毎日少しずつ 手縫いでちくちく ステッチで 疵を繕うばかり
縦横の糸で織られた布を 自由にくねる糸が補強する こうなりたいという 糸の意思をそのままに ただわたしは ぐるりぐるりと留めつける
まるで定まらず 洗練されていないその軌跡は どこかで見た 民族の紋様にも似ていて けれども どこにも存在しない
けれどもそれは わたしの表現欲求が 生み出したものではないから きっとこの世ではない どこかにあるのだろう
螺旋を描く前の混沌 ようやく手繰り寄せた 一本の糸口を すうっと引っ張り出したら 現われるカオス
そうだ この縫いを始めてから わたしの眉間の奥が ときおり ムズムズと動き出している
なんだか判らない 新しい予感がやってくる
今日も張り切って縫う はずだったのに 朝から片づけを始めて 気がつけば夕方 といっても 箪笥と押入れだけでこれだ
もう思い切って 古い服をばんばん袋に詰め 廃品回収に出してしまおう と決心したのだけれど その整理もさることながら リス君が散らかした 木の実の殻掃除も
自由に飛び回っているから 仕方ないのだけれど いつも靴下やハンカチを入れている ラックの奥底からは びっくりする位の 食糧が発見され まったくもお本当に なのだった
んで 随分前に一度見たきり そのままになっていた この家の書類を検めたら 釣書が出てきて 忘れていたけど今日は 亡くなったこの家の お母さんの誕生日
あー 思い出して欲しかったのかもしれないな ちょっぴり 自分の母親のことが頭にあったから 余計そんなことを考えた 4人の息子に嫁 娘がいたらどうだったろう
一緒にあった古い眼鏡を 試しにちょっと掛けてみたけど 乱視がきつくてぼんやり なんだかそれは 肝心なトコで見通しの利かない わたしの人生にも似て
ストールベストが あと少しの段になって 次を考え始めたら そのままそっちに 移行してしまった
穴や擦れだらけの藍染麻 厚くもなく薄すぎもせず いいカンジにしなやかで その袖部分だけを使って なにかできないかと思案した
以前作った 蚊帳襟のはおりものに似た 思いっきりシンプルなのを作ろう 横にした生地がそのまま襟になる そのたわんだ袖までのシルエットが なんだかとても好きだ
けれども 生地はとても いい所取りなんてできる状態ではなく 袖の補強布でさえ解れている まずそれを手縫いで直しながら 刺し子みたいには整っていない ランダムな接ぎを中てようと思った
もともとあったみたいに 自然な作為で 刺し子糸をたるませながらステッチし そのたるんだ糸を絡めながら 別糸で留めつけていく
やたら時間は掛かるのだけれど くねくねと走る糸は なんだか自身の日々のようで 時折行き先を失いぷつりと切れる 自分なりの手の掛け方を すうっと探していたけれど こんなのがわたしらしい
そうしていると母から電話 独りになったら わたしに看てもらいたいと それは そう遠いことではないかもしれない
いつ帰って来るのか もう何度も訊かれていた だったら わたしは何故ここにいるのか ここに来るきっかけとなったあの家に 再び戻るべきなんだろうか
思わず涙がこぼれた
収入制限と 製作のことが気になって 急遽連休を取らせてもらった
そう バイトでは あまり稼いでしまうとまずいが 営業収入はいくらあってもいい ってゆうかこのままじゃ 今年の申告もサビシすぎる
頭の中には もういくつもの服がぶら下がり それらをトルソーに着せて 何パターンものコーデが 出来上がっているというのに
ものを作り出すときの 溢れるようなエネルギーが ワケの解らない怒りやトキメキと ごっちゃになって なんだかおかしく狂おしい
なんでまだわたしは ここにいるんだろう ままならない現実と 自由にならないカラダを呪いながら けれども縫わなきゃいけない
このこと だけは 確かにわたしを わたしにしてくれる その感覚をもっと刻み付けよう 思い出す必要がないくらいに
今日は朝から 今度の展示会に向けて 着物の値札つけ
ずらっとぶら下がったのを前に まず先に 適当な金額を値札にだーっと書いて 一点ずつハンガーに下げ それを手分けして 針と糸で縫いとめる作業
数が結構あったので あまり吟味に時間も掛けられず なるべく安く を心がけたつもりだが 果たしてどうだろう
そしてさらに まだ集まっていないのもあるから 今回の古着物は 数だけは相当充実している んで内容はと言えば 最初の頃に戻った感じがする
というのも 実際に生活の中で しっかりと活躍していた 質実剛健の着物が多いのだ 個人的にはかなり好みの ラインナップになっていて 縫う時間がないのが幸い
