いつもと雰囲気の違う声。 ワクワクしてどうしようもない声。 喜びを抑え切れない声。
ついさっきまで、 貴女の声は弾んでいて、 貴女は俺の愛しい人だった。
けれども一瞬にして、 現実が目の前に迫って来る。
貴女は母親。
「子供の熱が下がらないの・・・」
明日になれば、 朝が来れば、 熱は絶対下がる。
きっといつもの様に、 元気に玄関を飛び出して行く。
そう強く願いながら、 物分かりの良い返事を返す。
「絶対に無理はしちゃ駄目だ。」 「ゆっくり看病してあげな。」 「迎えに来られなくても良い。」 「何処にでも行くよ。」
俺はそんなに大人じゃない。
貴女が嬉しさを全身で魅せるから、 子供が嫉妬して熱を出すんだ。
何とかして出て来い。
与えられた俺との時間が、 僅かで貴重な時間だと想わないのか?
俺がどう考えようと、 俺がどう想おうと、 そんな事は関係無い。
貴女に逢う為の解答は唯一であり、 他の方法はありえないのだから。
「時間が遅くなっても良い?」
貴女の言葉は嬉しいけれど、 どうしようもなく憎い。 |