「呼吸一間のまほろば」

わたしは結局、日本を愛している。国政に於ける不甲斐無さや曖昧さ。国民性の陰険さ。幾ら理想で現実を美しく彩ろうとしても、腐敗したこの国に自由など無い。精神で幾らかのそれを思うくらいしか無いと、繰り返す日々の隙間に感じている。勿論、自由に生きていられる人も居るのだと思う。けれどそんなものほんの砂粒の数に過ぎない。

心が荒んで息が詰まりそうになると、何処というでもなく見慣れた景色を見渡してみる。独り途方も無く。アスファルトを裂いて生えた足元のタンポポ。眼を上げれば、原色の躑躅が今を疑わず路傍に咲く。カフェの店先に絡まる薔薇のアーチ。汐の芳りを孕み、密かに夏を潜ませた風が背中を追い越してゆく。言葉にはならず、やがて記憶に埋もれてゆくだろう碧瑠璃の空の閉じられゆく様を記憶する。そうして、呼吸の仕方を思い出す。

大丈夫。未だ、日本は美しい。想いの中だけではなく、ちゃんと現実に美しい。ほんの一呼吸の瞬きで全てを感じる事も出来る。世界は無条件に祝福されている。そしてわたしたちは其処に棲む事を許されている。


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