郵便局の帰りに いつも 近くの川沿いを歩いて リスのための緑を採取
銀杏の葉っぱがいっぱい落ちて 木にもまだ沢山あって 周囲に広がる黄色が まぶしいほどだった
緑というより ヤツは花芽が好きなので つぼみをつけたのを中心に ないようだけど 意外とあるこの季節 タデのほかは 名も知らない数種類
んで そこに至るには 階段を下りるのだけど 道路からぐっと下がった その階段脇の枯れ草に 白いティッシュがひらひら
誰かがね 我慢できずに そこで成した証拠があって 粗相せずに きちんと間に合ったなら よかったねと
ひょっとしたら すぐ近くのバス停で 待ってる間だったかもしれず ティッシュやハンカチは 携帯しとくべきだなーと 微笑ましくもしみじみ
一時ぐっと冷えたのに なんだか暖かいこの頃 風もない穏やかな日が嬉しい
お陰でゆるゆると過ごしてしまい 気がつけばもう月末 涸れて疲れて 温泉と酒で乗り越えていた昨年が 遠いむかしに思える
製作もぼちぼち 以前作ったダブルのジャケットを もっと打ち合わせを深くし ややこしかった襟から肩のラインを変更 羽織風のラップジャケットにすべく 新たに型紙を作った
真綿をはさんだ 表裏二枚の絹は きっと 軽く優しく暖かく 着るひとを包んでくれるだろう
擦り切れたわたしでは 到底できなかった表現 こころの豊かさ 誰かを大切にするために まず自分を大切にすること この服で そんなメッセージが伝わるように
ようやく真綿が届いた 早速箱を開け 袋にぎゅっと詰まったのを 広げてみた
白い真綿は想像どおり 木綿の綿より遥かに細く つやつやと輝くように美しく 手を入れると 溶けてしまいそうな柔らかさ
それに比べ 野蚕の真綿はまったく違う 綿という言葉からは 想像もつかないような かさかさの繭の表面を そのまま広げたみたいな 茶色のシートだった
繊維の状態は均一ではなく 太いのは波うち 細いのは蜘蛛の巣のようになって 中には木のくずか 葉っぱのかけらみたいなものも混じっている それはそれは野趣溢れる状態で 生きているものの気配が濃厚だった
どうやって使ったらいいのだろう そう思いながらかたまりをほぐすと 際限なくふわふわと広がり 空気をたっぷり含んだ 自然の生成り色の綿になって行った
それはまるで 死んだ菊丸の毛を梳いているようだった 猫の毛よりも細く 絡み付いて束になったのを 小枝や葉っぱを除きながら 何度こうして解したろうか 羊毛で思い出したことがあったけれど それよりも遥かにあいつの毛に似ている
価格は野蚕の方が高く しかもこんなに手間が掛かるから 次に注文するとしたら もっと使いやすいものがいいのかもしれない そう思う一方で この過程は捨てがたく ちょっと衝撃の出合いなのだった
先週に続き遠出の用事 しかも今日は始発だったので なんだかながーいいちにち その中で時間調節のため 手芸屋さんに寄った
さびれた街にひとつはあるような 昔から商いしている小さなお店 ブラインドが下ろされていたので ちょっと入るのに勇気が要ったけど そこにしかないような デッドストック品の匂いを感じて
あーもうそれがドンピシャで いつ包んだのか判らないくらい 薄黄色に変色したPP袋に 格安ボタンが何種類も詰め込まれ 箱入りのボタンの中にも 初めて見るメタルや木のものがいくつもあり 思わずコーフン
取り立てて すぐにつけたい服があるワケではないし 前回の遠出でも 別の場所でボタンを買っており 今日は締めるつもりだったのだが 次にいつ来られるか解らないので かなり悩みながらのチョイス
そうして選んでいる間 外は人通りもなく寒々しい様子だったのに 次々とお客さんがやってきて 地味な店構えからは想像もつかないくらい やれ毛糸だなんだと 突然別世界のように 賑わってしまったのには驚いた
店内には他にも いかにもレトロなチロリアンリボンとか 初めて見るような紐類とか 時間と懐に余裕があれば 欲しいものがいっぱいだった
いいなーこんなお店 地味ながらも きちんと地元のひとに愛されている いつかまた この服にはあのボタンをと 具体的に選びに来られるように 品揃えを頭に刻み付けたのだった
セーター代わりになるような 薄い真綿入りの被りトップス カーディガン風に羽織れる ラップ式のジャケット デニムのボトムにも合う 取り外しのできるインナーのついた 膝上丈のコート
持っている布を ひとつずつ頭の中から取り出すと そんな冬服のイメージが湧いてくる 暖かさを追求すると どうしても手間は掛かるから いくつかたちにできるかは別として
そして 個人的には 冬の白が好き 綸子の羽尺と繻子や緞子の帯地 ひかりの加減で浮かび上がる 地模様や織り出し柄の 白ばかりの世界を いつか着られるものにしてみたい
手始めにストールをいくつか 今度は羊毛でなく真綿をと思い いかにも自然のちからを感じる 野蚕からとった茶色のと いわゆる真綿の真っ白のと 試しにふたつ注文してみた
届くまで暫らくかかるそうなので その間 解き洗いと布あわせに勤しむ やわやわと 絹のもとをほぐす瞬間を 楽しみに待ちながら
わくわく市のお陰で もう少し このままの生活を続けていられる 猶予をもらえた
後悔なくひとつの布を生かしたい という自分のこだわりと リメイクの過程にまつわる全ては 効率とか商材として考えられるスタンスとは どうしても矛盾していて そこに囚われると リメイクの根本からを否定したくなる
