Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
灰色港はターナーの絵画から
ロード・オブ・ザ・リング「王の帰還」のSEE版、 発売から1ヶ月もたっていますが、私の場合この時期、目をかばわなくっちゃいけないのでそうそうDVDにかじりついているわけにもいかず、少しずつ見ていて未だ終わらず…。 それでもとりあえず本編と、特典ディスクの1は見終わりました。
しかし海洋小説ファンの根が深い私が特典ディスクを見て「あらら!」と思ったのは、灰色港から去る船の船体モデルが、実はキャプテン・クックのエンデバー号だった、ということ。 確かに、あの船はバイキング船のように見えるんですけど、バイキング船にしては船体がぼてっとしているなぁと思っていたんですよ。 模型を作成したWETAのスタッフは、エンデバー号のボランティア・ガイドの方だとか。
また灰色港の色彩設計はターナーの海洋画を参考にしたとのことでした。 言われてみるとなるほど…と思います。
そして…これは私も詳しい方から教えていただいたのですが、灰色港のシーンで最初に桟橋に立っている第三者…というか、ガンダルフでもエルフ首脳部の皆さまでもないマント姿の人物がいますよね。あの方は船大工のキアダンだそうでございます。 さすが細部まで細かいことです。
それにしては、前の方のシーンで、ウンバールの海賊船は減帆もせずに速度を落として接岸していたりするんだけれども…川の流速があるはずで、いぃのかなぁ…などとツッコミを入れてしまう、私はいぢわるな海洋小説ファン。 そう言えば海洋系のHPで、あそこのシーンで「水夫長」というのが出てきますが、この英語は何?と書いてらした方がありましたが、答えは「ボースン」です。M&C的には「掌帆長」ですね。 この場合は水夫長の方がわかりやすいから良いのではないでしょうか?(オーク海軍なんてないでしょうし) ボースンという役名は帆など装備していない現代の軍艦にもあると聞いていますので、時と所で臨機応変というところでしょうか。
でも…思うんですけど、この「王の帰還」のSEE版は、なんというか… いえ今までの2本(1作目と2作目)はSEEを見るとすーっと話が通ったんです。 映画化のためにストーリーを原作からは改変したところも、それなりに筋が通っていることがわかりました。 ところが今回はどうも…、すっきり筋が通った気がしないのは私だけ???
いやゴンドール執政家親子の確執については、SEEの追加映像でそれなりに話は通ったと思います。 ただ…去年最初に劇場公開版を見た時から感じていた「クライマックスのずれ」と「どこが『王』の帰還かわからない」については、 SEEでは筋が通るだろうと期待していたのですが、少なくとも私的には、特に後者については、筋が通るどころかかえってわからなくなってしまって…。
比べてみると原作の方が、アラゴルンが王であると周囲に認められていくステップがはっきりしているように思うのです。 死者たちに王と認めさせるところは映画でもわかりやすいのですが、王のちからでエオウィンを癒すところは、映画だけではあれが王のちからゆえとはわからない。 一番の問題はパランティアだと思うのですよね。 パランティアをめぐるデネソールとアラゴルンの対比が、アラゴルンの王としての資質を際だたせているのに、デネソールからパランティアのエピソードを削り取ってしまい、アラゴルンはパランティアを通して自らが王であると宣言した筈なのに、このシーンの最後はペンダントが砕け散るという不吉な夢で腰くだけに終わってしまう…これが何を意味するのか、何を意味したいのか私はいまだによくわからないのです。
原作では、デネソールがパランティアに滅びを見て希望を失い、ファラミアを道連れに炎の中で滅びを選ぶのに対し、同じパランティアを見ながらアラゴルンは希望を捨てず、フロドにかけてみようとする。それを聞いた諸侯は、王を王と認め勝ち目の少ない最終決戦に従軍すると申し出る。 これをそのまま映画にしてくれた方が、わかりやすかったと思うのは私だけ?
クライマックスのずれ…すなわち黒門での最後の戦いより、その前のペレンノール野の戦いの方がインパクトが強すぎてどうにも盛り上がらない…は、原作の構成がそうであるから仕方ないとは言えますが、でも映画はそれをさらに加速してしまったような気がするのです。CGを多用したおかげで。
王の帰還を見て印象の強かった戦さ絡みのシーンは何処ですか? 私の場合は、ファラミアが絶望的な戦に出ていく前に、町の人たちが花を投げるところと、セオデン王が剣を打ち鳴らして全軍を鼓舞し「死を!」と叫びながらローハン軍が突っ込んで行くところです。 アクション的には激しい筈のCG戦闘シーンは、見事に左から右へと通り抜けて行ってしまいまして。
人間やはり、CGよりは人間の演技に感動してしまうものではないでしょうか? 「トロイ」が上手くやったのは、最後のクライマックスがトロイの滅亡で、城壁を破られた後は人間同士の戦いになり、国と共に滅ぶメネラオス王が感動をみんな持っていってしまったおかげで、CG臭さがすべて消えてしまったことのように、私には思われるのですが。
なんだか…ロード・オブ・ザ・リングは第一作の「旅の仲間」がいちばんすっきりと話がまとまっていた気がします。 クライマックスが拡散していた原作を、ボロミアを上手く使って筋を一つ通してまとめてくれたような気が。 そうよねぇ、そうだわよ! ボロミアったら、弟の後ろに出て父親を混乱させてる暇があるんだったら、王様の夢枕にでも立って喝の一つも入れて尻を叩けばいいのよ! 彼の語る白の都の夢を聞いて、王様は王様になる気になったんじゃないの? だったらそのエピソードを持ちまわってここでも使えば良かったのに…。
というわけで忙しい中、時間をやりくりしてSEEを見たにもかかわらず、どうにも文句たらたらの管理人なのでした。 やっぱりこれでアカデミー編集賞っていうのは…どうにも納得できない(だからM&Cに編集賞ではないと思うけれども、むしろ「シービスケット」だったかな) 翌年のアカデミー賞も終わっているというのに、あきらめの悪いことで。
2005年03月05日(土)
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