浮付いた邪心を、 俺は未だ身体に宿しているのだろうか。
本気の想いを、 俺は未だ奥底に隠しているのだろうか。
出る筈の無い名前。
自身の心には、 存在する筈の無い名前。
心の底に蓋をして、 想いに目を背けて来た心算など、 皆無なのに。
何故だろう。
目の前に居る雌とは違う名を、 雄が口にする時。
其の理由は、 真の理由は。
いや、 理由より言い訳より。
貴女に突き刺したこの矢を、 どう始末したら良い?
貴女が負ったこの傷を、 俺はどうやって癒したら良いんだ?
あの人。
想いの一欠片も無く、 ただ憧れに似た幻想を一時抱いた、 其れだけの人。
貴女に触れながら、 どうして俺は、 あの人の名前を口にしたのだろう。 |