母にジャケットを縫ってから そこを切り離すことが 自然にできるようになった ギリギリまでこの価値観でやって 無理なら 生活は他で成り立たせればいい そう思ったら 相反するものをリメイクに乗せる苦しさが すうっと消えた
二兎を追うほどわたしは器用ではないから いつか 布への思いなんて遠い過去になって ただ目の前の仕事に 集中するときが来るのかもしれない けれども 少なくとも今この瞬間は違う
楽しみにしていた 深い緑の鬼しぼ縮緬を解くことができる その手触りを味わい それがいいと思った幽玄な花の 裏側から 鮮やかな色があらわれて 背筋がぞくっとする
もともと持っていたその色が 着られるうちに褪せたのだと判ったとき どちらの色もいとおしくて 両方を使ってあげたいと思う 表にそのふたつを並べるなんて 果たして自然にできるだろうか
また そんなことから一歩を踏み出す
一昨日 用事があって出かけた先で いつか欲しいと思っていた 結城紬を発見した
もちろん銘があるワケではないのだが 柔らかい極上の手触りは 手紡ぎの真綿と思われ 明らかに普通の紬とは違っていた さらに飛び柄の細かい亀甲と白耳に それと確信してしまった
シミがあって格安だったので 素材にするには最適 新品時の価格を想像するとくらくらするが わくわく市で とっておきを手放した代わりに こうして 解き用のいい出合いもあるのだなー と思ったワケなのだった
んで わくわく市では 最終日の昨日も とっておき価格のが数点売れて行った 今開期中を通じて この傾向ははっきりとしており それがいったいどういう訳なのか 不思議なくらいだった
どの商品も こちらがいただいた多寡以上に 買ってくれたひとたちを 豊かにしてくれることを願わずにいられない そして 自分が作るものも そうできるように精進しなきゃだ
初日二日目と それほど お客さんが殺到することなく いいリズムでお迎えしたあと 昨日は静かないちにちだった
今回は 売り物が少ない気配だったので すんごくカワイイ手作り雑貨を 若いお母さんグループにお願いする一方で お蔵入りだった着物たちを 思い切って並べてみることにした
正直言って 手放すのは惜しく さりとて 解いてしまう前に そのまま着たらさぞやという気もして それなり迷いつつの陳列だった
けれども 手を掛けたリメイク服もそうだが ただ出来上がったもの以上に そこに並ぶ前のあれこれを きちんと酌んでくださるお客さんの存在に 深く深く癒された そういう場面は 予想も期待もしていなかったが あとからじわじわと効いてきた
そういうことを感じる時点で 既に商売未満なのだとも思えるが 大量にある同じものを ピストンのようにやり取りする中で お金と引き換えに どんどん涸れていった昔の売り場で 得られなかったものがわくわく市にはある
ひとつのものの前に人間がいる 当たり前のそのことを やっぱり大切にしたいと思うのだ
もうわくわく市が 始まってしまったのだけど 永遠に終わらないかに思えた リバーシブルジャケットのあと あまりの開放感に なにか縫いたくて ストールづくりを昨日から
最初は 二種類の半幅を裏表に なんて簡単に考えていたが いざとなるとそうは行かず 色合わせに凝りたくなり そうなると色移りが怖いので しつこく洗濯をし 袖の一部しかない赤い生地を 細く繋ぎ合わせて使った
反対側の生地に小さなシミを発見し 自然に見えるように 問題ないところにも刺繍で花を散らした さあもうすぐ完成 というところにきて 繋いだ布の重なり部分のせいで アイロンを掛けると 刺繍をした生地にアタリが出るのが判明
んで結局 ロックを掛けた縫い代の端を裁ちなおし 手でまつったあと 全体に薄く羊毛を敷くことを試みた 本当は真綿が理想なのだけれど手元になく 以前買い込んだのを活用
その方法はいずれ 服にも応用したいと思っていたので 丁度いい練習の機会となった 冬のジャケット用に キルト綿を買ったものの なんだか無機質に平らな厚みが いまいちイメージではなく 使う気になれなかったのだ
うすーく広げた羊毛を 四方の縫い代にまつりつけ どきどきしながら慎重にひっくり返し 端も手まつりにして完成 そしてさらに その完成形を洗濯してみると 中の羊毛の寄りも色にじみも なんとか大丈夫そうでほっとした
ふっくら柔らかな錦紗の生地が 羊毛でさらにふわふわになり 優しく暖かく首元を包んでくれる ようやく 小物を作れるようになったのが嬉しく 別の生地合わせで いくつも作ってみたいと思うのだった
たくさんの古着物に 触れる機会があった
それを目指すひとの数も たくさんで まるでバーゲン会場のような 勢いだったのだけれど ゆっくりじっくり 生地の状態と値段を 繰り返し秤にかけて眺めた
このところ 苦手意識がなくなったお陰で 鬼シボ縮緬や紋錦紗の 古代色を感じさせてくれるような 素敵な着物を選べたし 目的だった地味色の男物や 繻子の黒帯や織りの凝った丸帯など 予想以上の収穫だった
お客さんは皆入り口で 商品を入れる大きな袋をもらったのだが それを下げて移動している間 知らないひとから ちょっとそれ見せてと言われ チョイスした着物を 披露することもあった
また 友人に生地の種類を聞かれ 座り込んで見ていると これはなんだろう と知らない人が参加し それに応えていると 今度は別の人がという具合
それぞれのお顔は とても素朴で柔和で たくさんの着物に触れることに加え そんな小さな出会いにも じんわりと癒されて 素敵な時間を過ごせたのだった
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