まったく放鳥効果はとんでもなく コウノピアの閉館時間を過ぎても 郷公園の門が開いているので どんどんお客さんが入ってくる始末 売るだけで精一杯で 集計はどんどん溜まって行く
バスケットの方の手伝いは 今月いっぱいと言ってある けれど納品スケジュールは 10月も詰まっていて そのことを思うと ずるずると手伝いを 申し出てしまいそうな自分がいる
今日も ノドまで出掛かった言葉を飲み込んで 11月の展示会を考えた まだ詳しい日程を Sさんと相談することもできないままだ 本当は一週目を考えているけれど 10月の締めに追われて たぶん準備どころじゃなくなる
バラバラの頭を 一番したいことへ もう少し近づけてみるために 明日は売り場の集計を わくわく館ですることにした 庭の紫式部は色づいているかな なんて思ったら あのスペースが無性に恋しくなった
あそこで仕事をする そう考えただけで癒される 全ての流れが いつかひとつになる時が来るのかな それでもまたわたしは 何処か別のところをふらふらと 彷徨うんだろうか
黒雲が北の空に広がった早朝 郷公園に向かう直線道路を 自転車で走っていると 一瞬雲の切れ間から 光が差し込んで 建物のある付近を照らした
いつも見慣れている風景の中に スポットライトが当たった 誰も見ていないその情景が あまりにも綺麗で 思わず胸がいっぱいになった
昨日準備しきれなかった荷物を持って 何度かコウノピアと 駐車場の販売テントを往復するうち パッキングした商品を積んで 観光協会の車がやってきた
途中で午後から手伝ってもらう予定の Hさんがナイスタイミングで来たので 朝から販売をお願いし わたしは行ったり来たりする間 宮様がご購入になる商品のことで 県の秘書課の人と打ち合わせ コウノピアに足止めされて気が気じゃなかった
お昼にご購入決定の商品を持参し 代金を戴き領収書とおつりの準備 それからいちど包装した商品の値札を全部はずして お渡しするのは3時と言う とてもそれまでじっと待っている訳には行かず ゲートの外へ移動できるタイミングを 事務所の人に誘導してもらった
放鳥の瞬間はひとり金庫番だった けれど最初の一羽は テントの中からでもよく見えて 一度円山川方向に飛んだあと ぐるりと旋回してサービスしてくれたし 他の二羽はお互いを意識するように 空中で優雅に舞っていた 野生よりはどこか頼りなく 風に煽られそうなのもいたりした
来る人はみんな コウノトリが目的なのだけれど それはいつものコウノピアも変わらない 本当についこの間まで 売れなくて困っていたのがうそのよう 切れそうな気持ちをようやく繋ぎながら やっとこの日が来た
稼げない間に辞めなくて本当によかった けれどいつかこの盛り上がりも消える コウノトリグッズも目新しいものでなくなる その時は コウノトリがもっと 身近な存在になった時だろうけれど
明日はいよいよコウノトリの放鳥 検索が多いので情報を少し 郷公園も付近一帯も 自家用車の駐車ができなくなります 総合庁舎から無料のシャトルバスが 先着1000名様でご利用できます コウノピアは休館で 放鳥の様子は所定の場所からご覧になれます
という訳で 今日は販売をしながら 明日のテント販売用のパッキング 実際にはあまりにお客さんが多く ほとんど時間内にはできなかった
加えて どんどん減って行く在庫の補充に 納品を頼むも その処理が追いつかない 何度言っても 相変わらず値札なしのお菓子 Hさんが手伝いにやってきて助かった
明日のために 館内の売り場は 商品を全て片付けた それが終わったのが7時 今日の集計は全くできず 家に持って帰っての宿題となった
早くもふたりして 腰が痛いだの 脚の筋がおかしいだの言いながら 果たして明日はどうなりますか
どうしてこんなにも 充実しているんだろう 自分で作ったものを自分で売る その喜びが一番だったはずなのに 売ることは誰かがしてくれて 日々数をこなして作って行けるのが ただ嬉しいのだ
翻って売り場では 自分で作ったものを売っている訳ではないから その逆の立場だけを経験している 売って売って売りまくって ようやく最低賃金に あと少しのところまで近づいてきた
その両方で 仕事をするということの意味を 改めて考える やりがいを持って向かえるための条件は 少なくともわたしにとって 収入がいくらかは関係ない
