まだ完成しないベスト
薄く広げた真綿を 裏地のパターンに乗せ 手縫いで周囲を留めたあと 表に縫い目が響かないように キルトをした
よく考えてみれば それをミシンで縫うには 真綿の方を外側にしなければならず どんな具合になるのか 想像もつかなかったので 結局また手縫いで 裏地のパターンを繋げることに
がしかし 鬼縮緬が二枚合わさると もう並み縫いの針が入って行かず 結局ひと針ごとに 掬っては糸を引き 所々は返し縫いをし 細かく細かく進んだ
一体わたしは 本当に仕上げたいのだろうかと いつ終わるとも知れない その作業の中で 終わるのが嫌なのかもしれない とふと思う
仕上がってしまえば それは既に過去になり もう同じ過程を 二度と辿ることはできない
ああ そうか
この服はたぶん わたしが父に贈る 最初で最後の服になるだろう もうすっかり記憶が曖昧で 恐らくこれが 誰の手によるものかすら 判然としないはず
いつ来るとも知れない その時 に向かって 針を持っている だからこそなのだきっと
夕べは いつものメンバーで集まった 昨年からずうっと のびのびだったので 忘年会も新年会も込みで
以前から噂に聞いていた 四国のとあるにごり酒を 友人が用意してくれていて それがもう最高に美味しくて 久しぶりに飲むヨロコビを感じた
んで 途中で偶然に訪問者があり 全員が見知っている人だったので 用事の後招きいれ これまでに深くは聞いたことのない 個人的なあれこれを不躾にも質問 そこから思いがけなく 恋話へと発展してしまった
独身主義だと言い切っていた人が 密かに想い温めている その純なこころに驚き なんだかもう 一足先に春の花がほころぶようで シアワセのお裾分けをたっぷり
わたしより ひとまわり年上の 本当に人のいい方なのだが まるで少年のように 出会いから始まって 小さなエピソードに頬を染める
一生青春です との言葉はさもありなん だって 恋するキモチは いつも恋話を聞いている若いコと まるっきり同じで 勘違いでなく確かな相手の想いを 手繰り寄せたくて一喜一憂している
話過ぎたって明日後悔するかも と言ったら 既に後悔している だったのに それからも暫くお話は続き 今年のさらなる展開を 応援しつつお別れしたのだった
やっぱり真綿はいい そのふんわりした上に 手のひらをそっと乗せると すぐに暖かさが伝わってくる
一本一本は 光が反射して ようやく存在が判るほど なのに それらが集まって できた空間には わたしの体温が広がり また戻って来るかのよう
できたてのワタアメって こんな感じかな けれど真綿は 溶けずにいつまでも ふっくらとしていて こちらの方が解けていく
本当は 全ての人に 真綿ってこんなだよ と 手を引いて 解かしてあげたいくらい 視力を失った人にも この不思議な感覚を 味わってもらいたいくらい
隠してしまうのが惜しいけれど ずうっと古くなって 解いた中から現われるのも 縫った人から着る人への 慈しみを発見するようで ことさらに嬉しかったりする
骨をテーマにした アメリカの人気ドラマを テレビで初めて見た
ヒロインの法人類学者は 人の気持ちが解らない 論理的なタイプとして描かれていて 本人にとってもそのことが コンプレックスになっている 一方ヒーローの捜査官は 彼女にそれを指摘しつつ フォローする場面もある
けれども見ていると ヒロインは特別鈍感なワケじゃなく 経験値に即して 他者の気持ちを推し量ることもできて ただ人よりも 解っているつもりになることに 安住しないタイプで だからこそ論理的と言えるのだろう
当たり前だけれども 解っていると思っている他人は ただ自分の価値観に即して 色づけしているだけなので あの人はこういう人 と言い切れるとしたら 相当偏ったスケールで計っている
それは時には 自分の心の健康を守る 防衛手段にもなるのだけれど 多くの人が 無自覚にしてしまうそのことに 安易に流れないというのは ひとつ潔いスタンスという気もする
けれども逆に 安易に解ったとしない自分に 無自覚であったとしたら それはそれで常に闇の中のようで つらいかもしれない 一見解る風の捜査官は 処世術として 他人の気持ちを量ることが 上手なだけかもしれず それだってコンプレックスになりかねない
ちょっと乗り切れずに見たが ステレオタイプに 薄く描かれたふたりのキャラの中に くるくると入れ替わる 陰陽の片鱗があって 膨らみを予感させる第一話だった
爆睡していたら 電話で起こされ 休日返上で出勤となった
