さて午後は島へ上陸、ガイド付きバードウォッチング・ツァーです。クルーズ船は島から100メートルくらい離れた水深のある沖に停泊しているので、島までは小型のランチボートで移動。「島の砂は細かくて安全ですから、サンダルは船に置いていってください」と言われます。このボートは船尾が、小型のカーフェリーのような渡り板になっていて、板をパタンと倒すと先端が砂浜に届くので足を濡らさず上陸できるような仕掛けにはなっているのですが。この島にはいったい何万羽の鳥がいるのでしょう?【島は鳥の楽園】島の中央部は完全に鳥の保護区になっていて、ロープの向こうには人間サマの立入が禁じられています。島の中央部、わずかばかりの草地には一面、鳥たちが座っているのですが、これは卵を抱いているのだそうで。そりゃあ、おじゃまするわけにはいきません。【クロアジサシ】立入禁止のロープにちゃっかり止まっているのはクロアジサシ。この島にもっとも多い小型の鳥です。コイツはわりとこちゃこちゃっと飛んでいます。大空を滑空していてカッコイイのはアジサシ。この鳥の名前はかなり昔(子供の頃)から知っていました。「北極のムーシカ、ミーシカ」という児童文学に出てくるんです。北極から南極まで飛んでいく渡り鳥だというので、子供心にもビックリしました。「このアジサシも北極から南極まで行くんですか?」とガイドさんに尋ねたら、「この種類は行かない。でも日本まで飛んでいくのはいるよ」との答えでした。【編隊飛行中】ちょっとフレームがずれてますが、何せ敵は飛行速度が速いので撮れただけでもほめて!【これはバッチリ!】うふふ自信作です。【こちらはカモメ】これもバッチリでしょう?カモメはなかなかイタズラ者のようです。下の写真は「現行犯逮捕!」の瞬間をとらえたもの。右端の奴が卵(たぶんクロアジサシの)を盗んで逃げているのを、左の2羽が追いかけているところ。でも盗難被害者のクロアジサシはお気の毒。クロアジサシって1回に1個しか卵を産まないそうなので、盗まれてしまうと今年の雛はもう期待できないのだとか。【ドロボー!:カモメの現行犯逮捕】【Love Love】愛をささやくクロアジサシ。ガイドさんいわく、クロアジサシって一夫一婦で一生同じペアが連れ添うのだそうです。解説の途中で突然、ガイドさんが「Look!」と叫んで空を指さしました。「フリゲート・バード!」青い空のかなり高いところを、すごい速さで滑空していく黒い翼。か、かっこいい!【フリゲート・バード】 ち、小さい。実際はアジサシよりはるかに大きいんですけどね。でもそれだけ高空なんです。かっこいいです。この鳥。さすがフリゲート・バード。やっぱりこれって、長さ2メートルにも及ぶという翼が帆(セイル)みたいに見えるからなの?日本語ではこれを「グンカンドリ」って訳しているのですが、軍艦にしてははるかにスマートでスピーディなんですけど。ガイドさんに尋ねました。「フリゲート・バードってやっぱり、あの羽が帆のように見えるからなんですか?」昨日、映画館でフリゲート艦サプライズ号を見てきたばかりなので、私の頭から現代のフリゲート艦のことはすっぽり抜けていて、18世紀の帆走フリゲート艦のイメージで尋ねてました。でも間違ってはいない筈よ。この鳥にこの名前がついたのはその当時の頃の筈だから。ガイドさん答えて、「わからないなぁ。そうにも見えるけど、あの鳥はとても攻撃的で、急降下しては他の鳥の卵をかっぱらう…なんてことはよくやるから、それでフリゲートなのかもしれない」攻撃的だからフリゲート? フリゲートが喧嘩っ早いって固定イメージはいったいなんなんだ?これって、いったい、誰が悪いんですか???やっぱり…トマス・コクラン?ジャックの時代に活躍した歴史上の人物として、この日記では何度か話題に出てきていますが、このトマス・コクランというお方とんでもない艦長で、艦隊司令官が攻撃を開始しないのに業を煮やし、わざと挑発して敵に自分の艦を攻撃させ、司令官を救援せざるをえない立場に追い込んで戦端を開かせてしまった…とか、いろいろとありまして…。この鳥の名前の由来については、帰国してからちゃんと調べました。こちらのエンサイクロペディア.によれば「飛ぶ速度が速いので、船乗りがこの鳥をフリゲート・バードと呼んだ」のだそうです。よかった。喧嘩っぱやいからじゃないのね。速いからフリゲート…うん、これは納得。