Sail ho!
Tohko HAYAMA
ご連絡は下記へ
郵便船
|
|
Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
DVDを見てわかること
先日の更新で、ステイから飛び降りる艦長の着地音の謎(笑)をご紹介しましたが、丁寧にDVDを見ていると、上映時に感じていた様々な謎に、答えが出てきます。
「ズルしましたね」 オーブリーとプリングスがマストからステイをつたって降りてくるところで、プリングスが「ズルしましたね」って言うんですけど、映画を見ていた時にはこれが、???。英語もちょっと聞き取りにくかったんですけど、英語字幕を見てやっとわかりました。 プリングスは「Foul. You got away before me」と言っています。直訳すると「反則! 貴方は私より先に出発した」これが「ズルしましたね」になっているんです。 どうやら、この艦の最高責任者と次席責任者は、マストのてっぺんからどちらが先に降りられるか競争していたようですね。でもって、どうやら艦長がズルして先にスタートしてしまったので、副長は追いつけなかったもよう。 …なにやってるんですか二人とも、まったく! ほとんど候補生レベル。 ちなみにプリングスのこのセリフには、最後に敬語にあたるsirがついていません。 ですから本当は「〜しましたね」なんて丁寧語にする必要はないのかもしれません(笑)。
「Old Joe said」 ブレイクニーが手術の前に、カラミーに「鼻は縫わないでね」と言うところ。 ブレイクニーはこの習慣をジョーに教えてもらったと言うのですが、サプライズ号の水兵さんに「ジョー」は少なくとも二人います。プライスじいさんと、ネイグルくんです。 ただのジョーだとどっちかわからないのですが、oldがついているので、プライスじいさんだとわかります。 でももちろん、最後の水葬シーンでわかるように、鼻を通して縫ってなんかいません。他の海洋小説でも、私の知る限りでは聞いたことはありません。 プライスじいさん、いたいけな候補生を脅しちゃって…ヨナの呪いと言い、サプライズ号におけるこのお爺さんの存在意義って…。
ところでここ、UK版字幕ではoldがついていないようです。 実はUK版とUS版では字幕が微妙に違うらしい。どうもこの英顔字幕、脚本から起こしているのではなく、実際に耳で聞き取って作成しているようなのです。 US版の方が手がこんでいて、艦の遠景で命令の声だけが聞こえるシーン(誰が叫んでいるかわからない)でも、[Pullings]……、のように、誰のセリフか声を聞き分けて名前が入っているんです。凄いですね。 でもUK版では聴き取れていて、US版では聴き取れてないセリフ…などというのもあるようで、どちらの字幕が良いかは一概には言えないようです。
「You can present one of their off-spring to the king」 最初にガラパゴスに到着したシーンで、艦上から望遠鏡で陸をのぞいているところ。 泳ぐイグアナを発見し「捕まえますか?」と尋ねたブレイクニーに、マチュリンが答えるセリフ。 字幕では単に「国王陛下に献上できる」となっていたと思います。 これを見て「あれ?」と。あのマチュリンが素直に、イングランドの国王陛下に献上…なんて言うのかしら?と思って。…アイルランド人でカトリックの彼の立場はいろいろと微妙ですから。 それがDVDをゆっくり見たら気がつきました。日本語字幕では「You can」の部分が訳出されていないようです。聞き落としていて私も気づかなかったのですが、実は「国王陛下に献上する」の主語はブレイクニーだったんですね。これなら辻褄があいます。 というか、やっぱりマチュリンはマチュリンよね…と安心すると言いますか。
ボンデンが遅れた理由 最後のアケロン号への斬り込みのところ。 艦首部から斬り込む艦長に、原作ではいつもピッタリくっついている筈のボンデンが、今回は出遅れています。アケロンの甲板に飛び降りてからは、追いついてきてすぐ横にいるんですが、一番危険性の高い敵艦移乗の際に側にいないのは変だなぁ…と映画を見ながら思っていました。 この謎が解けたのは、特典ディスクの「マルチアングル」。 この映像特典は、斬り込み時の各自の動きがわかって、なかなか面白い見物です。
アケロン号への砲撃でマストを倒し、斬り込みのため接舷しようとしている時点で艦尾甲板に居たのは、艦長、航海長と二等海尉のマウァット。ボンデンが舵輪についていて、海兵隊長はマストの見張り台の上に居て、狙撃の指揮をとっていました。 そこへ下の砲列甲板から副長指揮する斬り込み要員が上がってくるのですが、甲板に上がってきたプリングスは接舷状況を見、「倒れたマストが邪魔になって、艦首と中央部の二箇所からしか敵艦に乗り移れない」というような内容のことを艦尾甲板の艦長に報告します。 そこで艦長は、自分が艦首から、プリングスとマウアットには中央部からマストづたいに斬り込むように指示を出します。 この時に、実は艦尾甲板に、指揮を引き継ぐブレイクニーだけではなく、実はドクターと助手のヒギンズ、パディーンも一緒に上がってきちゃってるんですね。 砲撃で怪我人が出なかったので、もう病室での仕事は無いと思ったんでしょうか?
