稲葉はお手紙を書くのが苦ではありません。 好きな人・大切な人へ書きたいことがあって書くわけだから、苦であるはずがないんですけどね。
夜中にさらさら書いて、封をして切手を貼って。 翌朝、出勤途中のポストへポイッ。
しかし、このポスト。 これが稲葉にはけっこうな鬼門だったりします。
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稲葉は不安症なんです。 出かけるときに鍵を閉めたか、電気を消したか気になって家へ戻ることもしばしば。 戻ってみて、鍵が開いていたことは一度も無いんですけど、それでも不安なときは不安。
ポストも同じ。
自分の手元から手紙が離れた瞬間に不安が襲ってくる。 切手は貼ったっけ? 住所や宛名は間違ってないかしら? のり付けが剥がれてはいないかしら? 昨晩のうちに入念にチェックしてあるから大丈夫なはず。 それでも不安なときは不安。
手紙だけではなく、ポストに対する不安もあります。 ちゃんと中の袋に入ったかしら? 途中で引っかかってないかしら? 一度手紙を入れてから、手を突っ込める所まで突っ込んでパカパカします。 もちろん中の手紙に届くはずはないんです。 でもやっておかないと不安で不安でその場を立ち去れないのです。
やっとポストを離れても、数歩離れた所から振り返る。 そう、ポストの底が抜けて地面に手紙が落っこちてないかのチェック。 この25年、底が抜けてるポストなんか見たこと無い。 それでも確認しておかないと不安で不安で……。
ほんと、無駄なカロリー使ってるなあと思います。
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さらには、わんぱくなガキがポストの中に水や花火を投入しないか、とか。 凝ったイタズラで本物そっくりに作られた偽ポストじゃないか、とか。
できることなら配達員さんが回収に来るまで見張っていたい。 でも流石に稲葉だってそこまではしません。 いくらかの不安を残しつつ駅へ向かうのであります。
だから、平日の午後3時までだったら郵便局へ直接持っていくことにしています。 そうすれば、不安はいくらか減らせますからね。
ほんと、無駄なカロリー使ってるなあ。
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そんなだから、数日後にメールで「お手紙ありがとう」なんて言われると、とても安心するんですよ。 届いたぁ〜〜、って。
また、1週間後に、丁寧に書かれたお返事のお手紙なんかが届いた日にゃあ。 やっぱり安心して、そしてそれ以上にとても嬉しくて。
郵便屋さん、本当にありがとう。
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