ジャックの愛するサプライズ号の船足。原作3巻に登場するこのシーンは、映画にも漏れなく収録されていて、このシーンのジャックと副長の嬉しそうな顔ったら。でもそうなるとやっぱり、フリゲートバードに軍艦鳥…という日本語訳は適切ではないですよね。現代のイメージで言ったら、これは、さながらアメリカズ・カップに出場するようなレーシング・ヨットのイメージ。いやホントに速くってかっこいいんですよ、フリゲート・バード。…というわけで、「二種類のフリゲートを見る」というこのケアンズ旅行記のタイトルはここに由来しているのでした。さてさて、あっという間にミコマスケイでの滞在時間が終わりとなり、出航時間が近づきました。14時を過ぎるとダイニングルームに紅茶とケーキが準備され、乗客はスタッフに姓名を告げ、乗船名簿の自分の名前の横にサインしてからケーキを受け取ります。これは誰かがケーキを2個とっていかないための用心…ではなくって、全員がミコマスケイから船に戻ってきているかスマートに確認する手段なのです。このためもちろん、ケーキを貰った人は再度上陸禁止です。14時半出航、ケアンズへ。帰りはメインセイルが上がりますが、風があまり強くなかったせいか完全帆走にはなりませんでした(しくしく)。エンジンはかけっぱなし。クルーズ船の場合、スケジュール厳守は至上命令なので、よほどのことのないかぎり風まかせにはならないよう。それでも風の助けを借りた帰路は往路より早く、当初予定より45分早い17時前にケアンズ港着。帰りは説明やスライド上映などのアクティビティが無いので、ずっと日陰の甲板にすわってぼ〜っと海を見ていました。う〜ん、しあわせ。時間に追われる日本の日常から、何もかも解放された感じ。この日はさほど揺れませんでした。もちろん船ですから多少は揺れますけど、東京湾の中央部程度の揺れで外海の揺れではありません。【キャプテン・クックの見た光景?】前方の水平線に陸地が見えてきました。オーストラリア大陸の山ですが、形が形なので島のようにも見えます。とつぜん気がついてしまったのですが、この景色ってキャプテン・クックの昔から変わっていないんですよね。この景色はたぶん、クックが見ていたものと同じ。19世紀の海洋小説を読むようになってから、私はあちらこちらに物語の舞台を尋ねてまわるようなりました。が、ほとんどの場所は200年の間に景色が変わってしまっています。とくにヨーロッパは第二次大戦の影響が大きく、物語の舞台はどこも軍港でしたから爆撃がひどい。一見、時の流れが止まったかのように見えるマルタ島のグランド・ハーバーですら、全ては戦後の再建です。彼らの見たものと同じ光景を見ることのできるのは、もはやこのような大自然の中だけなのかもしれません。やがて前方に一群のビルが姿を現しました。これはクックの見なかった光景…ケアンズの海岸沿いの立つ高層ホテル群です。ケアンズ港着は予定より30分早い17時。これはやはり帆の助けを借りたからでしょうか?船を下りてすぐにLake Streetに走っていきました。お店が閉まる前に海図を買うためです。ケアンズ市内の商店はほとんどが平日18時閉店。いそがないと間に合いません。クルーズ船の操舵室の横に貼ってあった海図が面白かったものだから、航海士さんに海図店の場所を尋ねたのでした。ケアンズの海図店ADAMS CHARTS & MAPSLake StreetのOrchid Plazaの真向かいの細い道を入った右側です。私ったらアームチェアー・セイラー(本を読む専門)のクセして、妙な海図を持っていたりします(ファルマスとか、リオン湾とか)。でも今回は自分で舵をとらずとも、ちゃんと船に乗って行ったルートだから良いですよね。小説を読んでいてお得だなぁと思うのは、旅行をした時に旅先での楽しみが2倍になることです。今回だって、2003年のケアンズだけではなく、18世紀末のグレートバリア・リーフを平行して楽しむことができました。鳥の観察だって、マチュリン先生やマーティン牧師や、古くはアーサー・ランサムのオオバンクラブの皆を知らなかったら、その楽しさがわからなかったでしょうし。また実際に南太平洋を見た上で、海洋小説を読むと実感が違います。ということは3倍に美味しい…ということでしょうか?これからも小説とともに楽しい旅を味わっていきたいと思っています。