プリングスとマウアットは甲板中央部で斬り込み要員を集め始め、艦長も航海長とともに艦首に向かうのですが、その前に艦長は艦尾甲板に残るドクターに、何か指示を与えていきます。 この部分、編集時にはカットされているのため、後から音声の録り直しをしておらず、撮影時にマイクが拾った音声だけなので非常に聞き取りにくい。かろうじて「…pounder to quarterdeck」と聞こえるので、どうも艦尾甲板の砲について指示しているのでは?と。そのあとドクターは助手たちに向かって「…last line of defence」とか言っています。このシーン、どなたか聞き取れた方、いらっしゃいますか?
その間も、サプライズ号はアケロン号に接近していきます。間の海面が更に狭くなり、艦首部では水兵が四つ目錨を投げて相手艦を固定しようとし、中央部ではプリングスが倒れたマストの上に飛び降りて、相手艦に乗り移ろうとします。
そこで、操舵はもう十分と判断したブレイクニーは、舵輪についているボンデンに「もう行ってよし」というような命令を与え、彼を舵取りの仕事から免除してやるんですね。これを聞いたボンデンはいさんで艦長のもとに飛んでいくわけです。 でも艦長はすでに「英国のために! 拿捕賞金のために!」とか叫んで渡り板を半分ほど渡ってしまっていますので、ボンデンは慌てて追いかけていくことになるのでした。
ところでDVD、アメリカでは快調に販売数を伸ばしているようです。 発売3週間の売り上げが400万セットとか。映画の威力ってすごいものですね。 アメリカでは原作が、映画公開前に200万部のミリオンセラーだったのですが、400万という数字はこの2倍です。原作ファンだけではなく、映画からこの作品のファンが増えていることが良くわかります。
日本でもDVDが売れてくれると良いのですが、DVD紹介の一部に、注意を受けた広告表現がまだ残っているのが気になります。 今さらですが、1月に関東の新聞に出た全面広告=ブレイクニーの手紙は偽物だったようですね。 著作権にはうるさいことで有名な配給会社でしたので、まさか他の映画会社の作品の一部を創作するようなことは無いだろう…と1月当時私は思っていて、実際にメイキング本には候補生たちが手紙を書いている写真がありましたので、そのシーンは最終編集時にはカットされたのだと思っていました。 ところが…、確かにDVDでは、手紙を書くシーンがあるのですが、その手紙の内容ときたら…。「船酔いしたので帽子の中に吐いてしまいました。帽子は海水で洗いましたが、まだちょっと匂います」とか。「あなたは息子を誇りに思ってもいいです」とか格好良いことを書こうとしたのに、ブラジルの綴りが違っていた…とかいうシロモノで。 メイキング本と宣伝を結びつけて素直に信じた私が馬鹿でした。和英翻訳と強制徴募の間違いだけは確実なものだったので指摘させていただいたのですが。
さて、東京では明日から1週間だけ、池袋で2本立て上映があります。 ひさびさに大画面のサプライズ号に会えそうです。
2004年05月14日(金)
|
|