三丁目の夕日を観た 自分の記憶よりも 少し前の時代という感じがした中で ありありと甦ってきたのは 駄菓子屋の風景だった
ガラスケースの中に お砂糖を固めて色をつけたお菓子や パラフィンに包まれたゼリーなんかが 詰め込まれていて くじ引きのおもちゃがぶら下がっている それはお盆とお正月に帰郷していた 母方の実家だ
今あの店があったら もらっておきたいものが 沢山あったのにと 映画の中で捨てられた冷蔵庫が 同じようにダブって見えた それは単にもったいないということじゃなく 何かもっと 切迫した要求がどこかにある
少し前引越しする夢を見た 街中から離れたその家に 残されたままの枯れた植木鉢なんかを どう手入れしようかめぐらし 日当たりのいい南側の道の向こうには 緑の絨毯が広がり 沢山の墓石が連なっている 緑の終わりは断崖で海の青い水が見える
墓石を臨むわたしの気分は あまりにも清々しくて そこに埋められた屍を恐れるこころが 微塵もなかった まるで自分の終の棲家は 墓守としての役割とともにあるかのようだった
古いものに込められた念を恐れるのは そういう念が自分の中にあることへの恐れだ 手に入れられたその時には ただ今をよりよくという願いがあったはず それが例えネガティブな使われ方をしても 思いの始まりは善なのだ
たぶんわたしは 捨てられてしまったものの中に そういう大切な思いを見ている ただ好きでは片付けられない動機は 墓守という落ち着きどころにあるのかもしれない だから今日もきっと うんうん苦しみながらも 古布を縫っているのだろう
数日ネットに繋がらない状態だった その間に 4月に予定されている こうのとり感謝祭へ出店を決めた 環境がテーマの各団体が 駅前通りの空き店舗を利用し 展示や販売を行うというもの
希望が通るかどうかは解らないが 店舗の写真を見ていたら 元はブティックだったのか ディスプレイ用の棚がそのまま残り 床はフローリングの物件を発見 友人とふたりで ここしかないねと言い合った
今回は リメイク服を中心にして あとは古着物の寄付を募り バザー販売をしようという企画 ともかく使われずに眠っている着物を ひとつでも多く発掘し 陽の当たる場所へ出したい そしてリメイク仲間を増やしたい
まさに直球ど真ん中勝負だぞと ここまで書いたら 東京で飲んでる友人ふたりから電話がきた いつ帰ってくんだよ なんて言いながら キミ達がどんな時も 心から応援してくれてるのを 痛いほど感じてる
今度会うときは きっとまたひと回り逞しくなってるから 美味い酒を朝まで飲もう それにしても ホリエモンとわたしが 同じ位センセーショナルって いったいどゆ意味だよ
家探しのその後 まだ引越しは済んでいないものの 訪れるたびに その町家風佇まいを生かすような何かが 少しずつ加わっていく友人宅 今日はオークションで買った長火鉢に 初めて火入れをするというので ちょっと覗きに行った
炭は上等の白炭で 一見すると もう燃え尽きているようなのに 手をかざすとじんわりと 確かに熱を持っていた それを感じると とたんにくつろいだ気分になった
促されて二階に上がると 階段の終わりにストーブが燃え 奥の和室にも長火鉢 火の気がないときは 足元からしんしんと冷えるのに 今日はそこにも落ち着いていられる
火起こしセットは現代のもので ガスを使って簡単にできるとのこと 炊きつけの煙を心配する必要はないし 儀式っぽい道具立てが 火鉢を使う気分を盛り上げてくれる
ただむかし暮らしをするのだったら 不便を凌ぐだけの忍耐と たくさんの時間がいるだろう 今と昔のものの組み合わせは ちょっとした不便を 愉しみに変えてくれるようだった
錦紗の襦袢を解いていると 昨年から将棋を始めた下のコが お母さんやろうと誘い 動かし方はこれに載ってるからと ポンと将棋の本を投げてきた
子どもの頃 はさみ将棋やまわり将棋の記憶はあるが それすらどんなルールだったのか 既に思い出せない位昔のこと それぞれの駒の動かし方に加え 相手の陣地に入って 裏返しになるってのがまたややこしく 何度確認しても次の瞬間には忘れる
取った駒を効果的に びしっと打ってくるムスコの手を あれこれ検討しているうちに 頭が痛くなってきて 守りを考えればそれだけになりそうなのが どうしても耐えられずに 攻めで攻めをかわすことを繰り返した
結局勝負になんかならないのだけど なんのテクも知識もない状態で 自分がどう動くのかは 無意識を反映しているようで面白い 日頃こんな風に 原始的なわたしを感じることは 本当に少なくなってしまっている
いろんなものを身に付けて それでもブレないで行くために こういう体験が時おり必要だ 守るべきものがあっても 玉砕覚悟で飛び込んで いつだって前よりも ずっと幸せな今を手に入れてきたはず
負けが痛ければ痛いほど 二度と繰り返さない試金石になる いくら勝ちを重ねても 自分の勝ち方じゃなければ価値がない
いろいろ整理ついでに ついぞ手を出していなかった 閉じた仏壇の裏側を掃除した
箱に入ったままの錫の酒器や 何度か使ったと思われる花器を掘り出し 葬儀関連の書類はそのまま箱へ 使いかけの蝋燭を整理していると 新しいお線香を発見 菊丸用のが切れていたけど 買わずに済んでラッキー
