セクサロイドは眠らない

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2004年10月13日(水) 私の腕に体を預けてくる。柔らかな胸が押し付けられる。この無防備さが、男性から好かれるんだと思った。

なんで、ここに?

入社式の日、彼女の顔を見つけて驚いた。彼女も気付いたようだ。

「ああ。久しぶり〜。良かったぁ。ここ、みんな真面目そうで、正直ビビってたんだ。」
私を見るなり、飛びついて来た。

「え?サヤカも、この会社だったの?」
「うん。受付だけどね。でも、ユリは総合職でしょ?すごいなあ。」
「たまたま受かったのがここだっただけよ。」
「やっぱ、ユリは頭良かったもんねー。」
「だからー。他、全部落ちたんだって。」
「ね。ね。今夜さあ。ご飯、一緒に食べにいかない?」
「いいけど・・・。」

変なのにつかまったと思った。中学の時からの同級生。顔は可愛くて、胸も大きくて、だけど勉強は全く駄目な子だった。

--

「でもさー。びっくりだよね。あたし、絶対にユリとは会うことないって思ってた。」
「だからねえ。もう、その話はいいじゃない?」
「嬉しくって。」

サヤカは、心底嬉しそうに私に笑顔を向けてくる。
「あたしは、早いとこカッコイイ子でも見つけて結婚すんの。」
「え?タカとはもう別れたの?」
「ううん。でもさー。田舎帰る気ないし。」
「ひどいわねえ。」
「いいの。いいの。それよか、ユリは彼氏できたの?」
「え?まだよー。」
「じゃ、会社入っていい男捕まえるつもりなんだ。」
「ちょっとやめてよ。」
「あはは。ユリ、頭いいし、美人だし。きっといい子見つかるよ。」

サヤカは笑いながら抱き付いて来た。
「今日、あたし奢っちゃうよお。その代わり、フロアでいい男いたら紹介してねえ。」
「知らないって。」

サヤカはすっかりご機嫌で、私の腕に体を預けてくる。柔らかな胸が押し付けられる。この無防備さが、男性から好かれるんだと思った。

--

寂しがり屋のサヤカに誘われて、私達はそれからちょくちょくご飯を一緒に食べた。

ある日のこと。

「ねえ。聞いてくれる?」
サヤカが、頬を上気させている。

「なに?」
「あのねえ。営業一課のイシカワさん。こないだ誘われちゃったー。」
「え?ほんと?」
「うん。本当!」
「ちょっとー。いいの?タカのことは。」
「いいよ。」

営業のイシカワといえば、さわやかを絵に描いたような男性で、憧れている女の子も多い筈だ。

「ああいうのが好みなんだ。」
「あー。ユリは違うの?」
「うん。ちょっと頼りない感じかな。」
「さすがだな。」
「で?どうやってイシカワさんを落としたの?」
「やだなあ。その言い方。マツダ商事の専務に口をきいてあげただけよ。そしたら、お礼だって。」

内心イライラしていた。サヤカの、女を使ったようなやり方は嫌いだった。

「ごめん。サヤカ。今日、頭痛くて。」
「え?大丈夫?」

その日は、早々に切り上げることになった。サヤカが心配して部屋まで付いてこようとするのを断って、一人タクシーで帰った。

--

「最近、イシカワさんとはどうなの?」
と、訊ねる。

「どうって・・・。うーん。何も進展なしってとこかな。ご飯は一緒に食べるんだけどね。他の男の子と違うのよねえ。キスもしないんだから。あたしのこと大事にしたいって。他の子なら、ちょっとお酒入ったらすぐ胸揉んだりするんだけど。あ。えとね。ユリの課の課長も、この前飲みに行ったら、私の胸触るんだよ。スケベだよねえ。」
「課長が?」
「そうだよ。真面目そうな人なのにねえ。人は見かけによらないってねえ。」

私は、苛立った。

「どうしたの?」
サヤカが訊ねる。

「うん。や。課長がそんな事するって、意外だなって。」
「ユリ、真面目だもんねえ。一回、ハメ外してみたらいいよ。あの課長も、結構、好き勝手言ってさあ。仕事を都合してやるから、うちの課に来るか、なんてねえ・・・。」

