生まれて初めて「金縛り」を経験しました。 いや、正確には経験しかけたと言うべきか。
とってもとっても眠かったのに何故か寝苦しかったんですね。 暑いわけでもないのに、なにか眠りが妨げられる。 いや、確かに寝ている、だけど意識がある状態。 なんか落ち着かない夜。
熟睡しているときはともかく、稲葉は意識があるときは真上を向いて寝ることはしません。 左右どちらかを下にして体を横向きにします。 なんか嫌なんですよ、仰向けで寝るってのが。 無防備な感じがするというか。
この時は左半身を下にして寝ていました。 左手は枕の下にあり、右手は軽く握って口の前あたりまで曲げて持ってきていました。
◆
始まりはよく分かりませんでした。 徐々に体の自由が奪われていきました。 一気にズンッと動けなくなるんじゃなくて、じわり…じわり…と。 はじめのうちは「?」なんですが、起こりつつあることを理解して焦りが強くなってきます。
まずい…まずい……まずい! この時は意識ははっきりとしていました。 曲げている右手を伸ばそうとし、同時に伸びている足を曲げようとするんですが力が入らない。 もどかしい、ただひたすらに。 手の指先はまだ動きます。 完全に石になる前になんとかしなくては…。
◆
石化が進むにつれて、不快な音が耳に響いてきました。 意識はあったのに、この音に関しては記憶が曖昧でうまく表現ができません。 ただ、不快で恐怖な音でした。 ホラー映画で化け物の気配を表現する音とでも言いますか。 化け物がジャーンと出てきた後の音ではない、その少し前の段階の音。
それがだんだん大きくなってくる。 いや、近くなってくる。 壁の向こうにあった音が、稲葉の部屋に入ってきた瞬間を認めました。
自由が利かなくなったときはまだ冷静でした。 体が眠っていて頭だけが起きているんだ、と科学的(?)に状況を把握していました。 しかし音が近づいてきたら、もうそんなこと言ってられなくなりました。
音が人に与える恐怖というものは侮れないものがあります。 ホラーの演出で音に頼るところが大きいのは非常に理にかなっています。
◆
ナニかが稲葉に忍び寄っています。 ここですべて封じられてしまえば、何をされるか分かりません。 強引に冷静になって、いちど体の力を抜きます。 そして、せーのぉッ! で大暴れをしてやりました。
振り切りました。 すごく重かったけれど、振り切って自由をもぎ取りました。 奇怪な音ももう聞こえません。 終わりました、すべてが。
疲れた。 ものすごく疲れた。 しかし、俺は勝ったぞォー的な、俺は自由だァー的な心地よい解放感もまたあって、すんなりと、そして今度はぐっすりと眠ることができました。 朝の目覚めはいつもと何ら変わるところがありませんでした。 ふーう。
体が動かなくなることについては理屈が利くから良いんですが、音に関しては正体が掴めないままです。 多分、恐怖した稲葉が勝手に作った音なんでしょうね。 ほら、金縛り体験談って「足音がした」とか「鼻息が耳元でした」とか付いてくるじゃないですか。 そんな予備知識があったから、自己演出(それも過剰な)しちゃったんだろうな。 そんな稲葉自身がとても口惜しい。
さて、この日記を登録したら稲葉は布団にもぐります。 平和な夜が来ると良いな。
|