ひととの繋がりがあって その仕事へのきっかけが生まれ 誰かが必要としてくれているそのことで 明日への活力が湧いてくる 続けるには日々の実感が不可欠で 安心して仕事をこなせる場所が保証されて 初めて自分が成した小さなことを喜べる
その場所を脅かされないためには もう自分で作るしかないのだと思っていた けれど売り場は急激に状況が変化し なくても誰も困らないはずだった場所から 観光協会の売り場としての存在意義が 少しずつ見えてきた
そして一方で 既に需要があり 佐藤さんが築いてきた方法に従って 全体の中のほんの一部を覚え 他の何を心配することもなく ただ自分の技術の向上を目指している
いろんな人によって 今のわたしの仕事が与えられている 新しいものを作って 切り込んで行くのとは どちらも全く違う世界なのだ
でもそれは不思議に心地よく 売り場でも作業場でも ただその時の作業に没頭することができる そしてそのふたつを行き来する日々が ちょうどいいリズムとなっている
実店舗が見えてきて 何故今ここにいるのか 行く先は解らないし 作って売ることの両方ができるはずの わをん更新も滞ったまま でもたぶん 今じゃないと経験できないことに 携わっているのは間違いない
ちょっと頑張ったら 首が凝りすぎて 頭が上がらなくなった たぶんひたすら編み続けて 一週間連続の作業は到底無理 コウノピアが入って ちょうどいい転換になっている
24日の放鳥を意識して 発注を5件済ませ 新たに入ったこうのとりのお菓子3種類を さてどこにディスプレイしようかと あちこち模様替えして 気付いたら 実に新規の分60個以上に 値札がついてきていない
一瞬差し戻してつけてもらおうかと思ったけど それを待ってるのもバカらしいので とりあえず急ぎ並べる分だけ済ませ 溢れる在庫のダンボール箱を 何とか少なくしようと四苦八苦 涼しいのに汗をかいて 結局集計は終わらず明日に廻した
でも そうやってびっちり働いても 佐藤さんのところでする仕事に比べたら 身体ははるかに軽い 以前なら帰るといっぱいいっぱいだったのに なんだか全然余裕で これでお金をもらっていいんだろうか なんて思ったりする
自分がその場にいる間 できる限りの仕事をしよう こういう言葉を何度も使いながら あまりにも抽象的だったことに気付いた だって 一日に編み上げることができる数は限られていて まさに時は金なり 途中でアクシデントがあって遅れれば それをリカバーするのは大変なのだ
そういう仕事の仕方が 身体に染み付いてきてやっと 解り易い目安がない売り場でも 惜しみなく働くことが できるようになった気がする それはあまりにも爽快で 今を生きている感覚に満ちている
少し前 11月の但馬ドームでのイベントに 売り場を出店する話がきた 土日にひとり出るとなると コウノピアも閉めるわけに行かないので ふたり体制の売り場では どちらもが出勤となる
過去の経験から 地元のイベントで まともな売上げがあった試しがなく 正直言って出る分だけ 日割りのマージン率は低くなる 手当を補償してもらえないかとの提案は 会議を経ないとダメらしく あっさり却下されていた
それが昨日 新たに10月に3日間予定される 国体関連のイベントの話がきて 事態は急転した 売上げが相応あった場合には 少し割り引いてもらいたいとの条件つきで なんと日当が出るというのだった
正直な気持ちは お金もらっても出たくない 売り場のあれこれに時間を割くぐらいなら 少しでも佐藤さんの所で仕事をしたい けれどさすがに そこまで考えてもらいながら やっぱり出ませんとは到底言えない
そして今日 展示会でのお客さんから スカートを縫って欲しいと依頼があった まだまだオーダーを受けるほど 縫製に自信がないので 知り合いにあたってみるからと 電話を切った
ああ どうしてこんなにいっぺんに いろんな事が動き出すんだろう 一番したいのは やっぱり服作りだけど 佐藤さんの仕事ぶりを見て きちんとした技術を獲得することの 大切さを思い知った
基本がしっかり習得できて 初めて自由な表現ができる 本当は売ることだって同じはずで ずっと我慢して あの制限された売り場で試行錯誤してきた 今だからこそやっと 外へ出て売るチャンスがもらえたのかもしれない