一緒にシフトを組んでいる先輩に もし雪で車が出なかったら 早めに電話して と常言っていたワケなのだが いざとなってみると 身体はすっかり 休みモードに変換しており 寒さが一層堪えた
けれども 雪が降っても 歩いて行ける距離を考えて バイト先を決めたことの恩恵を この冬はどんぴしゃで味わえて いつもより5分程早く出るだけなのが すごく嬉しい
特に今朝は どこもかしこも凍っていて つるつるのぴかぴか 朝礼の窓から見える軒先には 長い氷柱が下がっていて まるで絵に描いたような 冬の景色なのだった
そして 家に帰って 早速消雪装置を使ってみた ビニールホースに癖がついて せっかく綺麗に並んで空いた穴が くるくるとあちこちに向いて 支えの棒が必要かとも思うが なんだかそれすらも 手作りっぽくて微笑ましく見えた
はや 申告用紙が届いた うかうかしていたら もうそんな時期 ってワケで ようやく重い腰を上げた
本当なら 年末に縫って 帰省時に持っていく はずだった綿入りベスト 注文の品の発送を終えたら もうそんな余裕はなくなっていた
いつかできたらいいなのコト いつか縫えたらいいなのモノ 未完の行為が 少しずつ積み重なって 日々は追いついていない
辰年の父に 判るだろうかと 龍の地紋入りの繻子と 同じく龍柄の鬼縮緬を 裏地に選び 亀甲の藍大島を裁った
簡単に キルト綿を使うつもりだったが 真綿を薄く引いて せめて 愚娘にできる 最高のことをしてあげよう
朝バイト先でおもむろに お願いがあります と言われ 警戒心たっぷりで聞いてみると 裁縫は得意ですか だったのでホッとして ボタンつけを引き受けた
普段作業するのとは 違う場所で 針と糸を持つのは新鮮で 夕べの針仕事のキモチよさも 浮かんできて なんだかちょっと楽しかった
んでその後 ずうっと懸案だった ディスプレイを大改造 どうしても死角ができてしまうので かなりの大仕事だが いちどやってみてはどうかと 少し前から話し合っていた
あらためて 何をどこへ配置するかでモメ 結局変わらないのでは との意見もあったが 今一番解消したい点は明らかなので 新たな問題が浮上したら またその時考えたらいいってコトで
いやーもうそれが 動かすのは大量の本で 持てるだけ持って 場所を空けては入れ替えるを ひたすら繰り返し いつもは広すぎて 暖房が効き足りない位なのに オフにしてもドアを開けても 汗だくでボロボロ
とりあえず納めるところまでで 先に失礼してきたが いざやってみると 店内はなんだか明るく変わり 需要の多いものが手前にきたので 動線も遥かに効率的になった
そして何より 空気が動いた感触があって 明日からがまた すごく楽しみな気がした
解いてばかりいた 着物が随分積み重なり それとともに 何がどこにあるのか 判らないくらいになった 小物が気になって整理を始めた
いろんな箱を いちど中身を全部空けて 溜まったホコリを綺麗に アイテムごとに収納し直し 買ったままになっていた 芯地や糸や帯紐も ようやく定位置に納まった
んでいつも ハギレやなんかを脇に寄せ ようやく出来上がったスペースに 布団を敷いているので もう少しゆったり眠れるように ちょっと位置を工夫
僅か6畳の空間なので 本当は毎日の心がけが必要だけど 一旦作業を始めてしまうと 途中のを動かすことができず 気づいた時には すごいことになってしまう
丸一日掛けて スッキリしたお陰で 全く予定していなかったのに 夜は自然と針を持って ずうっと補修途中のままだった 自分用のスカートを仕上げた
あーキモチいい ようやくここから ぼちぼち始められそうだ
今回の積雪には 間に合わなかったが 手作りの消雪装置が ムスコによって完成し なんだかもう ドンと来い の気分なのだった
一日雪かきをしただけで 腰に危機を感じ バイト先にある 塩ビパイプのにヒントを得て もっと簡単なのでできないかと ちょっと提案してみたら 材料を買ってきて さくさくと作ってくれた
もっとも まだ試していないので 真価の程は判らないが 先日の帰省でも コタツに電気包丁研ぎを直し 本人の株は急上昇で お年玉をはずんでもらっていた
なんだか いろいろあったけど お陰で 彼の個性を潰さずに 済んだのかもしれない と思う一方で ちょっと便利な人から さらなる使える人になるには まだまだ段階があるのも確かだ