ついでにと 裏側の上の方にある小さなスペースも ひと通り点検してみたら 新聞紙にきっちりくるまった 丸いものが薄暗闇に見えた 咄嗟にこれは軸だと思い 背伸びしておそるおそる引っ張り出した
床の間には葬儀そのままの 南無阿弥陀仏が掛かっていて 他に掛け軸があるのが自然なのに これまで考えもしなかった っていうか先日の展示会をきっかけに 少し興味も出てきていたので まさにナイスタイミングの発掘だった
最初の5本は全て書で 何と書いてあるのか解らないし 字体もピンと来なかったけれど そのあと発見した桐箱入りのがよかった てっぺんに鳥のついた神輿が 霞んだ雲の上から突き出ていて 清々しく縁起が良さそう
続いて幅広の七福神画に 山と川の風景画 3匹の犬が描かれたものまで その犬の軸は 用事があって偶然やってきた友人が 欲しいというので 陶器数点と交換という条件で譲った
他に確か以前見せたはずの 小さな茶箪笥やぐい呑みセットにも 惹かれていたようで それにもおいおい 相談に応じるからと約束 換わりに何をもらおうかと ふと思ったら興奮してきた
展示会に出ていた珍しい深緑の繻子帯 片面はボロボロだから どうしてもリメイクしてあげたいし 木綿の縞の着物もよかったな いずれ買っちゃうかもと思っていたけど こういう展開の方がずっと楽しい
ローカルのFMラジオに 宗派の違うお坊さん3人が集まって DJをしている番組がある 葬儀社に花屋に石材店に仏具屋という ここらに住んでいれば 誰でも知っている提供元が並び 合間に入るあまりにも極狭CMが もうそれだけで不謹慎だが笑えるのだ
3人のトークはあくまで軽く お互いを愛称で呼びつつ お坊さんのお勤めの舞台裏話や 仏教用語の解説などを織り交ぜ ベタな駄洒落には 容赦なくチーンの音が鳴るという ギリギリとも思われる番組は その名もてるてる坊主
偶然いちど聴いただけなのだが お寺の多いこの地域で いったいどんな風にこの3人が DJに決まったのだろうとか そもそも番組企画の経緯はとか やたらいろんな興味を掻き立てられ すっかりツボにはまってしまった
そのエンディングに流れていたのが 般若心経喜びの歌バージョンだったのだが さながら和風ゴスペルの雰囲気で これが妙に力強く耳に残る それを入手した友人情報で 歌っているのは つのだ☆ひろ氏だという事が判明した
うーんなるほど そのうち アメリカの教会なみに みんなで手拍子よろしく般若心経なんて 新しい仏教時代がやってくると面白いのに
黄金伝説の村上に刺激され 下のコが突然 パンを作りたいと言い出した ピザの方が簡単だよと提案するも 何故かバターロールと譲らない
仕方なく材料の準備を手伝い 生地がまとまった所でこちらは休憩 あとはひたすら ムスコの作業を待つ 叩いてこねての途中でふと オレは和食の料理人になるはずだったのに とつぶやいた
だからさ 和食だろうがなんだろうが ひと通り作れるようになっておけば オリジナルのメニューも作れるじゃん そうなだめると すんなり頭が切り替わって俄然張り切り しまいにはパンもいいなと言うので 世田谷のおじさんの所で修行する手もあるよ ととりあえず提案しておいた
さんざ時間を掛けてようやく発酵へ ストーブの前にボウルを置いてしばし もう腹が減って待てないと 途中でご飯を食べつつじりじり がいくら待っても こねが足りなかったのか イーストが古いせいか 思うようには膨らまない
それでもめげずに形を作り 二次発酵はオーブンで ようやくそこまで来て 睡魔に襲われながら生返事をしていたら 発酵ではなく180度の設定になっていた 慌て取り消すも既に庫内はあつあつ もう思い切って焼いてしまうことに
出来上がった大きな渦巻きふたつは それでもなかなか香ばしく弾力もあった 横に薄くスライスして ひとつはチーズをはさみ ひとつはメープルバターに ゴールデンシロップ
ちょっと味見をさせてもらうと 粉っぽさもなく イーストの生っぽい臭いもない 初めてにしちゃあ上出来とおだてると よおし明日はピザだと 早くも次に向けて意欲満々だった
一度解けかかったのもつかの間 夕べから新たに降り積もった雪とともに 新年初出勤 やることいっぱいあったけど オシゴトって楽しい そう思える休暇だったのが素敵だ
およそ年賀状なんて書かないわたしに 毎年届く便りも嬉しかったし 思いがけず遠方から電話をもらい たっぷり愛に満たされた いや 中には受話器を取るなり 別れたら子どもの親権はどうなるのと のけぞるようなのもあったけど
喧嘩はいい どうして解ってくれないのと 真剣であればあるほど 一生懸命な姿は愛しい それがどんなにワガママだって いやだからこそ わたしが相手のオトコだったら 黙って抱きしめてあげたい
近すぎると 重ねる言葉に惑わされて 本当のこころが見えなくなってくる 別れる理由のいくつかは 同じ数の別れない理由とイコールで 相手が変わっても また同じ踏絵の前で自分を試される
誰かに 幸せにしてもらおうなんて 思っちゃいけない けれど あなたはきっと幸せになれる そして誰かを幸せにできる 愛してるからね いつもどんな選択をしても
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