セクサロイドは眠らない
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2004年09月21日(火) |
明らかにそれに心惹かれていた。私は、ささやいた。「噛んで。」恋人は驚いて、少し動きを止めた。 |
生まれた時から、それはそこにあった。
最初は気付かないぐらい。
柔らかな肉の下で、それもまだ生まれたばかりだった。
それは、もう、私が2歳になった頃には随分と成長していて、そのことで私は何度も病院に連れて行かれた。
母が時に涙ぐんでいたのを知ってる。
私は、だけど、それがそんなに嫌いじゃなかった。本能的に感じていたのだ。人は、私じゃなくて、それを見る。って。
つまり、人は私じゃなくて、それを愛するのだ。
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目の前にいるのは、初めてキスをした相手じゃなかった。だけど、キスより先に進もうとするのはこれが初めてだった。
私はノースリーブのワンピースにショールを羽織っていた。そう。彼と二人で食事する時、ショールをはずす。彼はそれを見ないようにするが、あきらかにそれを気にしている様子だ。
彼はそれについて口にするような品のない男じゃない。だが、品の良い男に限って、ひどく歪んだ妄想を抱いていたりするものだ。
「そろそろ出ようか。」 彼が立ち上がる。
私は、ええ、とうなずいて、彼の表情に隠された興奮を探す。
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私の左肩には瘤(こぶ)がある。今じゃ、猫の顔ぐらいの大きさだ。別に痛くはない。小さい頃からあった。2歳の頃にはピンポン玉くらいになっていたので、両親は私を病院に連れて行った。医者は、まだ幼いので外科手術は無理でしょうと言ったらしい。小学生になってから手術を考えたほうがいい、とも言ったそうだ。
小学校に上がった時には、さらに瘤は成長していた。学校はミッション系スクールで、あからさまないじめはなかった。担任のシスターが私をとても気に掛けてくれていたのもあるだろう。もちろん、ちょっとしたいじめはある。小学生なんだから仕方ない。ただ、私は、私を気遣ってやさしくしてくれる子に囲まれていながら、私を嫌って遠ざけようとする子のほうが正直だと感じていた。
私はすごく綺麗な顔をしていたから、男の子のほうが私にやさしくしてくれた。瘤があると、人は私をとても可哀想に思うようだ。だから、格別にやさしくすることに誰も抵抗がない。私は、幼い頃からそれをよく知っていた。顔が綺麗なだけでは、ここまで周囲が私を愛してくれないことを。
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両親とはその後、何度か病院に行った。結局、肩の神経を傷付ける恐れがあるので手術はしないでおきましょう、と、医者は言った。母は泣いた。少々腕が不自由になってもいいから、瘤を治してやりたいと。そんな風にも言って泣いた。
だが、最終的に、医者に瘤を取りたいかと訊かれた私は、いいえ、と答えた。
瘤は、とても美しかった。綺麗な曲線を描き、真っ白に輝いていた。それを傷付けるなんてとんでもないと思った。
母は病院からの帰り道、あなたは強いのねえ。と、感心したように言った。
私は何も答えなかった。
自分が強いのかどうかなんて少しも分からなかった。
ただ、瘤がなくなってしまうのが怖かったのだ。
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体育は見学している方が多かった。別に、瘤が恥ずかしいとかではなく、日焼けするのが嫌だったのだ。
私は、どんどん美しくなり、瘤もどんどん成長していった。
私は、それを美しいと感じていた。だから、体を隠すよりは露出するほうを選んだ。人がそれを見てはっとした顔になるのを観察するのが好きだった。
高校に入った頃には、母ももう、私のことをあまり心配しなくなった。
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恋人は、私の服をゆっくりと脱がせた。そして、首筋から肩に掛けて、ゆっくりと口付けた。
彼は、明らかにそれに心惹かれていた。
私は、ささやいた。 「噛んで。」
恋人は驚いて、少し動きを止めた。 「何を?」 「私の肩。きれいなこの子。」 「噛んでも大丈夫かな?」 「やさしく、なら。」
彼は、うなずいて、私の白く丸い肩にそっと歯を食い込ませた。
「もっと強く。」 「血が出ちゃうよ。」 「いいの。」
彼の歯型から血が滲み出すと、彼はすっかり興奮して、私の左肩を愛し、私を愛した。
私の、白く丸く美しい肩は、そんな風にして恋人を受け入れた。
全てが終わって、彼がそっと肩に唇を付けて来た。 「痛くしてごめん。」 「いいの。」
いいの。そうして欲しかったんだから。
そんな風に言うのは、誤解されるだろうか。処女が、こんな風に体を愛して欲しいと望むことははしたない事だろうか。
「私、愛ってよく分からないの。」 目を閉じている彼に、言ってみた。
「僕もさ。」 「あなたみたいに沢山の女の子を知ってても?」 「ああ。知れば知るほど分からなくなる。いや。知れば知っただけ、愛があるってとこかな。」 「それは全部同じなの?」 「いいや。違う。僕はさ、愛って、相手の歪みを受け入れることだって思ってるんだ。僕も、きみも。ほら、とても歪んでる。」 彼は、そういって、また、身を起こし、私の肩に歯を食い込ませてきた。
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彼の車で家まで送ってもらった。
「今日はありがとう。」 私は、言った。
「こちらこそ、ありがとう。素敵だったよ。」 彼は言った。
彼は、ハンサムで、たくさんの女の子と遊ぶのが好きだ。
私は、20歳になったばかりの誕生日を過ごす相手として、彼を選んだ。
初めて会った時、彼だ、と思った。私は、彼に訊いたのだ。 「ヴァージンだけど、寝てくれる?」 って。
彼は少し驚いたようだけど、いいよ、と笑って答えてくれた。
その時、私、こんなだけど、いいかしら?って。わざと、シャツの胸元のボタンを外して、左肩を見せた。
「もちろんさ。素敵だ。」 と、そっと、肩に触れてくれた。
あの瞬間、彼は私に恋したと思う。
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彼は、たくさんの女の子とデートしている。
今日もこの後、誰かの携帯にメールしてるかもしれない。
それでも構わなかった。
私には瘤があるから。
左肩が、どくんどくんと、熱い。
肩の痛みが消えた頃、私はまた彼に電話するだろう。
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