敵地。
過去の雰囲気を打破する為に、 過去の男と闘う為に、 今回乗り込んで来たんだ。
小さな彼が残す想いを、 全て消す事は不可能でも。
其の残り香を上回る想いで、 覆い包む事は可能なんだ。
目の前の扉を開ければ、 目の前に小さな彼が姿を現す。
ふと見上げると、 一枚の表札。
未だ貴女があの男の所有物だと、 そう宣言するかの様な苗字。
未だ小さな彼が、 あの男への想いを強く強く握っていると、 そう警告して来るかの様な苗字。
敵地。
貴女から届く文。
「小坊主なら気付いてるよね・・・。」 「嫌な思いさせてしまったんじゃないかって・・・」
貴女の言う通り。
俺は目敏く探知した。 俺が気付かない筈は無いのだ。
けれども貴女は間違っている。
此処は敵地だ。 昔はあの男も居た場所だ。
あの男の名は無くとも、 あの男の威光は、 十二分に凍み込んでいる地だ。
そんな事は百も承知で、 今更嫌悪感を覚える理由にすら成らない、 取るに足らない出来事なのだ。
事実に気付いた直後から、 貴女は行動に移ったけれども。
少しも安心感は増えていない。
「すぐ外したからね。」 「報告終わり!」
俺の想いで無く、 小さな彼の想いは如何なのだろうか。
小さな彼も賛同した事であれば、 きっと安心出来るのだろう。
---------- References Jan.12 2003, 「文字が歳月を見せるのですか」 |