貧乏家庭の子どもらしからぬ のほほんキャラを見ていると これからどう 自分をプロデュースして行くのか 心配にもなるのだけれど それはわたし自身にも 二重映しになり ちょっぴりフクザツな 気分だったりする
新年も 恋話は続く
ええと 好きな相手がどうやら 自分に興味を持っていない と思われるとき どうしたらいいだろうか というギモンについて
折に触れ 相手の矢印を知りたくて 探りを入れても こちらのベクトルとは ほど遠い感触に 望みがない気はするが このままでは何も起こらないワケで 何か打開策はないだろうかと
なんかそれを聞いていて 昔の友人のコトを思い出した
好きで好きで仕方ないのに 恐らく向こうは何も想っていない人を どういう誘い文句でか 女ふたり住まいのアパートに 同居人の留守を見計らって招き しばしおしゃべりなぞして 過ごしたそうだ
んで 一向に何も起きないのにジレて とうとう彼女は 帰ると言って立ち上がった 彼の背後から抱きついてしまったと 可笑しくも哀しいそのシーンが 玉砕も辞さない溢れる恋ゴコロに オーバーラップしてしまうのだった
本当に 命短し恋せよオトメ だけど 死に急がなくたっていいじゃない 相手の想いが感じられないのなら あなたのステキを 知ってもらえるように じっくり頑張ってみたら
ちょっとゆっくりしようと 思い切って連休を取った
洗濯に雪かきに 縫い部屋の整理をして 用事がてら 年末から訪れたかった 近所の骨董屋さんを覗いてみた
前回来たのはいつだったか モロッコの飾り皿と サイトのリメイク服画像にも登場する 百合の木彫りハンガーを 随分オマケしてもらって求めた いわゆる骨董の類の他 少し外れたそんなモノがあるのが なんだか楽しいお店なのだ
実は古い木製ハンガーは 個人的にツボのアイテムで 先日の帰省でも 紐で括った6本を ひとつなら200円 まとめてなら800円というので 重いけど迷わず買い占めた
着物もそうだが そういう古い製品の 余分と思われるような 手の掛け方を どうして今の製造業が 失ってしまったのか 考えると悲しいが 多くの人が見落としているから 安く手に入るというのもフクザツ
んで 今日の掘り出しモノは 欅の古い手あぶり 火鉢としては これまでに見た中でも 最小の部類に入るが 描かれた牡丹の柄が 使い込まれてもなお美しい
随分遅れたけれど 友人への クリスマスプレゼントにしよう 真鍮の火受けがついているから 花器としても使えるし 小さな網を乗せて ちょっとした焼き物をするものいい
ついでに自分用にと ペアの真鍮の燭台を選び いい感じに腐食した 鉄の花入れや 中国製のお燗用具や お姫様の化粧箱の 初めて見る家紋について 店主のおじさんとあれこれお話
今年最初のお客さんだからと 思いがけない値引きをしてもらい どこに出かけても わたしに栄養をくれるのは 間違いなくこんな 手間を惜しまない 古い仕事の数々だと確認し あるべき自分の姿へと 思いを巡らせたのだった
相変わらず なかなか風邪はよくならないが 味覚は少しずつ戻ってきて 食べたいモノがちらほら 浮かぶようになった
とはいっても 切り詰めながらの つつましい食卓なのだが それでも 帰省から戻ってきてから うちのご飯がやばい と食事の度に下の子が言う
米だよ米 そう上の子が指摘して なるほどそうかと思うのは 帰省で沢山のご馳走が並んでも 永らく食べていなかった 電気炊飯器のご飯が どうにもイケなかったのだ
浄水器を通さずとも この土地の水は 遥かに美味しいし もう今ではすっかり慣れた 面倒くさいご飯鍋での炊飯は やっぱりお米を 最高の状態に仕上げてくれる
つやつやぴかぴかのご飯を あっという間に 山盛りお替りして にこにこの顔を見ていると 当たり前のことを再確認するためにも 他所に出てみるってのは いいかもしれないと思う
年をまたいだだけで 年末近くに思ったことが いちどリセットされてしまい 何かまた 新しい意欲が戻るまで しばらくは 着物を解いて洗う作業に 専念しようと落ち着いた
で 夕べ羽織を解いていたら 衿裏の隠れたところに 古いバッジが留めてあった 稲穂の柄に協の字だから 持ち主は農家の奥さん だったのかもしれない
黒地に 滲むような絣で 紅葉の柄が入っていて 生地はかなり古い絹なので 場所によっては 弱地になっているところも 小穴が空いたところもある
羽織で用尺が限られる上に そんな状態だから 果たしてどれ位 使える部分が取れるだろう と思うけれど 帰省でこれだけは絶対と思っていた 極薄の芯地を たっぷりまとめ買いしてきたので 随分と心強い
