Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
おくやみ SF作家ディヴィット・ファインタック
アメリカのSF作家、ディヴィット・ファインタックが3月16日、61才で死去しました。
ファインタックは9冊のSF小説を発表したが、そのうちの7冊はニコラス・シーフォートを主人公としたスペース・オペラであり、これらはC・S・フォレスターの海洋小説ホーンブロワー・シリーズを思い起こさせる(reminiscent)作品だった。
ファインタックは作家であると同時に弁護士であり、古美術商、写真家としての顔も持っていた。 1944年生まれ。ニューヨーク州Yonkersに育ち、インディアナ州リッチモンドのEarlham Collegeを経て、ハーバード大学のロースクールにて法学の学位を取得している。 ミシガン州Mason在住。葬儀は3月22日正午から、Masonの教会にて執り行われる。
ニュースソース:Science Ficition and Fantasy Publishing News http://www.sfwa.org/news/2006/dfeintuch.htm
ファインタックの作品は日本では、早川書房から翻訳出版されています。青背のSF文庫。 彼の作品には強烈な吸引力があって、ハマると強烈にハマる。絡めとられると逃れられない力があるのですが、一種独特の毒もあって、これが駄目な方には駄目だろうと思われる…好き嫌いのはっきりわかれる作家ではないかと思われます。
ファインタック作品一覧(Takashi Amemiya氏の翻訳作品集成リストより) http://homepage1.nifty.com/ta/sff/feintuch.htm
このおくやみ記事にもある通り、ニコラス・シーフォートを主人公とした7作のスペースオペラ(シーフォート・シリーズ)は、フォレスターのホーンブロワー・シリーズに捧げられた作品です。 日本では、SF作品でホーンブロワー・シリーズの存在を知り、そこから海洋小説に入ってこられたファンの方にもおられます。 アメリカやオーストラリアでは、このシーフォートに限らず、古くは銀河辺境シリーズとか、最近はオナー・ハリントン・シリーズ等ホーンブロワーを出発点にしてその影響を受けた、または帆船が宇宙軍に発展した小説が決して少なくありません。
ファインタックのこのシリーズは、ですから、「ホーンブロワー」に影響を受けた一人のアメリカ人男性がフォレスターに捧げたオマージュ小説なのですが、 二度目にちょっと冷静になって再読すると(初読の時は私、強烈なキャラクターとストーリーに釘付けにされて、冷静に考えている暇はございませんでしたのよ)、こういう感想もあるのか、ホレイショという人物について、こういう受け取り方もあるのか、と考えさせられました。
ITVのテレビドラマ:ヨアン版のホーンブロワーでは、ホレイショがまだ年齢的に若いこともあり、「パナマ沖…」以降に顕著なホレイショ独特の性格についてはあまり前面に押し出されていませんが、ファインタックにとってはおそらく、その部分がホレイショの魅力というか共感できる部分だったのでしょう。 今にして思うと、同じ本を出発点としながら、テレビドラマの脚本家・プロデューサーと、フェンスタックの受け取り方の違いに驚くのでした。
それと同時に、こういう読み方をするファインタックっていったいどういう人なんだろう?という疑問が湧くわけですが、 今回のおくやみ記事を読んでわからなくなりました。 彼がシーフォート・シリーズを出版したのは1994年、12年前つまり49才の時なのです。 あの小説は40台後半から50台にかけて書かれているんですね。
私は今回、実は彼に従軍経験があるのか否か知りたかったのですが、このおくやみ記事ではそこまではわかりませんでした。 ファインタックは、年代的にはベトナム戦争世代なのですが。 弁護士をめざしハーバード・ロースクールに通いながら、彼自身はあの時代にどのような20台を過ごしていたのか。
ねたバレになるので、あまり詳しく語れませんが、シリーズの途中でシーフォートは部下を犠牲にせざるを得ない決断を迫られ、それが彼自身の人生の転機にもなります。 このあたりの描き方が、従軍経験者の書いた英国海洋小説とはかなり異なるような気がして、この点が私は気になっているのですけれども。
まぁともかく、1巻(上)を読んでみて、止められなくなったらそのままぐいぐい読み進んでくださいまし。 「これは合わない」と思われた方には、その先もっと辛くなるでしょうから、おすすめはいたしません。 表紙がハヤカワ青背にしては衝撃的な少女漫画風ですが、中身はハードで骨太です。男性諸氏>もどうか誤解して引かないでくださいまし。 ハヤカワ最大のミスマッチのような気がしないでもありませんが、この表紙で女性ファンを拡大しようとした英断は大したものだと思いますし、実際成功していると思います。
それにしても、61才は早すぎますよね。まだまだこれから、どのような作品が出てくるか、どきどき(楽しみというよりこわごわというか)な作家でしたのに…残念です。
2006年03月26日(日)
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