2005年04月02日(土) |
The Punk and The Godfather |
ぎゅうぎゅう詰めの通路を抜けると、そこは雪国だった、ではなく、雪国どころかアリーナは灼熱の太陽に炙られたフライパンの底状態。さっきまでの快適なレイドバック気分は一瞬にして吹き飛ぶ!汗が流れだす!うぎゃー!あづいあづい。
だらだらと覇気のない状態でアリーナ前方の自分の席に向かう。それでも少しずつステージが近づいてきて、ポール・ウエラーとバンドのセッティングが見えてくると、否が応にも気分が盛り上がる。置いてあるギターや、エレピや、ドラムのセットが、それまでの出演者とは明らかに違う「あの匂い」に満ちているのだ。それが具体的になんなのか、説明しようとすれば一言で終わってしまう。ロックンロール。
通路を歩きながら小山さんがステージに向かって両手をあげ、叫ぶ。彼のケダモノ本能も敏感にそれを感じているのだなあ、と思ってたら、ステージに出てきたローディーをポール本人と勘違いしたらしい。
そんな焦げアリーナにもたまに風が吹く。温風というわけでもない、妙に鋭い風でなんだかむかーしの記憶が蘇るような。少し陽が傾いてきたのかな。
いきなりポール・ウエラー登場!ブルーのシャツにセミアコのギター(エピフォンのカジノ?)をかかえ、マイクに向かい「グリーブニン!(Good evening)」。そして演奏がはじまる。うわあ…めちゃくちゃかっちょいいぞ。
ポール・ウエラーについては、ザ・ジャムとスタイル・カウンシルをいくつか聴いていたぐらいで、ソロ以降はちゃんとフォローしていない。それでも、目の前で奏でられる音楽は、ソリッドでルーズ、ブルージーでパンキッシュ、艶っぽくガキっぽい、複雑で単純。僕の好きなポール・ウエラーの音楽そのもの。はじめて聴く曲だろうが圧倒的な説得力にぐいぐい引き込まれる…やっぱり声が魅力だ、すげーかっちょいい。
2曲目か3曲目にさっそく、やった、"My ever changing moods"。ポールの顔は真っ赤だ、ステージ上も暑いんだろうな、でも歌もギターも叩きつけるように、それでいてひとつの言葉、ひとつのフレーズをとても丁寧に扱っている、「全身全霊」という表現が頭に浮かぶ。変に余裕を見せたイヤらしいプロっぽさなど微塵もない、でもいっぱいいっぱいというのとも勿論違う、こうでなくちゃ、こうでなくちゃ、こうありたいな、こうでなきゃな。
ポールがエレピに座る。「十何年か前に日本で(ヨコハマで?)雨の中、演奏した曲です」というような事を言って、はじまった曲、あれ、これって…。やっぱり!「ああーまさに"Long hot summer"だなあ」横で小山さんが呟く。柔らかなメロディー、スローなグルーヴ。何年か経ってから、この夏このモメントを思い出すことがきっとあるんだろうな、などと考えながら美しい音楽に身を委ねていました。
"In the crowd"、"That's entertainment"と、僕みたいなファンには鼻血ものの曲も飛び出した入魂のステージは、最後にザ・ジャムの"Town called Malice"で、あくまでクールに、あくまで熱く、あくまでハイテンションに幕を閉じた。アリーナは大歓声。サンキュー、ミスタ・ポール・ウエラー、あなたを一番の目当てに来たのではなかったけれど、極上のロックンロールショーを堪能させてもらったよ。控え室で聴いているであろう、あなたにとっての「ゴッドファーザー」、ピート・タウンゼントを意識したのでしょうね、素晴らしいステージでした。とても、とても触発されたよ。
午後3時を過ぎている。でもまだまだ暑い。ポール・ウエラーの素晴らしい演奏にアドレナリンも上昇しまくっている。少し落ち着かなければ、でも、だめだ、もうすぐだ、もうすぐザ・フーだ。
次に登場する稲葉浩志のファンらしき人波でアリーナが埋まっていく。もちろん、そんなものをありがたく観る気はまったくない。落ち着くにはいいチャンスだ、もう一度スタンドに戻ろう。と、いうわけで再度えっちらおっちらとスタンドに戻り、スポーツドリンクを飲む。あまりビールを飲む気にならないのが我ながら不思議だ、ザ・フーを前に緊張しているのかな、やっぱり。
稲葉の演奏がはじまった。聴きたくなくとも聴こえてくる。こと音楽については、「好みの問題だから」とか「これはこれで面白い」などという考え方のまったくできない偏狭な僕には、やっぱり「ぶー。なんだこれ」としか思えない。一斉に同じフリで踊る大観衆(こんなに大勢のファンがいたとは)を観て、「音楽ってはっきりと質の高い低いがあるんだぞー」とさらに偏狭なことを考える。ホントは偏狭とすら感じてないんだけど。一応。
ただ、なんといっても次はザ・フーだ。あまりのんびりして、また通路で立ち往生なんてことになり、万がイチにもその登場を見逃した、などということがあってはいけない。アリーナ一番後ろのスペースで、稲葉から避難してきたとおぼしき人たちが地面に座り込んでいるのが見える。今のうちにあそこまでは行っておこう、と小山さんとの意見が一致。一心地ついたところでアリーナに向かうことにする。
おっと、汗かいたし、これからザ・フーだし、サブスティテュートの登場だ。持ってきたサッカーイングランド代表ユニに着替えることにしよう。よいしょよいしょ。よし、お待たせ、いざ行くぜ!おう!
階段から通路、演奏中のせいか今度はスムーズに進むことができる。通路からアリーナに向かうトンネルのようなところで、突然小山さんがそばにいる係員にずかずか近寄っていく。え、どうしたの。「このクソ演奏やめさせろゴルア」かなにか言いにいくの?(実際、稲葉の演奏中に非常ベルを鳴らしたザ・フーのファンがいたらしい)明らかに怯えた表情で警戒する係員に、小山さんはニコヤカに「これ、ちょっと借りていいっすかー?」。手に取ったのはスタッフ用の白ガムテとマジックペン。
どう対応したものか曖昧な顔の係員を尻目に、小山さんは白ガムテを正方形に切り、次にその正方形を壁に当て、なにか書きはじめた。のぞきこむと大きく「M」の字。書き終わると、おもむろにそれを僕の背中に貼り付けた。
なるほど!僕が着ている代表ユニ、ウエイン・ルーニーのネーム「ROONEY」が、これでめでたく「MOONEY」に変身したわけだ。僕の背中をぽんぽんと叩いて小山さんが満足げに完成品を眺める「おお!ばっちりばっちり!」。いやあ、素晴らしい、オレにはこういう発想はなかったなあー、やったぜ、ムーニーだ!キースだ!大喜びでアリーナに足を踏み入れる。
小山さんの機転によるジャスト・ア・リル・アイディア。このちょっとしたお遊びが…まさか…あんな…ことに…なろうとは…。
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