やんの読書日記
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寮美千子 編訳 パロル舎
原題 Chief Seattles' Speech
1854年、アメリカ政府の、原住民の土地を買い上げるので そこに住む人々は保留地へ移住するようにという申し出に シアトル首長がアメリカ大統領に伝えるために演説をした。
シアトルと親しかったヘンリー・A・スミスが書き取り その後いろいろな文を書き加えたり、削除したりして いろいろなスタイルの物が存在するという 寮美千子さん編と訳のこの本は 英語と対訳つき。
原住民が大切にして愛してきた大地と自然への思いを 語り、白人に静かに訴えている形だが 静かな語調のなかに強い意志 大地を大切にしてほしいという意志を感じることができる。
人が生きるために大事なこと それを心の底から、体全体で知っている ネイティブアメリカンの真実の声 感動の詩
2003年11月26日(水) |
シーフカ・ブールカまほうの馬 |
M・ブラートフ再話 松谷さやか訳 B・ディオードロフ絵
ロシアの昔話の定説 三人息子か三人娘の末っ子が活躍する それも精彩の上がらない子 まほうの馬か金の鳥、お姫様や 魔女(ババ・ヤガー)が出てくる。 このお話も、三人息子の末っ子イワンのばかが 小麦畑を荒らす馬をつかまえて 馬に乗ってお姫様の住む高い塔に駆け上がって お姫様と結婚するというもの。 馬の鼻息が荒くてまるでスチームシャベルのようだ。 お姫様の指輪を取った者が結婚できるというのに イワンはすぐに名乗りをあげず、家のペチカの上で 遊んでいたり、わざと毒キノコを採ってきて ばかのまねをする。 お姫様が宴会でイワンを見つけなかったら どうなっていたのでしょう?
馬を呼び出すときの掛け声が シーフカ・ブールカ 初めて聞いた言葉だ。 ブラートフはロシアのいろいろな地域のお話を 集めて再話にする。 地味な仕事だけれど、 そういう仕事は私も好きだな。
呪われた航海の続編 前作でレッカーと呼ばれる座礁船の略奪者から逃れてきた ジョンと父親は、今度は密貿易集団とかかわって新しい船と積荷を 失いかける。船の名はドラゴン号、もとから密貿易船だったのを 父親が買い入れてジョンが船主として出航するが、乗り込んだ船員は 船長クローの息のかかった密貿易者だった。バクパイプの名手クロー 海を怖がり、コルク板を体中に巻きつけたダッシャー 日暮れにバクパイプを奏でて、それにあわせてアイリッシュダンスを踊る 船員の光景だけを見て少年ジョンは、 海の男のロマンを感じてしまうのだろう。 クローは密貿易の札付きの悪、 本来ドラゴン号の船長になるはずだったラーソンを 殺し、彼が持っていた密貿易を暴く手帳を自分の物にしようとたくらむ。 自分こそが不正を正そう、と決意したジョンの活躍がすごい。 前作では少年だった彼が、ここでは一人前の船主として 悪者たちと正面から立ち向かっている。 密輸の現実を監視官に報告に行くために密輸者の列の中に紛れ込み、 危うく殺されそうになりながらしっかりと任務を遂げる。 そのときに敵の刃から命を救ったのがラーソンの手帳 だった、というのがまた月並みだけどおもしろい。 最後にドラゴン号を取り返すために、ダッシャーのコルク板を身につけて 船まで泳ぎきるところ、船に残っていたクローと闘って 彼を首吊りにするところ・・・ 怖くてゾクゾクしながらもテンポの速い展開 少年でありながら賢くこなすジョンの姿に、気持ちがすっきりした。 この後彼はインドへ航海に出るらしい 最終巻が楽しみだ。
レオン・ガーフィールド作 斉藤健一訳 徳間書店
原題 The december rose 18世紀のイギリス、煙突掃除の少年バーニクルが 仕事中に煙突の中で盗み聞きしたのは国家を欺く陰謀。 それと知らずに陰謀を暴く鍵を握るワシの紋章がついたロケットを 手にいれたバーニクルは陰謀に巻き込まれ命を狙われる。 12月のバラ号で運ばれるはずの資金を横取りしようと たくらんでいる政治の黒幕と、 そうとは知らずに利用されているだけの クリーカー警部。 バーナクルを煙突掃除から救い出して はしけの番人にしたゴズリング、 はしけの持ち主マクディパー婦人と娘のミランダ ロンドンの一般市民が素朴な姿で登場するのがいい。 バーナクルが陰謀に巻き込まれたと知ったとき 大物政治家の不正を暴こうと正義心を燃やすゴズリングと 「自分たちはただの市民だ、危ないことはやめてほしい」と願う マクデイパー婦人のどちらにも親近感を感じた。 白髪をストーブの黒炭で染めて若作りしているブロドスキー大佐は、 黒幕の不正を暴こうと暗躍している人物にはとても思えない 滑稽さがあって、なぜか応援してしまう。 最終的には自分が信じていたものが不正だとわかって 失望したクリーカー警部によって、黒幕は片付けられるのだが 彼をそうさせたのは、イギリスの良心 バーナクルとゴズリング、はしけの人々の心持によるものだとわかって さわやかな気分になれた。