ヘタにあったら あれもこれもと ぐるぐるしてしまいそうで 努めて自分の限界を心がけ 使ってくれる人のところへ ちゃあんと渡るといいなと思う
とはいえ わたしももっと 頑張らなきゃいけないな
ちょっとだけ縫ってみた
連休中 あんなに頑張って 解いて洗った布たちではなく もうずうっと前から 縫われるのを待っていた 透ける百合の花柄
確か昨年も 使おうと思って カルテを作り どこをどう取っていいやらで 手をつけられずに またお蔵入りさせたヤツだ
結局カルテは見ずに その時つけた 避けるシルシを頼りに 昨夏からお気に入りのかたち ストールベストを作ろうかと
インに プレーンな白を着て デニムにはストールなしで ストールをつけるなら 無地の麻のパンツやスカート コーディネイトできるように それらも縫いたい
が 毎日少しずつなので あまり大きいことは考えず まずは一点の完成を目指そう 誰も寝てはならぬ を聴いたくせに 今日はもうオヤスミ
このままではイケナイ と 夕べは一念発起
ナマケ心に鞭を打ち 少しだけ布を裁った んで今日 再びそれに向かったのだが ちょい気分が変わり また別の布を裁った
というのも 最初のは 試したことのない 縫い過程があって それに取り組むには もっとたくさん まとまった時間がないと たぶん途中でヘタるだろうから
とはいえ シンプルなかたちでさえ どこまでできるか 全く自信がない しばらく縫いから離れていると かつての経験は抜け落ちて いつも必ずこうなる
だから恐れるな と思うのだけど 後ろは断崖で 目の前は絶壁 ひゅるると吹く風に からだがゆらりと揺れる ああ 誰かわたしに勇気を
というワケで 今回のバックグラウンドは ポール・ポッツ そう 自分を信じていれば きっと大丈夫
今日の一歩が 明日のわたしを変えるのだ
はあ ダメだダメだ 連休が終わったら 縫いは夜なべで なんて思っていたのに とてもじゃない
だけど バイトの方は さらに面白くなってきて 扱っている商品には 価格が大きいものもあって 売れたときの充実感もひとしお
商品はどれもが 生活に欠かせないような類ではなく ごく趣味性の高いもので だからこそ 日常を超える夢や憧れを お客さんと共有できる
それを手にしたら 明日からどんな風に変わるか 広がる人生の豊かさなんかを お話ししながら 一緒にイメージする楽しさ
親が反対している という高校生と まるで共犯者みたいに いかに既成事実を積み上げて 納得させようか なんて悩んだりもして
お客さんとの出会いは わたしがけっして送ることのできない いくつもの人生との出会い ものを通じて 生身の人間に触れる そういう売り方ができることが 楽しくて仕方ない
連休中に なにかひとつ縫いたい と思っていたのに 着物を解きはじめてみると その一着分でまず一点 という気分になれず 次々と沢山解いてしまった
絹のあとに 木綿や麻の トーンの違う藍染を手にして 巷にありふれているようで 却って服にするのは 難しいと思っていたのだけれど 黒とはまるで違う 彩色のはじまりのような印象が なんだか新鮮に感じた
藍の着物に続いて 朱に近い赤の胴衣を二着解き 似たような風合いの 着倒されて柔らかくなった 厚地の木綿ばかりを選んで 生成りや絣まで せっせと解いては洗った
これからますます高く昇る 真夏の太陽にも負けない 汗と埃を吸っても ざぶりと水を潜っても なお強い生地たち それらを使って 大地とともにあるような まとまったイメージの服が作りたい
連休最後の明日 新しい糸を ミシンに通せたらいいな
修理は昨日終わり けれども それでは全面解決に至らず 結局また スッキリしないままに 日々を暮らすことになった
なんだかいろいろ そんな風で 爽やかな5月の風なのに 気持ちは晴れない なのでせめてと 公園ブランチに出かけた
さすがに もう子ども達は 敬遠するかと思いつつ誘ったら 全然そんなコトもなく 人気のない公園の片隅で 眩しい緑を眺めながら それぞれ好きなものを食べた
そうしていると かつてのように キクが傍にいて 子ども達はそのまま しばらく遊び わたしは木陰で昼寝 という 何度も繰り返したシーンが浮かぶ
何ができてもできなくても 変わっても変わらなくても こうして 大きく成長した子ども達を見ると 無駄に過ごしてきたワケじゃないんだ と救われた気持ちになる
何かまた 新しいものを産み出そう 自分が成した実感を得られる 新しい服を作ろう そうしたらきっと 世界は少しだけ変わるだろう
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