私は、吐きそうだった。

「ねえ。ユリ。大丈夫?」
「え?ああ・・・。うん。」
「ユリ、美人なんだしさ。もうちょっと笑ったら、きっとモテるよ。」
「そうね・・・。」

分かってることなのに。男がそんな生き物だってことも。女を武器に世渡りを上手くすることがどんなにつまらないことかも。だけど、その時、私はとてつもなく損をしている気分だった。

--

その日、課長に呼ばれた。

「なんでしょう?」
「今日ね。事業部長が来るんだ。」
「はい。」
「でね。きみ、相手してくれないかってね。」
「私が・・・、ですか?」
「ああ。きみだ。きみならちゃんとやってくれるだろう。」
「ありがとうございます。」
「ああ。それとね。ちょっと時間あげるから。その服、何とかして。スカート丈とか。」
「服ですか?」
「そう。ちょっと堅苦しいしね。」
「分かりました。」

胸がドキドキしていた。チャンスかもしれない。私がどうしてもやりたいプロジェクトがあった。だが、男性でもない私がそのプロジェクトを任される可能性は皆無に等しかった。

私は、その時サヤカを思い浮かべていた。

サヤカが、男達に胸を揉まれながら笑っている姿を。

チャンスは滅多にない。

私は、自分に言い聞かせた。

--

「お。今日は、きみがお相手をしてくれるのか。やあ。ヨシハラ課長が女の子を出すって言ってたのは、きみのことだったんだねえ。」

事業部長は、笑顔で私を手招いた。

「今日は、よろしくお願いします。」
「ああ。堅苦しいのはなしだ。」

部長の取り巻きが一緒に笑った。

私は、短めのスカートを気にしながら一緒に笑った。

私は、あらかじめ予定された店を案内しながら、事業部長の視線を感じていた。二軒目、三軒目、と進むにつれ、事業部長の取り巻きは減っていった。

大丈夫。もう覚悟は決まっている。

最後の店では、部長は私の手を握り、カラオケで声を張り上げた。

「いや。君みたいな子と一緒だと、私も気分が若返るねえ。」
部長は笑った。

私は、その時、プロジェクトのことを口にした。

--

吐き気がするのは、二日酔いのせいだけではない。

昨夜のおぞましいこと。

私自身が交換条件を出した形で、私の体を売った。

その日、私は課長に呼ばれた。新しいプロジェクトを任せる、と。そう言われた。異例のことだよ、とも。

--

社内では、その話で持ちきりになった。

皆、ひそひそと何か噂している。

ねえ。あの子、体で仕事を手に入れたんだってね。

きっとそう言われているに違いない。

頭を上げていなくては。決して、うつむいてはいけない。

--

サヤカだけが、素直に祝ってくれた。
「ユリ、やるじゃん。」

グラスを合わせる。

「ありがとう。」
「でもさ。すごいよね。」
「何が?」
「事業部長の相手って、結構大変なんでしょ?」
「大変って・・・?」
「いろいろ噂は聞くんだけどさあ・・・。あ。ごめん。」

サヤカが笑っている。サヤカまでが、笑っている。

私は、一緒に笑うしかなかった。こうなったら、笑って、笑って、私自身を笑い飛ばすしかなかった。

--

それから一年。

例のプロジェクトが終わるとすぐ、私は仕事を辞め、田舎に帰った。幼馴染と再会して、結婚。小さな商店を手伝っている。

サヤカはといえば、営業のイシカワさんとゴールインした。イシカワさんは順当に昇進し、同期では誰より早く課長に昇進した。くやしくないと言えば嘘になる。私は、サヤカに負けた。所詮、私は、女を武器にすることに関して、サヤカに負けたのだ。

それでも私は、分相応ということをわきまえている。

夫はやさしい。都会で傷付いた心に触れないように、気を遣ってくれている。来年には子供も生まれる。だから、私は幸福なのだ。きっと、幸福なのだ。誰が何と言おうと・・・。

それなのに、なぜ、私は泣いているのだろう。なぜ、サヤカからの写真付ハガキをビリビリに引き裂いて泣いているのだろう。


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