2003年11月05日(水) |
エルフギフト 下 裏切りの剣 |
スーザン・ブライス作 ポプラ社
うりふたつの弟ウルフウィアードと対決し 弟に重傷を負わせたエルフギフトが 選んだ道は、サクソンの神の加護を 失うことの引き換えに 弟を生き返らせることだった。 父王の遺言どおりに次の王として立った エルフギフトは、異母兄のアンウィンと 戦をしなければならなくなる。 アンウィンの妻と子どもを殺さずに 助ける場面、ウルフウィアード の看護をする場面などでエルフの子としての 癒しの力を発揮するのだけど、 自愛に満ちたとはいえない態度だ。 この巻ではアンウィンの息子ゴッドウィンの憎しみがあらわになっている。 父を追放したエルフギフトへの憎しみ、 キリスト教を捨てて サクソンの神への信仰に戻ってしまった 母への恨みがなまなましく描かれている。 サクソンの多神教がキリスト教に 追われようとしている時代背景も 書かれていて興味深いのだが、 ケルトのサムハインの祭りが キリスト教ではハロウィン、 サクソンではイングの祝日と重なっている。 この日がアンウィンのキリスト教軍と エルフギフトのサクソン軍の休戦の日に なるのだが悪者のアンウィンは 停戦協定を破ってエルフギフトを 殺してしまう。 殺し方のすさまじさは、クーフーリンの最期など問題外のすごさだった。 「血染めのワシを刻む」と称して、 生身の人間を斧でずたずたにするという 処刑の仕方だ。 サクソンのやり方でエルフギフトを殺した アンウィンもさすがに同盟者の信頼を失う。 そしてサクソンの筆頭神オーディンが 化身した竪琴ひきの男ウドゥによって 復活したエルフギフトに、最後に 殺されてしまう。 エルフギフトの復活のシーンがまた ものすごく恐ろしい。 死者を呼び起こし戦士として動かす というところなど ケルトの黒い大釜を思い出させる。 悪者は滅んだのに、サクソンの平和は 訪れないというのが筋のようだ。 このあとで運命によって死期を定められた エルフギフトが永遠に消え去るらしい。 裏切り、復讐、死、悪、狂気 いろいろな言葉を使っても言い表せない 恐ろしい世界、人がどこかに持っているもの それを表に出さないでいるうちは平和だ。 私たちが生きている現代がこういう時代に 移行していくような気がしてならないのだが そんなことをほかの読者は考えるだろうか。
2003年11月03日(月) |
エルフギフト 上 復讐のちかい |
スーザン・ブライス作 ポプラ社
エルフとサクソン人の王との間に生まれた私生児エルフギフト。 嫡出の息子が三人と実の弟という王位継承者が4人もいるのに 王の遺言は「跡継ぎはエルフギフトに」だった。 前評判から私が連想したのは兄弟同士の 殺し合い、王位簒奪、復讐の嵐だったが そのとおりの殺し合いが上巻で始まっている 嫡男のアンウィンがこの中で一番の悪役だ 弟たちを愛しているふりをしながら、 自分の地位を脅かす者としていつかは除こうと 計略する。手始めにエルフギフト追討に次男を差し向け、 反対にエルフギフトに次男を殺させてしまう。三男のウルフウィアードを エルフギフトと直接対決させて瀕死の重傷を負わせる。 エルフギフトはといえば、異界で女戦士の特訓を受けて力をつけるのだが、 サクソンの神話を基にしていながら、 ケルトの神話によく似ているので驚いた。 まさにクーフーリンと同じだ。 エルフギフトもその死ぬ時期を神によって決められているという。 誰が王になるのか、誰が死ぬのか そういう緊迫した状態が続く物語だ。 悪者がアンウィンなのに対し、エルフギフトは 癒しの能力をもつ善人なのかと思えば 必ずしもそうでないところが理解に苦しむところだ。 その心の中に、死に行くものがいて 悲しい運命を背負っていたとしても どうということはない。 誰でも同じ運命をたどるのだ、という覚めた心を持っているからだ。 それでもうりふたつの弟ウルフウィアードと戦った後、 彼の命を救ったのはエルフギフトだ。 神の加護をこのことによって失ってしまうことを知っていながら あえてそうしたのはなぜだろうか。 きれい事、うわべの勇気や高潔さをまったく 扱っていないのがこの物語のすごいところだ 人の心の悪、汚さを見せつけられた気がした。
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