その貼りやすく 生地感を損なわない芯地に行き着くまで あらゆるものを試し情報を集め 結局どうしても バキューム式のアイロン台が 必要なのかとぐるぐるし そんな出費をしなくても これなら大丈夫と判ってから 僅か二メートルのを 惜しみ惜しみ使っていた
メーカー名も 品番も判らない芯地だったが 友人のお陰で 再び手に入れることができて 今思い返しても その幸運に ただ感謝の気持ちが溢れて来るのだった
年末からの 風邪が治らない
お陰で ずうっと食欲がなく お酒もほとんど飲んでいない 帰ってからと思っていた 黒豆も数の子も 一向に支度する気になれずにいる
最低限バイトにだけ出て 今年はどうしようとか そういう決意も何もなく 正直言って 自分の中では まだ年が明けていないかのよう
具合が悪いせいか 夢を見るほど 充実した眠りもないままだったが 夕べようやく 初夢らしいものが記憶に残った
どこかの駅で 電車を乗り換えるという よく見るパターンだったのだが ホームの階段を上がったところに 大きなお風呂をしつらえて 駅員の人に謝りながら 友人をお風呂に入れてあげていた
銭湯の浴槽ほどもある風呂桶を どうやってそこへ運んだとか 詳しいところは一切なく 何人かいた男女の友人も 正直誰なのかは定かでないが ともかく 大きなバスタオルで目隠しをしてあげて せめてゆっくり入れるようにと 気を遣っているのだった
なんだそれ
意味は判らないけれど いつも駅の夢は気ぜわしく 電車に遅れそうとか 次のホームが見つからないとか とことん殺伐としているので そんな中でも ほっこりとした時間が作れる という点では これまでになく進化している
お陰で 明けた気分が 少しだけやってきた
いつも帰省するたびに 何故ここでなくてはならないか という固着の理由を 遠くから確認しては また戻って来るのだが 今回はこれまでになく それが薄まってきているのを感じた
というのも リメイクがこの土地で始まって 縁あって随分と貴重な着物を いただく機会も重なって 尚更ここでなければ と思うことが増えたのだが 実はよく考えてみると その後の流れは 住んでいる場所に依存していない
なるべくなら 骨董市を覗く機会を絡めたい と思いはしても 素敵な着物を それに見合う当たり前の対価を払ってまで 集めようとはするまい というのが いつも心がけるスタンスなのだが 需要の多いはずの都会で探しても 驚くような出会いが必ずある
そのことに 慢心するつもりはないので 毎回リセットしながら むしろ期待度はどんどん低くなり それと反比例するかのように 成果は大きくなっていくのが 本当に不思議に思える
特に今回は お線香を上げに行った先で ほんの一部と言う 未仕立ての反物がどっさり出てきて 持って行けるかと聞かれ 到底無理なので 後日少しずつ 送ってもらう話になった
さらっと柔らかい夏物の 薄紫のぼかしや 童が入った綸子 それらが 新春の明るい日差しに つやつやと輝くのを 夢の中のように見ていた
都内を走る電車から 驚く程近くに見えた富士山のように 絹の道は 気づかないうちにいつも わたしのずうっと 近くにあるのかもしれなかった
お正月は 自分がどう死にたいか を考える所から始まった
正確には どう と言うより どこで なのかもしれないが 天涯孤独でない限り 勝手に死ぬというのは 赦されないことなのだ
その帰着点から どれくらいか判らないが 今へとさかのぼり どう生きたらいいかを 同義語のように考えるとき 相変わらず途中過ぎて 頭にはぼんやりと靄がかかる
ひょっとしたらこの地にきたのは ただ 猶予期間が欲しかったから なのかもしれない とさえ思ったりもするのだが そんな風に 総括できるほど 次の何かが浮かんでいるわけでもない
生まれた時からの 名前を失ってそれから 帰る場所は 自分で作るよりない と うっすら意識していたことを はっきりとは口には出さないが わたしは全く寂しいとは思っていない
寂しさは 何かを望むことの中にある ひとりでは 到底なしえない限界を見たとき それでも望むなら きっとそこには寂しさが潜んでいる
何もなく 平穏で居られる時期って短い
友人のその言葉を聞いて 同じことを 只中の平穏な時間に 思っていた自分を振り返った もうあの頃は戻らないけれど ひょっとしたらわたしの心の中は ずうっとたいらかに なっているのかもしれない
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