其の時の想いを、 口にしたいと。
其の時の雰囲気を、 大切にしたいと。
そう願う故に。
一度放たれた言葉は、 其の場を切り取り形作られた言葉は、 其の瞬時にしか有効に作用しない言葉であり、 勝負は一度きり。
例え其の言葉に、 どれだけの想いを込めようとも。
「聞こえない♪」 「もう一回言って♪」
「駄目。」 「もうおしまい。」
無条件で甘える貴女に、 同じ言葉を同じ量だけ同じ想いで贈る事は、 決して在り得ないのだ。
貴女が地に降りた頃を見計らって、 携帯を握った。
「只今電話に出る事が出来ません。」
例え貴女の声で応答するとは言え、 無情にも貴女の携帯は、 伝言を残せと応えるのみ。
已む無く、 俺の言葉を貴女の携帯に託し、 通話を閉じた。
電話を切った直後に、 貴女から折り返しの電話。
「もしもし?」 「はいはい?」
「電話くれたよね?」 「うん、伝言残したよ。」
「え?入ってない!」 「入れたよ!」
俺が通話を閉じる寸前に、 貴女が電話に出た事で。
折角残した筈の伝言は、 何処かに消え失せてしまった。
次々と携帯に入る、 催促の文。
「小坊主さま♪」 「メッセージが入ってないよぉ!」 「オ・ネ・ガ・イ♪」
俺の伝言を携帯に残せ残せと、 執拗に届く催促。
言葉は生き物であって、 其の時を逃がしたら、 時と共に変化してしまうんだ。
勝負は一度きり。 其れが伝言であっても。 |