれは売り物なのかと聞く 上のコには試着してもらったが 試しに着せてみると いたくお気に入りの様子
これ最高だな って 10代には分不相応の絹 そういうものに 眼をつけるトコは ちょっと驚かされる でも結局ややこしい仕事は 大方上のコにお任せし 満を持してPC設置も
なんかなー しなやかな器用さと オレ様流にこだわる部分 ふたりのいい所を足したら さぞかし素敵なクラフトマンに なれるだろうって気もして
こいつらに 全くそっくりキャラの 弟たちのことを考えても 父が二人に仕事を継がせたい そう思った気持ちが よく判るのだった
すっきりクリア な三連休のあと いつもの一日が過ぎ 早くも何やら 頭に靄が掛かったよう
バイトは楽しいし 積極的にできるのだけど これってある意味 いろんな思惑が絡まる 蜘蛛の巣のようなものに 掴まっているのだろうか
だからこそ 入るスイッチ があっても当然だし 共同体や組織を覆う 個々の存在では 抗えないナニカで 存続させられ 或いは絶えて行くのかも
崩壊したとしても それも自律の動きの中 だとすれば 先のことはどうあれ ただその場で自分ができることへ 誠実に取り組めるかどうか だけが わたし自身の糧として残っていく
日常が積み重なると 肝心なそこんとこを つい忘れてしまうんだなー イタコになりながらも 全部は乗っ取られないような 強烈な芯みたいなものが 自分の中に必要だ
それは独りで 黙々と布に向かうだけでは 鍛錬されない部分かもしれない なんて ふと気付いてみた だからどっちも必要 そういうコトなんだろうきっと
服飾史の本を 枕に寝た夕べ そういうのを取り出す 余裕ができたせいか ぬくぬくと 温泉に浸かる夢を見た
結局はまた 自家中毒だったのか と思うけれど どんなに自己嫌悪に陥っても 言い訳をしても 逃げられないのだ
どうやら そういうのを ライフワークと言うらしい
切ろうとしても切れない 肉親にも似て お互いの嫌なとこを たっぷり相手に映して 他人ならサヨウナラで済むけど 托生ならば今回の縁で クリアできるものはしておきたい
隙間なくぴったりと それで傷ついて 180度離れてみたり ちょうど良い距離を 図っているように見えて 実際心の距離は ずっと変わっていないのかも
違って思えるのは ただ自分が揺らいでいるせい でもそうやって格闘して 位置を変えてみたりなんかで 初めて気付くこともある
自分がどうあっても ずっと傍に居る そういうリメイクに出会えた この人生はまだまだ続く
家のことを たっぷり片付けて その勢いで 久々に染めまで
いつか と思っていた 所々変色した白絹 染料が意外と濃かったので ついでに 襟廻りだけが黄ばんだ 白いTシャツ二着も
突然ヤル気になれたのは 手縫いをちょっとしたお陰 後ろの二幅を繋げて 前の二幅を重ねたら もうそれだけで納得 服を縫うって なんて簡単なんだろうと
なんだか随分 難しくしてしまっていたね ミシンだと 途方も無く遠い完成形が 手縫いで少し進んだだけで 全て手に入ったような感じ
つやつやと水に濡れて 新しい色になった布と一緒に わたしもすっかり 染め変わった気分だ
ぜんぜん 縫い気が起きないので 諦めて潜伏に徹していた
望んでいる一方で そうなっては困る という矛盾した思いを いつも抱えていて だからこそ 少し進み始めると ストップが掛かるのだ
方向転換が必要
昨年のある時期 これで一生行ける と思ったことが いつの間にか薄れて 細部の仕上げにこだわる毎に どんどん離れてしまった
作りたいのは 工業製品みたいな服じゃなく ただ 沢山出来上がればいいのじゃなく わたし自身にとって 意味のあるものでなければ
それは まるで社会性のない ごくごく私的な趣味のもの むしろ 既成の手順をあえて壊して こんな作り方してる っていうような ヘタウマ感覚がいい
緊張感ばかりの 楽しくない縫い方はやめよう 息を詰めて 向かわなきゃいけないミシンなら まずは手縫いをしよう
どんな少しの隙間でも すっと広げられてこそ 縫うのが楽しくなる そういう瞬間を作るために いちから自分の概念を変えよう
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