ともかく睡眠だけはしっかりとって 今の自分にできることを頑張ろう 明日はまたバスケット編みが待っているし 今日のうちに少しでも ピンクッションを仕上げておかなきゃ こんなに休みなく働いているのが まったく信じられない気分だ
昨日は 予定より早く50本を納品 そのついでにあちこち走り回って 細部の工程を頼める場所を 探してきたらしい佐藤さん もう本当にお尻に火がついているはずなのに 決してバタバタとあせっている風には 見えないのが不思議だった
戻るとまたぞろ バスケットの先の注文が入り 一週間留守にする予定の奥さんが 先にずらそうかと心配して言った すると佐藤さんは 自分の用事はちゃんと済ませて その他の時間でしたらいい と言うのだった
そういうとき とくべつ威厳がある訳でもなく どちらかと言えば さらっとした口調なのだけれど その分聞いているこちらも 気持ちがすっと軽くなる
できないことを 無謀に受ける訳にはいかないと 一番基本になる木枠の釘うちを してくれる所が見つからないので 必ずとは約束できないからと 電話口で言っていた
たぶん これ程納期が詰まっていなかったら 佐藤さんひとりで 全部やってしまうだろう できないと言いながら もし見つからなかったら 今からだって自分でこなすに違いない
うっかり一件寄るところを忘れた そう言う佐藤さんに奥さんは 完璧だと思っていたのに安心した なんて言っていた 決して自分以上に自分を作ろうとせず 真摯に掛けられた負荷に向かって 最大の努力を傾ける
これまでいろんな所で働いて 本当にたくさんの人に出会ってきたけれど 佐藤さんほど 人として上司として 尊敬できる人はいなかった ただバスケットを預かって売ることを そのままよしとして続けていたら きっとこんな貴重な機会は 訪れなかっただろうと思う
バスに乗り遅れ 少し後の電車にも乗り遅れ 朝から汗びっしょり 次のバスは一時間以上空くので 家に戻って少しでもと ピンクッションの綿詰めをした
10時過ぎに佐藤さんの作業場に着くと 奥にもうひとり誰かが座っている あれひょっとしたら 9月から応援を頼めると聞いていた人かと 挨拶しながらよく見ると はにかんで笑う奥さんだった
もう10年以上していないという ソーイングバスケット わたしが通うようになるまでは 作業場に来て座ることさえ ほとんどしなかったと 一緒にお茶を飲みながら言っていた
その奥さんが と思うと なんだかちょっと感動した 猫の手も借りたいほど 切羽詰まっているのは確かだけれど 身体を壊してから 座り仕事はしていないと聞いていたのに
仕掛けると面白いと奥さん 途中から降ってきた雨が 屋根を叩く音にかき消されないように 声を張り上げておしゃべりしながら ひたすら無口な佐藤さんとの対比が なんともコミカルだった
昨日今日のコウノピアは ざわざわと落ち着かない雰囲気で お客さんの多かった夏休みとも違う それはひとえに 今月24日に控えた コウノトリの放鳥のせい そのための話し合いや テレビ取材が続いている
当日のお客さんが 対応できないほど増えたら困る というHさんに代わって わたしが出ることになっているのだけれど どうやらコウノピアは 一般客の入館ができなくなるらしく 駐車場の入り口にテントを張って販売することに けれど郷公園への直線道路すら封鎖されて 簡単に行き来できない というのには驚いた
とすると 一般のお客さんがマイカーで 放鳥を見に来るのは不可能になる 専用の駐車場をどこか他に 確保するなんて話は聞かないし 当日の賑わいを当て込んで 朝市も開かれるらしいけど 果たしてどうなるんだろう
中の商品は全部片付けて 外に運ぶ分の準備と また並べ直す作業に 前日と翌日も来てくれないととHさん それほど労力使うだけの 甲斐があるのかどうかがちょっと怖い
結局 関わっていれば ズルズルと余分に時間を取られることになり その度自分が いかにそこに居たくないかを確認する 売上げはどんどん伸びて 今日もお盆並みの金額だったのに 充実感はそれに比例しない
やっぱり 自分がこころを込めて 手を尽くして作ったものを 売りたいように売る それに勝る喜びはない まだまだそれ一本で行くには遠く 修行の日々は続く
|